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BMW R12 nineT(6MT)

フラットツインよ永遠なれ 2024.08.09 試乗記 後藤 武 BMWが擁する人気の空冷ネイキッドがフルモデルチェンジ。名前も新たに「R12 nineT」となった新型は、日常でも走りを楽しめるダイナミクスの特性と、伝家の宝刀“フラットツイン”の魅力を、存分に感じさせるマシンに仕上がっていた。
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ビッグバイクなのにヒラリと走る

BMW R12 nineTは、2013年にデビューして進化を続けてきた「R nineT」の後継モデルだ。従来モデルからの最大の変更点はフレームで、これまでは分割式だったが、今回のモデルでは一体化したチューブラーブリッジスチールフレームを新設計。剛性を上げるとともに軽量化し、よりクラシカルなスタイリングをつくり上げることにも成功している。伝統のフラットツインエンジンは従来モデルから受け継がれていて、最高出力は変更なし。つまりR12 nineTで注目すべきはデザインとハンドリングということになる。

またがった瞬間に感じたのは車体の軽さだった。車重が222kgと、このクラスとしては比較的軽いということもあるのだが、その数値以上に軽く感じる。テスターの体格だと、傾いたバイクを起こすのも、足をついて移動させるのもまったく苦労しない。

この軽さは走りだしても変わらない。というよりも一層軽く感じられるようになった。ハンドルに少し力を入れると(ストリートのライディングではハンドルへの入力が中心になる)バイクが瞬時にバンクしていく。だからといって過敏に反応するわけではない。安定性は十分にあるのだが、バイクを動かしたいと思ったとき、必要な力が少なくてすみ、的確に反応してくれるのだ。

このハンドリングのおかげで街なかはとても楽しい。ビックバイクなのにひらひらと軽快に走るし、Uターンもやりやすい。これは車体だけでなく30mm短くなったタンクや着座位置の変更も大きいだろう。最も重いエンジンとライダーが、バイクの重心と同じ位置にある感じがする。

実に10年にわたり人気を博してきた「BMW R nineT」。「R12 nineT」はその後継機種であり、他のクラシックラインのモデル(つまり「R18」シリーズ)と同様、車名は“R”の後にエンジン排気量を示す2ケタの数字を入れたものに改められた。
実に10年にわたり人気を博してきた「BMW R nineT」。「R12 nineT」はその後継機種であり、他のクラシックラインのモデル(つまり「R18」シリーズ)と同様、車名は“R”の後にエンジン排気量を示す2ケタの数字を入れたものに改められた。拡大
試乗車は、充実した装備と特別な意匠が特徴の「初期生産限定パッケージ」装着車。外装ではアルミやビレットパーツを用いた「アルミニウム スタイルOption 719」のカラー/装備が目を引く。
試乗車は、充実した装備と特別な意匠が特徴の「初期生産限定パッケージ」装着車。外装ではアルミやビレットパーツを用いた「アルミニウム スタイルOption 719」のカラー/装備が目を引く。拡大
計器類にはクラシックな2眼の丸型アナログメーターに加え、3.5インチTFT液晶カラーディスプレイも設定。スタイリッシュで視認性も良好だが、燃料計の表示がないのが玉にきずだ。
計器類にはクラシックな2眼の丸型アナログメーターに加え、3.5インチTFT液晶カラーディスプレイも設定。スタイリッシュで視認性も良好だが、燃料計の表示がないのが玉にきずだ。拡大
「R12」シリーズのラインナップには、今回試乗したネイキッドスポーツスタイルの「R12 nineT」に加え、クルーザースタイルの「R12」もラインナップされる。
「R12」シリーズのラインナップには、今回試乗したネイキッドスポーツスタイルの「R12 nineT」に加え、クルーザースタイルの「R12」もラインナップされる。拡大
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幅広いシーンで意のままに操れる

スポーツバイクでは限界域での運動性を考慮してフロント荷重を高めていく傾向にあるが、こうすると低速で俊敏なハンドリングにはならない。R12 nineTの場合、実用速度域での運動性を考えた車体になっているのである。BMW のフラットツインは、もともとストリートでの乗りやすさを強く意識していた。それがブレることなく進化を遂げてきた結果だろう。

