第853回:果ては「ランボルギーニ・ウラカン」まで!? イタリア式クルマ景品最新事情
2024.04.04 マッキナ あらモーダ!日本とは対照的に……
ここのところ、本連載では「イタリアにおける中国車」「逆走事故」といった真面目なテーマが続いたので、今回は楽しい話題を。
昨今日本のウェブサイトを閲覧すると、自動車そのものが当たる懸賞が少ない。2024年4月1日に筆者が見つけた数少ない例は、ある住宅会社による「ホンダ・オデッセイ」と、リゾートホテルの「ルノー・カングー」といったところである。
これは、生活スタイルの変化や居住都市の事情から、もはや「自動車をもらっても困る」という消費者が増えていることを反映したものであろう。代わりに目立つのは、「◯◯車の72時間モニター」「◯◯車で行く旅」といった試乗体験が当たるものだ。本数が百~千本のものが多くみられることからして、あわよくば購入につなげてもらおうというメーカーやインポーターの意図がみてとれる。
いっぽう、筆者が住むイタリアでは、今日でも試乗キャンペーンよりも、クルマそのものが当たる懸賞が目立つ。
イタリアで2024年3月31日はキリスト教のイースター、すなわち復活祭だった。それに合わせてスーパーマーケットに並ぶものといえば、卵型のチョコレートである。イエス・キリストの復活=生命を象徴するものとして実際の卵を使った「イースターエッグ」が転じて、チョコレートで卵型をつくるようになったのである。大きな商品では全高1m以上におよぶものもある。店舗によっては、チョコ卵を森のように積み上げて陳列する。話が長くなったが、そうしたチョコ卵にも、たびたびクルマの懸賞付きがある。
スーパーマーケットやショッピングモール自体が自動車の懸賞を企画している例も、頻繁に見かける。大きな店舗だと実車を入り口付近に展示し、アイキャッチとしている。
ではいったい、どのようなクルマが賞品となっているのか?
グリーンな企業イメージにも貢献
近年に筆者が発見したものに加え、2022年からイタリアの懸賞検索サイト「ディンミ・コーザ・チェルキ」に掲載されたものの一部を紹介しよう。
- ジープ・レネゲードeハイブリッド(2022年3月 スーパーマーケット:イタリアで販売されている同車はフィアット500Xと同じイタリアのメルフィ工場製)
- フィアット500e(2022年7月 ソーセージ)
- フィアット500e(2022年9月 健康食品チェーン)
- オペル・モッカe(2022年10月 コンタクトレンズ)
- テスラ・モデル3(2022年11月 スーパーマーケット+冷凍食品会社)
- フィアット・パンダ(2022年12月 移動体通信会社)
- BMW X1プラグインハイブリッド(2023年2月 ディスカウントスーパー)
- フィアット500e(2023年3月 リュックサック)
- フィアット500e(2023年5月 コンビーフ)
- フィアット500e(2023年6月 スーパーマーケット)
- フィアット500e(2023年6月 ショッピングモール)
- ジープ・アベンジャー100%エレクトリック(2023年12月 スーパーマーケット)
- テスラ・モデル3(2024年1月 ショッピングモール)
- MINIクーパーSE(2024年3月 ディスカウントスーパー)
- トヨタ・アイゴX(2024年3月 衛生用品:アイゴXは欧州市場専用のコンパクトカー)
- スズキ・イグニス(2024年3月 ミネラルウオーター)
ここからわかるのは、「パンダ」と「アイゴX」を除き、すべてが電気自動車(EV)もしくはプラグインハイブリッド車であることだ。そうした懸賞のほとんどには、環境に優しい企業のイメージを訴求する文言が、大なり小なり加えられている。
定番はあの人気車種
しかしながら、なんといっても1等賞品となる自動車の王者といえば「フィアット500」である。前述のサイトでは2022年以降、同車を賞品とした懸賞が18件見つかる。
実際に、筆者が日常生活で通うスーパーマーケットで目にする懸賞も、その多くがフィアット500である。
背景には、提供する側である企業として安価で用意できること、かつたとえマイルドハイブリッドであってもエコ感が強調できることがある。さらに、イタリアは人口1000人あたりの自動車保有率が684台と欧州連合内で最も高い(出典:Eurostat)。
そうしたなかで500は、万一当選しても維持費などでさして困らない。加えて、パンダと並んで“イタリアのトラバント”的存在であるから好き嫌いが少ない。ゆえに消費者の関心を集めやすいのである。参考までに、イタリアでは自動車に次ぐ賞品がスクーターやeバイクという例も頻繁にみられる。このあたりからも、イタリアの懸賞が実用本位であることがわかる。
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最高の「貧乏くじ」と思ったら
例の卵型チョコ売り場でも、フィアット500を特賞にした商品が定番になりつつある。販売しているのはイタリアの著名ブランド「ノーヴィ」である。
そうかと思えば、別のメーカーによる卵型チョコで、「ランボルギーニ・ウラカン」や「ウラカンEVO」がプリントされた商品を発見した。これはとびきりゴージャスだ。
しかし仮に筆者に当たったら、直後に売却してフィアット500を買うだろう。なぜならイタリアでウラカン(最高出力449kW)の年間自動車税は、基本税1609ユーロに加え、185kW以上の車両に課せられる事実上のぜいたく税(スーペルボッロ)5280ユーロが加算され、合計は6889ユーロ(約112万円)となる。このスーペルボッロは、製造年を基準として、5年・10年・15年後に段階的に税率が低くなり、20年後には課税されなくなる。それでもけっして安いとはいえない。日本の自動車諸税は高いといわれるが、高級車に乗る人にとって、日本はまだまだ天国なのである。おっと、文頭に記した意思に反して今回もやはり真面目な話になってしまった。
ところで、こんな貧乏くじのような商品を企画して誰が買うのか? と思って、よく見ると、本物のウラカンが当たるのではなかった。チョコを割ると中にウラカンの64分の1ミニカーが入っていることが記してあって、安心した筆者であった。
(文と写真=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/編集=堀田剛資)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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