お値段は998万円から 新型「ポルシェ・マカン」は高いのか安いのか?
2024.07.31 デイリーコラム内燃機関モデルよりも136万円高い
完全な電気自動車(BEV)として登場した新型「ポルシェ・マカン」の予約注文が開始となった。単に「マカン」とだけ呼ばれるエントリーモデルは998万円。果たしてこれが高いのか安いのか。もうちょっとマカンない? と、お願いしたとして、ではいくらマケてもらったら安いと感じるのか?
ご存じのように、これまでのマカンも内燃機関モデルとして継続販売されており、こちらは862万円からである。果たしてこれは高いのか安いのか?
それらを考えるきっかけとするために、内燃機関のマカンとプラットフォームを共有する「アウディQ5」と比べてみよう。新しい電気マカンの「PPE(プレミアムプラットフォームエレクトリック)」は新型車「アウディQ6」と共用している由だけれど、それについて語るにはQ6の上陸を待たねばならないこともある。
現行アウディQ5はディーゼルのみゆえ、ここでは「SQ5」を比較の対象とする。SQ5は2994ccのガソリンV6ターボで、このV6は最高出力354PS、最大トルク500N・mを発生。最高速度は大書していないので無視して、0-100km/h加速は5.4秒というホットハッチ並みの加速性能を持つ。
エントリーモデルでもパワフルな電気マカン
このスペックに近い内燃機関のマカンは「マカンS」で、こちらはボアは同じでもストロークがちょっと短く、排気量は2894ccと100cc小さい。なのに、ショートストロークでよく回って、最高出力380PS、最大トルク520N・mを発生する。トランスミッションは、マカンSは7段PDK、SQ5は8段ティプトロニック(トルコンAT)で、マカンSはスポーツクロノパッケージ装着車ならずとも0-100km/hが4.8秒と、SQ5を置いてけぼりにする加速性能を持っている。これで価格は1104万円。ポルシェはオプションが豊富だから、ここからどんどん足していくことができるけれど、話が込み入ってくるので、ここでは車両価格のみで比較するとして、一方のアウディSQ5は963万円である。マカンSとの価格差は141万円。同じプラットフォームで、同じような排気量のV6ターボ搭載モデルでも、ポルシェとアウディではこれだけ違う。これが高いのか安いのか? という判断は保留するとして、アウディと比較してのポルシェの技術料とのれん代、ブランド料を数字で表したもの、と仮定してみよう。あくまで仮定です。
さてそこで、エレクトリックの新型マカンのエントリーグレード(998万円)は、リアにだけ電気モーターを備える後輪駆動で、4WDではない。つまり内燃機関のマカンのような高速スタビリティーも、あるいは雪道での性能も期待できない。という弱点がある。
ところが、このモーターは存外強力で、最高出力360PSと最大トルク563N・mを発生する。むむむむ。2リッター直4ターボのマカンの265PS、400N・mを軽く上回る。0-100km/hは電気マカンが5.7秒、内燃機関マカンは6.4秒、スポーツクロノパッケージ装着時でも6.2秒で、ここに電気マカン(998万円)が内燃機関マカン(862万円)より価格が上位にある理由が見いだせる。
価値ある47万円
でもって、さすがはポルシェ。998万円の電気マカンはアウディSQ5よりパワフルでトルキーな数字になっていて、おまけに高価なバッテリーを搭載しているのだから、963万円のSQ5より35万円高いのもうなずけないこともない。車重が重いため、0-100km/hが5.7秒にとどまり、SQ5より0.3秒遅いのは多少悔しい。という気はする。電気になってもポルシェはポルシェであってほしい。アウディに負けていてはアカン。イカンぞ。オカンにいうぞ。
そういうひとたち向けに「マカン4」がある。フロントアクスルにもモーターを備えるマカン4は当然4WDで、2基のモーターを合わせて最高出力408PS、最大トルク650N・mを発生。0-100km/hは5.1秒と、SQ5を圧倒するパワーとトルクと加速性能を持っている。これで価格は1045万円と、マカンと47万円しか違わない。う~む。安い!