もちろんワインディングを攻めてもこのハンドリングは楽しい。物足りなくなるとしたら限界域でタイムを削り取るような使い方をしたときくらい。スポーツバイクとどちらが楽しいかは人それぞれ。積極的にマシンをコントロールしてやらないと本来の性能を引き出せないスポーツバイクを乗りこなしたいという人もいるはずだ。しかし個人的にはストリートからワインディングロードまで意のままに走れるR12 nineTを選ぶ。

サスペンションのストローク量は、とても短く見える。それゆえセッティングも硬めなのかと思いきや、これが実によく動くし乗り心地も良好だ。無駄な動きがないので減速時のノーズダイブは少なめなのだが、タッチが素晴らしいブレーキの影響もあって、沈み込み方が絶妙だからブレーキングからバイクをバンクさせるキッカケがつくりやすい。いっぽうで、剛性が高くなったフレームの恩恵は感じることはできなかった。ストリートであれば、これまでのモデルでも十分すぎるくらいの剛性を確保していたからだ。

サスペンションは、前がφ45mmの倒立フォークで、スプリングプリロードや、リバウンドおよびコンプレッションの調整が可能。後ろはアルミダイキャストの片持ちスイングアームとセンターショックアブソーバーの組み合わせで、こちらもプリロードの調整機構を備えている。
サスペンションは、前がφ45mmの倒立フォークで、スプリングプリロードや、リバウンドおよびコンプレッションの調整が可能。後ろはアルミダイキャストの片持ちスイングアームとセンターショックアブソーバーの組み合わせで、こちらもプリロードの調整機構を備えている。拡大
足もとには、試乗車に装着されていたクラシックなワイヤースポークホイールのほか、フライス加工を施したコントラストカラーのキャストホイールも用意される。
足もとには、試乗車に装着されていたクラシックなワイヤースポークホイールのほか、フライス加工を施したコントラストカラーのキャストホイールも用意される。拡大
タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが180/55ZR17。試乗車にはドライグリップ性能に加えて、ウエット性能やロングライフ性能も重視した「コンチネンタル・コンチロード」が装着されていた。
タイヤサイズは前が120/70ZR17、後ろが180/55ZR17。試乗車にはドライグリップ性能に加えて、ウエット性能やロングライフ性能も重視した「コンチネンタル・コンチロード」が装着されていた。拡大

ライディングモードは「ダイナミック」一択!

エンジンに関して、走りだした瞬間に感じたのは「R nineTってこんなにおとなしかったかな?」ということだった。排気音もスロットルに対する反応もとてもジェントルだったからである。しかしこれはスロットルのマネジメントの影響だった。ジェントルなのは低回転、低開度域だけで、スロットルを大きく開ければ極めて快活に反応する。

R nineTにはこれまでいくつかのモデルを試乗してきたが(その1その2)、進化するにつれて低回転域が扱いやすくなっているようだ。たしかに乗りやすいのかもしれないが、個人的には下からはじけるように吹け上がる快活さがないのは寂しい。それがR nineTの楽しさでもあったからである。そう考えてパワーモードを「ダイナミック」にすると、かなり元気になった。スロットルを少しひねるだけで強いトルクが発生するので、バイクの自由自在感が増す。

BMWのフラットツインはフライホイールマスが大きいから、ダイナミックモードにしても過敏すぎる感じはしない。フライホイールが力を蓄えてバイクを力強く押し出すようなフィーリングだ。低回転から元気なエンジンと前述したハンドリングも相まって、ビッグバイクとは思えないくらい軽快にバイクを走らせることができる。交差点を曲がり終わってスロットルを開けると、リアショックを沈ませ気味にし、小気味よい排気音とともに加速していく。これこそフラットツインのだいご味。バイクをキビキビ動かしたいと思っているライダーであれば、ぜひダイナミックモードで走っていただきたい。

