アストンマーティンDB12ヴォランテ(FR/8AT)
まさに菩薩である 2024.07.15 試乗記 「アストンマーティンDB12ヴォランテ」は美しいボディーの内部に680PSもの最高出力を誇るV8エンジンを搭載している。もちろんパワーを使い切る楽しみもあるが、たまにはのんびり走ったっていい。そういう気持ちにさせる最新のオープントップGTである。初めからカッコよかった
アストンマーティンDB12のオープンモデル、DB12ヴォランテは超カッコいいのである。なぜカッコいいのか? その前の「DB11」が超カッコよかったからだ。DB11の前の「DB9」も、その前の「DB7」も、もちろん最初のヴォランテを生んだ「DB5」も、そしてその前の「DB4」も男前だった。アストンマーティンにはハンサムの血が流れている。
ちなみに「Volante」とは、イタリア語で「飛ぶ」という意味である。ご存じアルファ・ロメオの1950年代のレーシングカー、通称ディスコ・ヴォランテは“空飛ぶ円盤”、不世出のレーシングドライバー、タツィオ・ヌヴォラーリの別名マントヴァーノ・ヴォランテは“天翔(か)けるマントヴァ人”である。アストンマーティンはDB5の2座オープンに“天翔けるDB5”と名づけたのだ。
DB5ヴォランテの登場は1965年というから、DBのヴォランテは2025年で60年を迎える。DB12もまた、もともと硬い屋根があるのに、それを惜しげもなくスパッとぶった斬っている。そうして、8層構造とはいえ、見た目はファブリック製の、自動で開閉可能な幌(ほろ)を装着しているわけだ。
三匹のこぶたの物語でいうと、レンガの家の屋根をわざわざ布に取り換えて開閉式につくり変えていることになる。オオカミなんか怖くない。と、うそぶきながら、太陽の光と新鮮な空気を満喫する。幸いにしてアストンマーティンは家ではなくて自動車である。都会にいてもリゾート気分。リゾートに行けば、リゾート気分はさらに高まる。ああ、なんとぜいたくな。その刹那主義というのか、快楽主義がDBヴォランテをますますもってカッコよく見せる。
その最新モデルたるDB12ヴォランテのなんと美しいことか。ひと目あったその日から恋の花咲くこともある。しかして、『パンチDEデート』というよりは、オヨヨ。最近、韓流ラブコメにハマっている筆者としては、チョアヘヨ(好きです)。サランヘヨ(愛してます)。と告白したい感じです。もっとも、今回、待ち合わせ場所の中央自動車道・石川SAで、DB12ヴォランテと初めてご対面した際はことばが出てこず、ぼうぜんと唸(うな)るのみだった。う~ん。
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自前で調達した最新のコックピット
基本的には2016年デビューのDB11である。2805mmのホイールベースは同じだし、古典的なそのシルエットもほぼ同じだ。だけど、デイタイムランニングライトのLEDを含むヘッドライトの形状が異なる。アストン伝統の凸形の格子状グリルがグッと大型化されている。タイヤ&ホイールは20インチから21インチに履き替えている。すなわち、目が違う。口が違う。どっちかというとうりざね顔だったDB11より、顔立ちが男らしくなっている。それと足が違う。タイヤが違う。ホイールが違う。新しいアダプティブダンピングシステムと「Eデフ」なる電子制御デバイスを採用してもいる。これらは外からは見えないけれど、見えない部分も含めた細部のアップデートが全体の細胞を再活性化している。そういう気がする。
ドアを開ければ、ダッシュボードからして全面、ソフトでゴージャスなレザーで覆われている。この試乗車の場合、スペシャルなセミアリニンレザーが選ばれている。ドアの内張りは、丁寧なステッチが施されたレザーと、同系色のウッド、それにスピーカーを守る銀色の金属製の網という3種類の異なる素材でできており、その丁寧な職人仕事にしばし唸る。う~む。
コックピットはまったく新しい。DB11はダッシュボード中央にATセレクターの丸型のボタンが横一列でいくつか並んでいた。筆者の記憶では、フォード傘下に入っての「V12ヴァンキッシュ」(2000年発表)以来の特徴だったけれど、それをスッパリやめ、レバー型に改めてセンターコンソールに配置している。アストンマーティンのにわかドライバーでも、Dのボタンはどれ? Rはどこ? と探す必要がない。オーナーは別として、こっちのほうが断然操作しやすい。
ドライバーの眼前のメーターが液晶ディスプレイになり、ダッシュボード中央にはもうひとつ、10.25インチのディスプレイが鎮座している。このインフォテインメントシステムはハードウエアのサプライヤーとゼロから自社用に開発したものだそうで、その出来栄えについては時間の制約もあってつまびらかではないけれど、アストンマーティンのように小さな自動車メーカーがデジタル方面にも積極果敢に投資しているという事実にあらためてギョッとする。
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680PSを後輪のみで受け止める
幌は14秒で開き、16秒で閉じる。およそ50km/hまでなら、向かい風でも操作できる。信号待ちでも気楽に開け閉めできる。急な雨にも安心だ。日本の制限速度の範囲だと、高速道路でもキャビンに風が侵入することはほとんどない。それくらい空力は徹底している。長い髪の持ち主でも快適かつ優雅に過ごすことができるにちがいない。
