テスラ・サイバートラック(4WD)【海外試乗記】
目立ちたがり屋のためのクルマ? 2024.04.17 アウトビルトジャパン 「Tesla Cybertruck(テスラ・サイバートラック)」は目立ちたがり屋とアバンギャルドのためのアクセサリーなのだろうか? サイバートラックほど話題の電気自動車(BEV)はないが、ほとんど誰も乗ったことがない。私たちはそのピックアップにテキサスで試乗した。※この記事は「AUTO BILD JAPAN Web」より転載したものです。
普通じゃないピックアップトラック
フレデリックスバーグ方面の牧場にいても、ニューブラウンフェルスで初期ドイツ移民と一緒にいても、オースティンのダウンタウンにいても、テリーブラックのおしゃれなバーベキュー店の前にいても、テキサスはピックアップトラックの国だ。少なくとも3台に1台は「フォードF-150」「シボレー・シルバラード」「ラム1500」であり、時折テスラのサイバートラックがそこに現れる。イーロン・マスクの最新モデルはテキサスの首都のすぐそばの生産ラインから転がり出ており、2023年の11月以来、一握りの顧客が納車のために毎日工場を訪れている。
そのうちの一人がシャヒーン・バディヤンで、彼は5年前の注文受け付け開始初日にサイバートラックを注文した。テスラ自身はすべての試乗に反対しているが、ソフトウエアのスペシャリストである彼は、説得に応じ、私たちに数時間だけクルマを貸してくれた。
だからわれわれは、ここにいる誰もが彼に抱くのと同じ好奇心を持って、このエキセントリックなBEVに近づいている。テキサスでは普通のピックアップトラックには誰も振り向かないが、サイバートラックはみんなの注目を集める。通行人は信号待ちで立ち止まり、防弾ガラスと思われる窓をノックし、高速道路を走る他のドライバーは携帯電話を取り出して、撮影のための最高のカメラポジションを確保しようと競争する。そして、クルマから降りればどこでも会話に巻き込まれる。
![]() |
サイバートラックはスペースカウボーイである
全長5.70mというサイズはかなり控えめで、サイバートラックはF-150よりもわれわれの「フォルクスワーゲン・アマロック」に近い。しかし、ブルドーザーのように高く平らなフロントエンドにより、道路上で皆の尊敬を集める。力強いグリルとたくましい脇腹を持つクラシックなピックアップのなかで、フラットなパネルと鋭角に近いエッジを持つステンレススチールのアーマーは、まるでスペースカウボーイが天の川で出口を間違えたかのように見える。
しかし、オーナーには悪いがサイバートラックの魅力を損ないたくなければ、そんなに近くで見てはいけない。納車から1週間たっても、バディヤンのサイバートラックには、テスラのフォーラムで大騒ぎになっているさびは見当たらない。しかし、自慢のオーナーが常に磨いているにもかかわらず、鋼鉄はさまざまな色合いで輝き、いつもいたるところにシミがある。そう、板金作業の精度が違うのだ。
新旧のピックアップトラックの世界の違いは、特にインテリアで顕著だ。サイバートラックは修道院の独房のようにシンプルな内装だが、それに比べてフォードやシボレーなどは豪華なアームチェアやソファ、分厚いレザー、クロームメッキのトリムで、移動するリビングルームのように見えてくる。
また、スクリーンの数(テスラには大型のものが1つ、新型ラムには半ダース)についてはまだ議論の余地があるかもしれないが、サイバートラックには、半世紀の間に成熟した実用的な美点がすべて欠けている。大きなフラットベッドと小さなフランクだけでは、ピックアップは実用的な商用車にはならない。
![]() |
ベースモデルは6万0990ドル(約915万円)
そんなことはどうでもいい。少なくともシャヒーン・バディヤンにとっては……。結局のところ、彼は農民でもカウボーイでもなく、サイバーセキュリティーで稼いでいる。そして、彼が最初のeドライバーの一人だからだ。
現在6万0990ドル(約915万円)といわれているベーシックモデルは、リアアクスルにモーターを1基搭載し、航続可能距離400kmのバッテリーを搭載するだけで、おそらく早くても来年まで発売されないだろう。また、2.6秒というクレイジーなスプリントタイムを持つ最高出力845PSの「サイバービースト」は、まず9万9990ドル(約1500万円)という途方もない値段であり、次に、今のところホメオパシーのような台数しか納入されていないため、バディヤンは7万9990ドル(約1200万円)のAWDモデルを運転している。車検証には607PS、航続可能距離は547kmと記されている。
テスラはバッテリーの容量を教えてくれなかったが、バディヤンは、100kWhはあると推定している。いずれにせよ、彼は最初の2週間でまだ空の状態で運転していない。また、スーパーチャージャーが本当に250kW出力を供給できるのかどうかもまだ試していない。もちろん「マツダMX-30」の発電機付き内燃エンジンのようなレンジエクステンダーは存在しないが、バッテリーパックを追加することで航続距離が200kmも延びる。
バディヤンから暗証番号を告げられた私は、携帯電話と同じように画面に入力したあと、ギアレバーを探し回って恥をかいた。サイバートラックのシフトは、「モデルS」や「モデルX」のように、スクリーン上で操作する。
スクリーン左上隅でクルマを前方にスワイプすると、サイバートラックは一瞬にしてイーロン・マスクが言うところの自動車石器時代から未来へと私を連れ出してくれる。そして、ポンデローサ牧場のベン・カートライトは、銀河系を旅するカーク船長になる。8気筒エンジンのけたたましい音の代わりに聞こえるのはギーギーという音だけで、私はあっという間にテキサス州の制限速度に達した。
この猛獣のようなサイバートラックは、0-100km/hが4.3秒で十分速い。そして、F-150などが通常160km/h程度に制限されているのに対し、サイバートラックは180km/hまで達することができるという事実も悪くない。
![]() |
慣れが必要なステアリング
