スズキ・フロンクス 開発者インタビュー
インドからの新風 2024.07.26 試乗記 この秋に日本に導入されるスズキの新型コンパクトSUV「フロンクス」。インドをはじめ、各マーケットですでに高評価を得ているこのクルマには、日本導入も見越してのこだわりが盛り込まれているという。開発に携わった2人のキーマンに話をうかがった。スズキ
商品企画本部
四輪B・C商品統括部 チーフエンジニア
森田祐司(もりた ゆうじ)さん
スズキ
商品企画本部
四輪デザイン部 アイデア開発部 係長
加藤正浩(かとう まさひろ)さん
当初から想定されていた日本への導入
2024年秋ごろの国内発売を掲げるスズキ・フロンクスは、インドで生産される輸入車だ。インドから輸入されるスズキの四輪車は、2016年秋~2020年夏に国内でも販売された初代「バレーノ」に続く2例目となる。
チーフエンジニア(CE)としてフロンクスの開発責任者をつとめた森田祐司さんは、初代バレーノでアシスタントCEをつとめた後、2022年にインドで発売された2代目バレーノのCEも兼任している。2代目バレーノとフロンクスは、クルマの基本骨格となるプラットフォームを共有している。
「私がバレーノのCEに就任した時点では、初代バレーノはまだ日本で販売されていましたので、続く2代目も当然ながら、日本でも販売することをイメージして企画・開発をスタートさせました。最初から日本導入をイメージしていたという点では、このフロンクスも同様です。日本でも受け入れていただける商品にするには、スタートのレイアウト段階から考慮する必要があります。たとえばグローブボックスひとつにしても、日本の販売現場では“ボックスティッシュくらいは入らないとね”という話になります。また、日本特有のETC車載器も最初のレイアウト段階からスペースを確保しておかないと、きれいにおさめることは難しいんです」
ただし、フロンクスの国内発売が予告された現時点でも、2代目バレーノの国内発売予定はない。このように、開発陣の思いと実際の販売戦略がずれてしまうことはなくはない。初代バレーノそのものはインドで2022年春まで販売されたが、日本では前記のようにモデルライフ途中で販売を終えた。
「初代バレーノも、日本で乗っていただいているお客さまには好評をいただいたのですが、やはり先進機能など、日本市場で重視される必要な機能や装備が足りなかったのが反省点でした。なので今回のフロンクスでは、そうした部分もきちんと充実させています」
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静粛性やリアシートの快適性も重視
森田さんも語るとおり、日本仕様のフロンクスには、スズキとしては最新となる「デュアルセンサーブレーキサポートII」や、電動パーキングブレーキも標準で装備。またインドの仕様にはない4WDも用意される。そして日本仕様に搭載されるエンジンには、1.5リッター4気筒自然吸気が選ばれた。
「インド市場でのフロンクスのエンジンは1.2リッターと1リッターターボがあって、そのほかに輸出用に1.5リッターを用意しています。日本市場で考えると、フロンクスのようなSUVに1.2リッターでは少し非力と判断しました。残る選択肢は1リッターターボと1.5リッターでした」
スズキの1リッター3気筒直噴ターボといえば、現在の国内向けでは「クロスビー」に積まれており、その最高出力は99PS、同じく最大トルクは150N・m。いっぽうの1.5リッターは、縦置きか横置きかのちがいはあれど「ジムニーシエラ」のそれと同系統。シエラの最高出力は102PS、最大トルクは130N・mだから、どちらのエンジンにしても、ピーク性能値はほぼ同等といっていい。
「日本ではSUVとしてしっかりとゆとりある走りを考えて、最終的には、低速からトルクが出る1.5リッターの自然吸気を選びました。ただ、フロンクスに搭載される1.5リッターは、厳密にはジムニーシエラの『K15B』の次の世代……といいますか、もう少し燃費を重視した仕様になっています。日本で販売されたクルマでいうと『エスクード ハイブリッド』のものに近いです」
また今回のフロンクスでは、静粛性やリアシートの居住性・快適性も重視したという。このあたりは、同じくインドで生産される「ホンダWR-V」との類似点ともいえる。
「フロンクスで静粛性やリアシートの快適性にこだわった背景には、インド市場の影響もあります。さすがにインドでも、このクラスで“運転はドライバーに任せて後席に乗る”というパターンは少ないですが、平日は仕事に使って、休日は家族を乗せて遠出するという使われかたは非常に多いです。インドの人たちはすごく家族を大切にします。しかも、ただ家族を乗せるだけでなく、家族に喜んでほしいと考えるんです。そういうこともあって、後席をしっかりつくることにしました」
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ひと目でカッコいいと思ってもらえるものを
いっぽう、フロンクスのエクステリアデザインは、ボクシーで強い押し出しを売りとするWR-Vとはある意味で正反対。そんなフロンクスの外装を担当したのは加藤正浩さんだ。
「フロンクスのねらいは“ダイナミックなクーペスタイルSUV”ということで、ひと目見て、純粋にカッコいいと思ってもらえるシルエット、プロポーションを目指しました。そのために、CEにお願いして、フロントガラスもかなり寝かせてもらいました。最近のインドでもボクシーでルーミーなクルマが増えているのですが、フロンクスはあえて、そこからできるだけ離れることを意識しました」
森田さんが話を継ぐ。
「インドでも室内が広いクルマがトレンドなので、フロンクスにも、そうした要望はもちろんありました。しかし、そこは徹底的に議論して、フロンクスでは新しさを主張するためにも、あえてハズシでいこうと決めました。クーペSUVはヨーロッパや日本ではいくつか例がありますが、インドではすごく新しいものと捉えられています。すでにインドでは販売がはじまっていますが、デザインが新しいと、ものすごく評判がいいです。インドでは今も古典的な押し出しの強いデザインが好まれる傾向はありますが、同じインドでも、若い人たちはインターネットで情報を集めています。そうした若い人たちは、たとえばヨーロッパあたりと比較すると、インド市場は少し遅れていると自覚したうえで、新しいトレンドを求めているんですね」
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こだわったのはグローバルに通用するデザイン
「ぼく自身はフロンクスを担当する前は、ヨーロッパ=イタリアに駐在していて、クルマのプロポーションについてだいぶ勉強させていただきました。フロンクスでは、そうしたプロポーションを生かしたうえで、顔まわりはインド市場の一般的な好みを意識して、迫力のあるものにしています。当初から日本で売ることも想定していましたが、デザイン的には特定の国や市場を意識しすぎずに、グローバルで通用するデザインを強く意識しました」
そう語る加藤さんは、じつはそのヨーロッパ駐在時代に2代目バレーノのデザインコンペに参加して、市販車へとつながる採用案を描いている。
「自分ではフロンクス同様、バレーノもけっこうな自信作なんです。フロンクスではバレーノのテイストも意識的に生かしています。先ほども申し上げましたが、インド市場も嗜好(しこう)はヨーロッパにどんどん近づいています」
こうして森田さん、加藤さんというフロンクスのキーマン(……は、同時に2代目バレーノのキーマンでもある)2人の話を聞いていると、日本上陸間近のフロンクスに期待したくなるのは当然として、2代目バレーノにもがぜん興味がわいてきてしまう……。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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