アストンマーティン・ヴァンテージ(FR/8AT)
楽しみ尽くせるスーパースポーツ 2024.05.17 試乗記 大幅なパワーアップとともに徹底的に走行性能が磨かれた、アストンマーティンのスーパースポーツ「ヴァンテージ」。果たして、その進化の到達点は? スペイン・セビリアの道で最新型の実力を確かめた。マクラーレンとロールス・ロイスも意識
アストンマーティンは英国屈指の老舗グランドツーリングカーブランドである、というのが一般的なクルマ好きの認識だろう。貴族的な、という修飾語を好む方もいらっしゃるかもしれない。ところが今の経営陣はそんなポジションでは飽き足らず、さらなる高みへとブランドの価値を引き上げる戦略を推し進めている。
ズバリ、狙うポジションはブリティッシュブランドが最も得意とする二極=パフォーマンスとラグジュアリーを高いレベルで両立したブランド。もっとわかりやすく言えば(そして実際にプレゼンテーションでもそう言っていたのだが)、現在のアストンマーティンの方向性に、マクラーレンのパフォーマンスとロールス・ロイスのラグジュアリーを足して3で割ったようなブランドへのアップグレードを狙っているというわけだ。
すでにその戦略は着々と実行に移されている。プロダクトでいえば「DB12」がその端緒となった。スタティックなクオリティーが大幅に上がったと同時にパフォーマンスも大いに進化した。
プロダクトだけじゃない。ブランドイメージの向上にも力を入れている。まずパフォーマンス面でのアピールといえばF1活動だ。今後はマクラーレンやフェラーリのようにF1参戦イメージを一層活用することだろう。次にラグジュアリー面でいえば、例えば日本では超高級ホテルにオーダーメイドシステムの拠点にもなるランドマークショールームを開設するなど、ブランド価値の伝え方に工夫を凝らす。
重責を担う一台
そんなアストンマーティンにとって2024年はブランド価値向上への試金石というべき重要な年になるだろう。4種類のシリーズモデルが出そろうからだ。DB12と、インテリアをブラッシュアップして見栄え質感を上げた「DBX」に、本記事の主役である「ヴァンテージ」(マイナーチェンジ版)、そしてまだ見ぬフラッグシップモデルである。
先だって新開発V12ツインターボユニットが発表された。結局、アストンマーティンもまたV12を諦めることはなかった。2024年後半にもデビューするとうわさされる「DBS」の後継モデル(順番からいうと「ヴァンキッシュ」と名乗るだろうか?)に搭載される。
新型ヴァンテージはDBXと並んで販売の主力モデルとなるゆえ、新たな戦略においてもその成否の鍵を握る。果たしてその実力と進化はいかに? スペインはセビリアで開催された国際試乗会に参加して確かめてきた。
マイナーチェンジの手法そのものは「DB11」からDB12のときと同じだ。フロントマスクとインテリアを大胆にグレードアップすると同時に、パワートレインとシャシーの性能を大幅に引き上げてきた。DB12はスポーツカーとしても一級であると同時に最高のGT=スーパーツアラーを目指していたが、ヴァンテージは従来型にはなかったラグジュアリーイメージをDB12に近いレベルで付加したうえで、スポーツカー色がいっそう濃くなるようにドライバーとの一体感を高めるべく開発に注力したという。
座っただけでも進化がわかる
パワートレインそのものは基本的にDB12と同じだと思っていい。モデルの特性に合わせてチューニングされたメルセデスAMG製V8ユニットは、最高出力665PS、最大トルク800N・mと従来型に比べ驚くほどの大幅アップを果たした。組み合わされる8段ATも変速時間を短縮するなどスポーツカーらしさの演出にこだわってリセッティングされている。
もちろんボディーやシャシーの改良にも抜かりはない。ボディー剛性の強化は言うにおよばず、トレッドの拡大や新たなEデフの採用、最新のシャシー制御など多岐にわたっている。
セビリア郊外のサーキット、モンテビアンコで実物をじっくり観察する。従来型に比べて4割近くも開口部を広げたという凸グリル、新たなマスクデザイン、30mmも拡幅されたグラマラスなボディーに、ショートホイールベースのスタイルが相まって、伝説の限定モデル「One-77」の弟分のようにも見えた。日本で人気のシルバーでも見た目のインパクトはかなり強烈だ。
