ディスカバリー・スポーツ ダイナミックHSE P300e(4WD/8AT)
すべてが心地いい 2024.04.22 試乗記 デビューから間もなく10年を迎える、ジャガー・ランドローバーのエントリーSUV「ディスカバリー・スポーツ」。同門の「ディフェンダー」などと比べるとイマイチ影の薄い存在だが、乗ってみればすべてが絶妙に調律された、じつに心地よいSUVとなっていた。改革が進む“JLR”のブランド体制
ご承知の向きも多いように、英ジャガー・ランドローバー社は、昨2023年6月からロゴを「JLR」をかたどったものに変更した(社名そのものは変わっていない)。と同時に、もともとの出自となる自動車メーカー名による2ブランド戦略から、JLRの下にジャガー、レンジローバー、ディフェンダー、ディスカバリーという4つのブランドが同列でぶら下がる「House of Brands(ハウスオブブランズ)」という新しいアプローチに取り組んでいる。
このうち、ジャガーのセダンやステーションワゴン、クーペの生産は終えており、ジャガーは来年にも完全な電気自動車(BEV)ブランドに生まれ変わる予定とされている。もっとも、欧州のBEVを取り巻く現状(参照)を考えると、「Fペース」と「Eペース」のプラグインハイブリッド車(PHEV)はもう少し生き延びるかもしれない。
いっぽう、レンジローバー名義には現在「ヴェラール」や「イヴォーク」も含めた3車種、ディスカバリー名義のそれには2車種があり、ともに今のジャガーに劣らない数のラインナップを持つ。また、現在は1車種のみのディフェンダーにも、2027年ごろに小型BEV版が追加されるとのウワサだ。
この記事の主題はディスカバリーブランドのエントリー車種であるディスカバリー・スポーツ(以下、ディスコスポーツ)である。同車は2015年発売で、 JLRとしては最古参機種ということになる。
今回の試乗車となったのは、2023年6月に受注が開始された2024年モデルの最上級となる、PHEVの「P300e」である。トリムグレードは「ダイナミックHSE」の1種類のみ。従来と比較するとディスコスポーツのラインナップも整理されたが、2024年モデルの日本仕様では、これ以外に2リッターディーゼルターボの「D200」が1グレード、同ガソリンターボの「P250」が2グレード存在する。
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操作系のデジタル化による弊害も
このカタチをしたディスコスポーツ自体はすでに10年選手に近づきつつあるが、2019年秋に受注開始した2020年モデルでは、内外装デザインはほぼそのままに、 最新世代のプラットフォームにごっそり入れ替えるというフルモデルチェンジなみの大改良を受けている(参照)。ちなみに、ディスコスポーツと基本骨格設計を共有するEペースでも、同時期に同様の改良が実施されている。
さらに今回の2024年モデルでは、内外装デザインがアップデートされた。外装はグリルやバンパーインテークの意匠変更にとどまるが、内装は大刷新といっていい。JLR最新のインフォテインメントシステム「Pivi Pro」を搭載したことで、従来のエアコン調整パネルもタッチディスプレイに集約。インパネに残されるハードスイッチはスターターボタンとハザードだけになった。同時にシフトセレクターも電気式の小型ノブに変更された。
というわけで、運転席まわりは一気に新しくなったが、乗り味や路面に応じて選択可能なドライブモード、「ハイブリッド」「エレクトリック」「セーブ」が用意されるパワートレイン制御も含めて、すべての設定がタッチパネルを介して下階層に入り込まないと操作できなくなったのは、ちょっと面倒くさい。
シートに座って一見するかぎりは、PHEV化にともなう空間的な不利はとくにない。セカンドシートのスライド機構も健在で、身長178cmの筆者でも、ヒザまわりや頭まわりは余裕たっぷり。しかも、前席より小高いスタジアムポジションで、見晴らしも良好だ。荷室の眺めも大きくは変わらず、床下にはフルサイズのスペアタイヤ(はオプション)もおさめられる。ただ、実際には、ディスコスポーツの大きな特徴だった3列シート仕様が、PHEVでは用意されない。最大の原因は後席下にリチウムイオン電池が搭載されるかららしい。
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2.2tの車重に対して力不足は感じない
最新のディスコスポーツPHEVの走りは、いかにも熟成が進んでいて、じつに心地よい。20インチ低偏平タイヤに固定減衰ダンパーの組み合わせもあってか、乗り心地は絶品とまではいかないが、しっかりとストローク感がある。現代のクルマとしての正確性と姿勢変化の少なさと、オフロードにも対応した本格SUVらしい穏やかな所作をドンピシャに両立した調律はお見事。こうしたサジ加減はさすがランドローバーというほかない。
搭載されるパワートレインは、イヴォークやEペースのそれと基本的に共通だ。フロントにパワーの源となる1.5リッター3気筒ガソリンターボが、8段ATとベルト駆動マイルドハイブリッド機構を組み合わせて置かれる。いっぽう、リアには最高出力109PS、最大トルク206N・mのモーターが配される。
さらに後席下に総電力量15kWhのリチウムイオン電池があり、満充電時のEV走行距離は66.1km(WLTCモード)をうたう。フロントはモーター単独走行不可能なマイルドハイブリッド構造なので、EV走行時は後輪駆動となるのも、イヴォークやEペースと同様だ。
いかにモーターと組み合わせられるとはいえ、2250kgという車重に1.5リッターエンジンでは不安を抱く向きもあるかもしれないが、その点はまったく心配無用である。最新の直噴ターボなので、1.5リッターといっても200PSという最高出力と280N・mの最大トルクは自然吸気の2.5~3リッター級で、そこにモーターを組み合わせたシステム最高出力は309PS、同最大トルクは540N・mに達する。実際にもパワー不足を感じる瞬間はまるでない。また、エンジンが回っているときはリアモーターも稼働する4WDが維持されており、モーターのアシスト効果もあってか、ハイチューンターボにありがちな過給ラグ的なアクセルレスポンス遅れも皆無だ。