しかし、その直後、熱狂は冷めてしまう。というのも、エアサスペンションはエントリーハイトを下げたり、オフロードでの最低地上高を40cm以上にしたりするのには実用的かもしれないが、路面の凹凸に追従できず乗り心地がいいとはいえない。
適度なサスペンションの快適さだけでは物足りないかのように、ステアリングにも慣れが必要だ。可変ステアリングレシオと適度なフィードバックを備えたドライブバイワイヤ技術の組み合わせ、非常に顕著なリアアクスルステアリング、20インチホイールとずっしりしたグッドイヤー製タイヤ、そしてほとんど直角のステアリングホイールのせいで、特に市街地走行では、不快なほど角張った運転操作を強いられる。
オースティンで半日を過ごした後では、このシルバーの変わり種がテキサスのどこにでもあるクルマとして、またF-150、シルバラード、ラム1500に取って代わる、あるいは少なくとも本格的な追加車として登場することを想像するのは難しいが、オースティンは郊外に工場があるにもかかわらず、単に場所が悪いだけなのだろう。次回は、NASAの本部があり、宇宙まで見渡せるヒューストンに行くことにしよう。おそらくサイバートラックは、カウボーイたちのいるところよりも、宇宙飛行士たちのいる場所のほうが、歓迎されるだろう。
結論
もちろん、サイバートラックは魅力的なクルマであり、何よりも目を見張るような主張がある。そしてその先鋭的なデザインは「ランボルギーニ・ウルス」を圧倒する。しかし、アメリカで日常的に使われるクルマというよりは、目立ちたがり屋やアバンギャルドな人たちのためのアクセサリーだ。
(Text=Thomas Geiger/Photos=Thomas Geiger、AUTO BILD)
![]() |
技術データと価格
テスラ・サイバートラックAWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5683×2201×1790mm
ホイールベース:--mm
車重:2995kg(乾燥重量)
駆動方式:4WD
パワーユニット:電動モーター
最高出力:607PS(447kW)
0-100km/h加速:4.3秒
最高速:180km/h
航続距離:547km(推定)
ラゲッジコンパートメント容量:3423リッター
価格:7万9990ドル(約1200万円)
記事提供:AUTO BILD JAPAN Web(アウトビルトジャパン)
![]() |

AUTO BILD 編集部
世界最大級のクルマ情報サイトAUTO BILDの日本版。いち早い新車情報。高品質なオリジナル動画ビデオ満載。チューニングカー、ネオクラシックなど世界のクルマ情報は「アウトビルトジャパン」でゲット!
-
【ニュース】高性能を誇るBMWのラグジュアリーエステート「M5ツーリング」が復活! その魅力とは? 2024.9.6 高性能サルーン新型「BMW M5」に続き、そのワゴンバージョンたる新型「M5ツーリング」が登場。ユーティリティーからスリルまで幅広いニーズをパーフェクトに満たす“スーパーワゴン”とは、どんなクルマなのか?
-
MINIクーパーSE(FWD)【海外試乗記】 2024.8.21 電気自動車でも内燃機関車でも、常に「クーパー」と呼ばれるようになった新型MINIのハッチバック。価格にデザイン、パワーユニット、装備、そしてドライビングテストリポートと、新しくなったMINIクーパーの全情報をお届けする!
-
スズキ・スイフト(FF/5MT)【海外試乗記】 2024.8.20 世界で900万台以上が販売されてきた大人気モデル「スズキ・スイフト」。7代目となる新型は、海外でどのように評価されているのか? これまでの成功をさらに発展させることを目指し、スズキが投入した小さな巨人に、『AUTO BILD』のスタッフが試乗した。
-
スマート#1ピュア(RWD)/#1ブラバス(4WD)【海外試乗記】 2024.8.20 続々とラインナップを拡大している、スマートブランドのフル電動SUV「スマート#1」とはどんなクルマなのか? その価格とデザインからパワーユニット、イクイップメント、試乗した印象まで、すべての情報をお届けしよう。
-
【ニュース】電動ルノー・トゥインゴの最新情報 2024.8.15 ルノーの電気自動車(BEV)を手がける新会社アンペアが、2025年にコンパクトBEVとして「トゥインゴ」を復活させる。初代トゥインゴを想起させるデザインや価格、そしてパワーユニットまで、現時点でのすべての情報をお届けする。
-
NEW
第844回:「ホンダらしさ」はここで生まれる ホンダの四輪開発拠点を見学
2025.9.17エディターから一言栃木県にあるホンダの四輪開発センターに潜入。屋内全天候型全方位衝突実験施設と四輪ダイナミクス性能評価用のドライビングシミュレーターで、現代の自動車開発の最先端と、ホンダらしいクルマが生まれる現場を体験した。 -
NEW
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】
2025.9.17試乗記最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。 -
NEW
第85回:ステランティスの3兄弟を総括する(その3) ―「ジープ・アベンジャー」にただよう“コレジャナイ感”の正体―
2025.9.17カーデザイン曼荼羅ステランティスの将来を占う、コンパクトSUV 3兄弟のデザインを大考察! 最終回のお題は「ジープ・アベンジャー」だ。3兄弟のなかでもとくに影が薄いと言わざるを得ない一台だが、それはなぜか? ただよう“コレジャナイ感”の正体とは? 有識者と考えた。 -
NEW
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代
2025.9.17デイリーコラムトランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。 -
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。