日産ジューク 16GT FOUR(4WD/CVT)【試乗記】
もうひとつの顔 2010.12.01 試乗記 日産ジューク 16GT FOUR(4WD/CVT)……296万1000円
個性派コンパクト「日産ジューク」に、4WDのターボモデルが登場。スポーティさをウリにするトップグレードの実力は、どれほどのものなのか?
おじさんもグラリ
2010年6月のデビューから5カ月、これまで1.5リッターのみだった「日産ジューク」に1.6リッターが加わった。新しい直噴4気筒ターボを積む「16GT」系で、FFと4WDがある。GTと名が付くターボのスポーツバージョンがあとから加わるなんて、「なつかしの国産車ニュース」という感じがする。しかもトップモデルの4WDは「16GT FOUR」と呼ばれる。ジーティーフォー? かつて「トヨタ・セリカ」でヒットしたスポーツ四駆の名前ではないか。
そんな昔話を知っている古くからのクルマ好きにとって、実際、ジュークは出たときからなんだか妙に気になるクルマだった。カッコはそれぞれ“好み”だが、ぼくは好きである。このスタイリング、フトした拍子に「中国製のクルマか!?」と思うこともあるが、フトした拍子にすごくカッコよく見えることもある。「嫌われたってべつにいいよ」という強い意志と若さが感じられて、おじさんは応援したくなる。
5カ月間で約2万台と、国内の販売はメーカーの予想以上に好調だが、これまでのユーザー層をみると、20〜30代のコア・ターゲットだけでなく、上は50代、60代の高い年齢層にまで支持されているという。しかも、国産車としては珍しく、赤がいちばん売れているそうだ。年齢を問わず、このクルマで“自分を変えたい”という人が買ってくれているのではないか。開発者のひとりがそう分析した。
スポーティ“っぽい”
試乗したのは16GT FOUR。「まるでスポーツカーを操っているような楽しさ」を追求したとうたう1.6リッター・シリーズの目玉である。
リアにマルチリンクを新採用した足まわりは、1.5リッターに比べると歴然と硬い。17インチタイヤのゴツゴツ感もある。走り出すなり、スポーティモデルの気配が床下から伝わってくるクルマだ。
新しい直噴ターボは190ps。自然吸気の1.5リッターより一挙に76psもパワーを上乗せされたのだから“走り”は活発だ。変速機は6段マニュアルモード付きのCVTである。
だが、200ps近いパワーから想像して、もっとスゴイかと思ったら、それほどでもなかった。ターボユニットにしては、エンジンに明確なトルクの山がない。さらにこの「エクストロニックCVT-M6」は1.5リッターモデルに採用された新しい副変速機付きとは異なる。加速中はエンジンを高回転にキープして「いつもより余計に回ってます」という感じを与えてしまうちょっと古いタイプのCVTだ。いっそのことMTを用意してもらえないだろうかと思った。
効き目のわかる新技術
4WDジュークの技術的ハイライトは、駆動系に与えられた「トルクベクトル」機構である。リアに電子制御カップリングを備え、後輪左右のトルク配分も行う。前後のトルクが100:0から50:50の範囲で変わるのに加え、後輪も左右が100:0からゼロヒャクまで分配される。1.8リッター以下では世界初の装備だという。
可変トルクスプリットの模様は計器盤の小さなモニターで知ることができるが、実際の効果はワインディングロードで体感できた。とにかくアンダーステアを感じないクルマである。車重はFFより90kg重い1380kg。1.5リッターモデルからは210kgも太っているのに、コーナリングはあっけないほど素直だ。ノーズの重さも感じなければ、お尻のかったるさもない。よく考えると、車重1.4トン以下で190psといえば、そうとうな高性能車である。にもかかわらず、旋回中に少しもジャジャ馬感を与えない。4輪の駆動制御がうまくいっている証拠だろう。
CVTのセレクターが立つセンターコンソールは、バイクのタンクをイメージした独特の形をしている。その塗装はボディ色にかかわらず赤とシルバーが選べるが、ジュークを買うなら赤でしょ。そうかと思えば、左右フロントフェンダー上面にポジションランプを配したために、運転席から自分のライトが見える。そんなクルマ側からの自己主張が強いのもジュークの特徴だ。単に使いやすいだけの道具じゃなくて、実はみんなクルマにもっと強い個性を主張を求めている。もっと歌ってよと。ジュークが予想以上に売れているのは、そのへんを示唆しているんじゃないだろうか。
5カ月前、エコカー減税対象の1.5リッターモデルに乗ったとき、とくにパワー不足は感じなかった。月面車ふうルックスのSUVなのに、乗り心地が滑らかなことにも好感を持った。だから、個人的には1.5リッターで十分である。さりげなくヤング・アット・ハートを装うのには1.5リッターモデルの軽やかさが合っている。190psのリア・トルクスプリットはたしかに魅力だが、ジュークというクルマがウケているのはそういうことじゃないよなあという気もする。
(文=下野康史/写真=高橋信宏)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。