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ライバルは身内にあり
いかにも3気筒なエンジン音を「1000万円超の高級車なんだから」とネガティブにとらえたくなる気持ちもわかる。ただ、耳に届く音量自体はしっかり抑制されている。また、これがまるでスポーツカーのように俊敏なEペースならエンジン音にこだわりたくもなるが、全体にゆったりとした身のこなしのディスコスポーツにかぎれば、牧歌的な3気筒サウンドが似合う……と、肯定的に思ってしまうのは、筆者がだまされやすい素直な性格のせいか。
それにしても、個人的に数年ぶりの試乗となったディスコスポーツは、エクステリアデザインはさすがに見慣れ切った……としかいいようがない。しかし、新しいプラットフォーム、最新プラグインハイブリッド、そしてインターフェイスが刷新された運転席まわりなど、乗り味や操作性はまるで古さを感じさせない。すべてが心地よいリズム感に統一された身のこなしは、ある意味でランドローバー伝統の古典的な味わいだが、すべてが絶妙なので、今の感覚でもなんともちょうどいい。
……と、クルマの完成度は高いディスコスポーツだが、上級のディスカバリーも含めて、販売台数ではレンジローバー系やディフェンダーに明確に及ばないのが、JLRの課題だそうだ。ディスコスポーツにしても、イヴォークのほうが、似たような車格ながら明らかに人気が高いという。
理由はなんとなくわかる。もともとレンジローバーに対して、ディスカバリーは実用的でドロ汚れが似合うポジションだったが、今はそこにディフェンダーがいる。今後のディスカバリーは「より日常的でファミリー向け」といったキャラクターを打ち出したいらしいが、人気者のディフェンダーとの明確なちがいを表現すべく、いまだに試行錯誤が続いているとか。しかし、今回のディスコスポーツの心地よさを味わうと、なんとも愛おしい気持ちになる。ディスカバリーブランドには、生き残るための確固たる居場所を見つけてほしいと思う。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
ディスカバリー・スポーツ ダイナミックHSE PHEV P300e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4610×1905×1725mm
ホイールベース:2740mm
車重:2250kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
フロントモーター:同期クローポール型モーター
リアモーター:三相永久磁石同期型モーター
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:200PS(147kW)/5500-6000rpm
エンジン最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/2000-4500rpm
フロントモーター最高出力:54PS(40kW)/7000-8500rpm
フロントモーター最大トルク:63N・m(6.4kgf・m)/5300rpm
リアモーター最高出力:109PS(80kW)/1万rpm
リアモーター最大トルク:260N・m(26.5kgf・m)/2500rpm
システム最高出力:309PS(227kW)
システム最大トルク:540N・m(55.1kgf・m)
タイヤ:(前)235/50R20 104W M+S/(後)235/50R20 104W M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:12.4km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:66.1km(WLTCモード)
交流電力量消費率:219Wh/km(WLTCモード)
価格:1016万円/テスト車=1116万2080円
オプション装備:コンフォートパック(17万7000円)/MERIDIANサラウンドサウンドシステム(3万円)/Wi-Fi接続<データプラン付き>(8万2000円)/20インチフルサイズスペアホイール(11万7000円)/ClearSightインテリアリアビューミラー(12万8000円)/20インチ“スタイル5089”<グロスダークグレイ、ダイヤモンドターンドコントラスト>(13万7000円)/プライバシーガラス(6万3000円)/ルーフレール<ブラック>(3万2000円)/コールドクライメートパック(13万2000円)/コンフィギュラブルダイナミクス(4万6000円) ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(5万8080円、工賃別)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1192km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:561.2km
使用燃料:56.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.9km/リッター(満タン法)/9.6km/リッター(車載燃費計計測値)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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