動力性能面でのポイントは2つある。その1はエンジンの大幅なパワーアップだ。メルセデスAMGの職人がひとりで一基を丸ごと組み立てる3982cc V8ツインターボは、アストンマーティン独自のチューンにより、最高出力680PS/6000rpm、最大トルク800N・m/2750-6000rpmを発生する。振り返ってみると、DB11は510PS/6000rpm、最大トルク675N・m/2000-5000rpmにすぎなかった。DB12は先代比で33%増にして、本家「メルセデスAMG GT63 4MATIC+クーペ」の585PSを軽々と上回る。
アストンマーティンには「DBX707」なるスーパーSUVがあり、こちらの4リッターV8は707PSと900N・mを絞り出す。DB12を707チューンにしなかったのは、4WDのDBXとは異なり、後ろのタイヤ2本で途方もない駆動力を受け止めねばならないからだろう。それにしたって、680PSと800N・mの後輪駆動だ。さぞや、バケモノにちがいない。
実際、バケモノであった。少なくとも筆者には。蛮勇を振るってアクセルを踏み込むと、高速領域でも一瞬リアが躍る。Eデフを含む、トラクションコントロールだとか、その他の電子制御デバイスが作動しているはずなんだけど、そういう気がする。あ。忘れていたけれど、先述したアダプティブダンピングとEデフ、それに21インチのメーカー認証「ミシュラン・パイロットスポーツS 5」が、DB12における運動面でのポイントのその2だ。
無理に踏まなくたっていい
踏んだら、めちゃんこ速いはずである。メーカーが主張する最高速はDB12クーペと同じ325km/h、0-100km/h加速は3.7秒。究極のオープントップスーパーツアラーである。タイヤは前:275/35、後ろ:325/30という超極太偏平の異サイズで、ともにZR21とものすごくデッカい。荒れた路面の一般道だとワンダリングする気配がある。しかもオープンである。オープンというのは硬い屋根で守られていない。三匹のこぶた、危うし。心情的には裸も同然。まして筆者は小心者である。踏むのがコワイ。ボディー全体のねじり剛性は、アンダーボディーの部品を変えることで、DB11ヴォランテから3.7%アップ。ステアリングコラムとフロントアクスルを強化することで、ステアリングフィールを大幅に向上させてもいる。ということだけれど、う~む。あいにく筆者にはそういう細かいところまでは分からないのでした。
分かるのは、記憶のなかのDB11クーペより乗り心地が引き締まっていることだ。率直に申し上げると硬い。河口湖周辺の一般道はわりと荒れているところがあって、そういうところだと、上下に揺すられる感がある。ドライブモードは、標準にあたる「GT」モードで十分。「スポーツ」、さらに「スポーツ+」に切り替えれば、V8エンジンがボウボウッと雄たけびをあげ、ダンパーがキリキリと引き締まる。私的にはスゴすぎる。一般道でこれ以上アクセルを踏み込むなんて行為は……、ま、今日はこれくらいにしておこう。という気分になる。試乗車は車両価格3190万円もする、現代の工芸品でもある。
こういうときには、徳大寺有恒さんがおっしゃっていたことばが有効である。ドライバーにはアクセルを踏まない権利がある。それは権利なのだ。美しいグリーンに囲まれながら、のんびり走る。それでも、どこか浮世離れしていて、地に足がついていない感がある。私には分不相応だからか。いやさ、これぞヴォランテのゆえんか。『山口百恵は菩薩(ぼさつ)である』は未読ながら、こんなタイトルが浮かんでくる。天翔けるDB12。アストンマーティンDB12ヴォランテは菩薩である。
(文=今尾直樹/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アストンマーティンDB12ヴォランテ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4725×1980×1295mm
ホイールベース:2805mm
車重:1940kg
駆動方式:FR
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:680PS(500kW)/6000rpm
最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)/2750-6000rpm
タイヤ:(前)275/35ZR21 103Y XL/(後)325/30ZR21 108Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:12.2リッター/100km(約8.2km/リッター、WLTPモード)
価格:3190万円/テスト車=3190万円
オプション装備:--
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:4371km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:400.6km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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