もはやアストンの伝統となったやや上方開きのドアを開けて乗り込めば、どう猛なエクステリアとは打って変わって中はラグジュアリーな雰囲気が漂っている。見た目の雰囲気はDB12に負けず劣らず、物理スイッチを多く残しながらもモダンに仕上げるという“ユーザー思い”に感心する。着座位置もかなり下がった。ラグジュアリーであると同時にスポーツであることをコックピットに座った瞬間から実感する。
まずは山間のすいたカントリーロードをドライブする。従来型で良くもあしくも前面に出ていたヤンチャな印象はもう感じられない。インテリアの見栄え質感とライドコンフォートがそう思わせるのだろう。デフォルトのドライブモードは「スポーツ」で、シャシーはしなやかによく踏ん張り、アシの動きがとてもクリーンで安心できる。強くなったボディーのおかげだろう。コーナーでは思いどおりのラインを自在に描ける。アクセルオフでのノーズの向きの変化が自然で楽しかった。ひとことで言うと“曲がることがとても好きになる”スポーツカーだ。
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心満たされるマシン
ドライブモードを「スポーツ+」にスイッチして攻め込むと、途端にスパルタンになった。制御が利くと上下左右の細かな動きがリアアクスルに出て、常に神経を使う。やはり後輪にかかるパワーがすごいのだ。
緊張を強いられるよりも、一般道では脈拍を上げない程度の領域でマシンとの対話を楽しむほうがよさそう。ちょっと速めのクルージング程度にとどめておけば、ドライバーは制御を恩着せがましく感じることもなく、あたかも自分の技量のうちで走らせているかのごとき感覚でドライビングを楽しむことができる。これもまた新時代のドライバーエンゲージメントのあり方だといえそうだ。
一般道を3時間ほど堪能したのち、いよいよその実力をサーキットで解放する。まずはドライブモードをスポーツ+にし、シャシー制御も利かせたまま、オートマチックで走らせてみた。一般道より相当に高い速度域(ストレートでは250km/h)で走り続けると、トルコンオートマチックやカーボンセラミックブレーキに若干の疲労が出る(この日は路面温度も40℃以上と暑かった)ものの、総じて楽しいFRスポーツカーであることに終始した。
サーキット走行において重宝したのがESPの介入レベルを調整する機能「アジャスタブル・トラクション・コントロール」だ。8段階に調整可能で「1」が最小。いろいろ試してみた結果、半ばの「5」か「6」を使ってある程度リアを滑らせてコーナーをクリアしたほうが面白いし扱いやすかった。タイトベントの立ち上がりなどではリアアクスルの上下動もきれいに抑え込まれ、気持ちよく走らせることができる。
ワインディングロードでもサーキットと同様、V8エンジンは常に力強くヴァンテージの前進を支えてくれるはずだ。吸排気サウンドにも工夫が凝らされて、課題であった官能性も感じられるようになった。
新たな境地を目指すアストンマーティンにとって、魅力的な最量販スポーツカーが誕生したといっていい。
(文=西川 淳/写真=アストンマーティン/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
アストンマーティン・ヴァンテージ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4495×1980×1275mm
ホイールベース:2705mm
車重:1745kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:665PS(489kW)/6000rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2750-5000rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21/(後)325/30ZR21(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:12.1リッター/100km(約8.3km/リッター、欧州複合モード)
価格:2690万円/テスト車=--円 ※価格は日本仕様車のもの
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロード/トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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