ポルシェでもフェラーリでもない! 3000万円の「日産GT-R」を買うということ
2024.04.03 デイリーコラム「NISMO 400R」は2億円超
最高峰の「NISMO」とはいえ“「GT-R」が3000万円超えかよ!”と驚いた人は多かったはず。もちろん、私も含めて。けれどもそんなことはやっぱりお構いなしに案の定というかMY24へのオーダーは殺到した。
もちろんその背景には投機的な動きも見え隠れしている。MY22のNISMOが出たときには業者オークションで5000万円を超え、今でもほとんど未使用の個体であれば6000万円、つまり倍の値段で市場に出回っているというのだから、むべなるかな。中古のNISMOを探そうとネットで検索してみれば2019年式でもなんと3000万円弱。最新にしてひょっとしたら最後の新車が3000万円なら“安い”と思ってしまう人がいて当然だろう。
そのうえ“日産のGT-R”に対する世界的な興味の高まりがある。なんといってもBNR34「スカイラインGT-R」の人気がすさまじく、最終モデルの「Vスペック・ニュル」のローマイレージともなればNISMOと同じ6000万円前後という相場感だ(ほとんどインバウンド相場だが)。しかも“NISMO”というブランドの人気も高まっていて、例えばBNR34の「NISMO Zチューン」は億超え確実、BCNR33ベースの「NISMO 400R」に至っては2億を軽々と超えていく。最新で最後の“GT-R&NISMO”のいわば人気ブランドのWネームが新車で3000万円と聞いて、安く思う富裕層(=絶対損をしない人たち)がいたとしても不思議じゃない。
誰だって安く買って高く売りたい
結局のところ、コロナ禍でいっそう広がった富の偏在がこの手の投機的要素を強めているというわけで、そんな値段でも欲しい人がいる(という市況にある)からこその値づけだといってしまえば、それはそれで理屈が通ってしまう。需要と供給がモノの値段を決めるというアレだ。クルマ好きが納得できるかどうかは別にして。
NISMOを2台ふつうに買えたタイミングで借金してでも買っておけばタダで1台持っておけたわけだから、こんなにおいしい話はない(などとコロナの最中に予測できた人はほとんどいなかっただろうし、いたとしても結局のところそれはGT-Rに対する情熱の発露でしかなかったはずだけれども、それはさておき)。
どんなクルマ好きだって結局は“安く買って高く売りたい”と思っているものだ。もうからないよりもうかったほうがいい。当たり前だ。そこは基本として絶対ある。投機目的じゃなくても、一般的な心情として必ずある。
だから買えるチャンスがあったはずなのにもはや買いたくても買えないクルマのことをああだこうだと批判したところで何も始まらない(コレクターアイテムは大抵そうだ)、という元も子もない大前提をあえて先に記しつつ、それでもGT-R NISMOに3000万円の価値がある理由を経済面以外で突き詰めてみよう。
そもそもが安すぎた
確かに日産GT-Rは、デビュー当初の2007年からしばらくの間、777万円で買える世界最高性能という驚愕(きょうがく)の事実が最高の魅力だといってよかった。加速スペックひとつをとっても、例えば0-100km/h加速で3秒を切ろうと思えば、2023年の現在でも4000万円級スタートのスーパーカーを狙うほかない。NISMOがデビューした10年前なら、それは5000万円級だった。2000年代に至っては名前も知らないような特殊な超少量生産モデルばかり、有名ブランド品でも「ブガッティ・ヴェイロン」や「マクラーレンP1」といったハイパーカーのみという状況だったのだ。
要するに日産GT-Rはパフォーマンスに対して安すぎた。コストパフォーマンスが良すぎたのだ。そもそも年産1500台規模の、専用プラットフォームを持つ2ドアスポーツカーである。スーパーカー級のハイパフォーマンスをまだしも民主化したといえる「ポルシェ911ターボ」や「シボレー・コルベットZR1」と比べれば“地力”の差が大きい。何せベースモデルの年間生産台数をみればコルベットで3万台、911に至っては5万台だ。この量産性があるからこそ、さまざまな高性能グレードを気前よく出せているし、何度も、そして大胆なモデルチェンジもできる。
生産規模だけで比較するなら、例えば最新のフェラーリであれば12気筒の2シーターモデルが日産GT-Rと同じくらいで性能的に見てもほぼ互角だろう。けれどもアチラは軽く5000万円オーバーで、実勢価格はというと倍の6000万円だ。同じ6気筒ながらプラグインハイブリッドのミドシップカー「296GTB」も最新テクノロジーで素晴らしいパフォーマンスをみせるが、今や4000万円級である。
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商品価値に値段が追いついた
もちろん、そもそものブランド価値や基本設計の新旧、シリンダー数の記号性など、違いは歴然としてあるのだけれど、いってしまえばそれだって“好みの問題”である。マラネッロよりヨコハマが好きだという人が広い世界にたくさんいたって不思議じゃない。逆にいうと好みの問題だといってしまえるほどにGT-RやNISMOというネーミングの持つ価値がこの10年でかなり高まった。立派なブランドになったのだ。
R35 GT-Rが登場したとき、そこまでのブランド力はなかった。なにせ日産というジェネラルブランドがつくった高性能モデルである。本当は1500万~2000万円という値づけが妥当だった。でもそこは大衆車メーカーのサガで、そんな大それたことなどできなかった。やったところで販売店もついてくることはできなかったはずだ。だからその半額で出すことに意味はあったし、意義もあっただろう。血のにじむ努力=コストの切り詰めがなされた。それは何かを日産に残した。そして私たちは激安の商品を大いに楽しんだのだ。
例えばポルシェやフェラーリの最新モデルを買うけれど、GT-Rもついでに買った、というお金持ちのように。つまりは同じ価値観でもって比較されるようになってきた。
時代が変わったということだ。世間の評価が上がるにつれ、そしてもちろん時代の物価や需要にも合わせつつ、自らその価値を高めてきた。価値ある(と思ってくれる人が大勢いる)モノづくりを実践する立場に自分がなって考えてみれば、それが当たり前のことに思えてくるのではないだろうか。
(文=西川 淳/写真=日産自動車、ポルシェ/編集=藤沢 勝)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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