そのむかしの初代「アルト」は47万円だったけれど、21世紀の現代において、47万円でなにが買えますか? ま、いろいろ買えることも確かです。けれど、こと自動車界において、本当に価値ある47万円とは、新型マカンのフロントアクスルのモーター代ではあるまいか。と筆者は言上したい。思い出してほしい。SQ5とマカンSの技術料と看板代が141万円だったことを。SQ5は963万円。新型マカン4は1045万円。その差82万円である。う~む。安い!
マカン4の上の「マカン4S」は516PS、820N・mで、0-100km/hが4.1秒とさらに速いものの、価格は1196万円と151万円の上積みが必要になる。旗艦「マカン ターボ」となると、639PSと1130N・m、0-100km/hが3.3秒というスーパーカー並みのパフォーマンスを持っている。最高速は260km/h。価格は1525万円と、おお、マカン2台分に匹敵するではないか。内燃機関のマカン、862万円と、電気マカン、998万円、足すと1860万円! あ。マカン2台分というには、電気マカンが高すぎる。もうちょっと、マカンない?
というわけで、電気マカンはマカン4がオススメではないでしょうか。
(文=今尾直樹/写真=ポルシェ/編集=藤沢 勝)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
トランプも真っ青の最高税率40% 日本に輸入車関税があった時代NEW 2025.9.17 トランプ大統領の就任以来、世間を騒がせている関税だが、かつては日本も輸入車に関税を課していた。しかも小型車では最高40%という高い税率だったのだ。当時の具体的な車両価格や輸入車関税撤廃(1978年)までの一連を紹介する。
-
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起 2025.9.15 スズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。
-
新型スーパーカー「フェノメノ」に見る“ランボルギーニの今とこれから” 2025.9.12 新型スーパーカー「フェノメノ」の発表会で、旧知の仲でもあるランボルギーニのトップ4とモータージャーナリスト西川 淳が会談。特別な場だからこそ聞けた、“つくり手の思い”や同ブランドの今後の商品戦略を報告する。
-
オヤジ世代は感涙!? 新型「ホンダ・プレリュード」にまつわるアレやコレ 2025.9.11 何かと話題の新型「ホンダ・プレリュード」。24年の時を経た登場までには、ホンダの社内でもアレやコレやがあったもよう。ここではクルマの本筋からは少し離れて、開発時のこぼれ話や正式リリースにあたって耳にしたエピソードをいくつか。
-
「日産GT-R」が生産終了 18年のモデルライフを支えた“人の力” 2025.9.10 2025年8月26日に「日産GT-R」の最後の一台が栃木工場を後にした。圧倒的な速さや独自のメカニズム、デビュー当初の異例の低価格など、18年ものモデルライフでありながら、話題には事欠かなかった。GT-Rを支えた人々の物語をお届けする。
-
NEW
内燃機関を持たないEVに必要な「冷やす技術」とは何か?
2025.9.16あの多田哲哉のクルマQ&Aエンジンが搭載されていない電気自動車でも、冷却のメカニズムが必要なのはなぜか? どんなところをどのような仕組みで冷やすのか、元トヨタのエンジニアである多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】
2025.9.16試乗記人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。 -
スズキが未来の技術戦略を発表! “身近なクルマ”にこだわるメーカーが示した問題提起
2025.9.15デイリーコラムスズキが、劇的な車両の軽量化をかなえる「Sライト」や、次世代パワートレインなどの開発状況を発表。未来の自動車はどうあるべきか? どうすれば、生活に寄りそうクルマを提供し続けられるのか? 彼らの示した問題提起と、“身近なクルマ”の未来を考える。 -
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】
2025.9.15試乗記フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。 -
フォルクスワーゲン・ゴルフRアドバンス(後編)
2025.9.14ミスター・スバル 辰己英治の目利き万能ハッチバック「フォルクスワーゲン・ゴルフ」をベースに、4WDと高出力ターボエンジンで走りを徹底的に磨いた「ゴルフR」。そんな夢のようなクルマに欠けているものとは何か? ミスター・スバルこと辰己英治が感じた「期待とのズレ」とは? -
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】
2025.9.13試乗記「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。