エンジンは1169ccの排気量を持つ空油冷式の水平対向2気筒DOHC。109PSの最高出力と115N・mの最大トルクを発生する。
エンジンは1169ccの排気量を持つ空油冷式の水平対向2気筒DOHC。109PSの最高出力と115N・mの最大トルクを発生する。拡大
左側2本出しのマフラー。マニホールドはクローム仕上げ、サイレンサーは電解研磨仕上げとなっており、音のよさに加えて視覚的な美しさも追求されている。
左側2本出しのマフラー。マニホールドはクローム仕上げ、サイレンサーは電解研磨仕上げとなっており、音のよさに加えて視覚的な美しさも追求されている。拡大
燃料タンクの容量は16リッター(リザーブ:約3.5リッター)と、従来モデルよりやや減じている。燃費は19.6km/リッター(WMTCモード)なので、航続距離は300km弱といったところだ。
燃料タンクの容量は16リッター(リザーブ:約3.5リッター)と、従来モデルよりやや減じている。燃費は19.6km/リッター(WMTCモード)なので、航続距離は300km弱といったところだ。拡大
ブレーキは前がφ310mmのダブルディスクと4ピストンキャリパー、後ろがφ265mmのディスクと2ピストンキャリパーの組み合わせ。コーナリング中の急制動でもコントロール性を確保する「ABSプロ」が装備される。
ブレーキは前がφ310mmのダブルディスクと4ピストンキャリパー、後ろがφ265mmのディスクと2ピストンキャリパーの組み合わせ。コーナリング中の急制動でもコントロール性を確保する「ABSプロ」が装備される。拡大
シート高は795mmと、従来モデルより10mm低めに。標準装備のETCはこの下に備わるが、シートクッションはトルクスボルトで固定されているため、脱着の際には専用の工具が必要となる。
シート高は795mmと、従来モデルより10mm低めに。標準装備のETCはこの下に備わるが、シートクッションはトルクスボルトで固定されているため、脱着の際には専用の工具が必要となる。拡大
ディスプレイ表示の切り替えなど、さまざまな機能のボタンが備わる左のスイッチボックス。日本仕様には「コンフォートパッケージ」が標準で採用されており、グリップヒーターや定速制御のクルーズコントロール、クイックシフターの「ギアシフトアシスタントプロ」などが、デフォルトで装備される。
ディスプレイ表示の切り替えなど、さまざまな機能のボタンが備わる左のスイッチボックス。日本仕様には「コンフォートパッケージ」が標準で採用されており、グリップヒーターや定速制御のクルーズコントロール、クイックシフターの「ギアシフトアシスタントプロ」などが、デフォルトで装備される。拡大
フラットツインならではの特性と、軽さを感じさせる身のこなしで、街なかでも軽快に走らせられる「R12 nineT」。BMWは4気筒もいいが、ストリートを主に走るのであれば、まずはこのバイクを薦めたい。
フラットツインならではの特性と、軽さを感じさせる身のこなしで、街なかでも軽快に走らせられる「R12 nineT」。BMWは4気筒もいいが、ストリートを主に走るのであれば、まずはこのバイクを薦めたい。拡大

4気筒エンジンもいいけれど

R12 nineTでもうひとつ印象的だったのがシフター。どんな速度、回転域でもまったくショックなく変速ができる。低回転でシフターを使うと次のギアがつながるまでにわずかにタイムラグがあり、この間に回転差を調整してショックのない変速をしている。ストリートで日常的にショックのない変速ができることでストレスは激減する。

さらにもうひとついいなと思ったのがスイッチ類だ。最近のバイクはスイッチが増えて、うっかりすると間違えてしまうこともある。対してBMWは、スイッチ類が増えても基本的なホーンとウインカーの位置がわかりやすい。いちいちスイッチを操作するとき、手元を確認しなくてもいいというのは、やっぱり楽だし安全にも寄与するはずである。

BMWには4気筒エンジンもあって、そちらも捨てがたいのだけれど、R12 nineTに乗ってみると、ストリートをメインで走るのであればやっぱりフラットツインだと思う。独自の道を歩み、進化を続けてきたこのマシンは、素晴らしい魅力にあふれていた。

(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)

BMW R12 nineT
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BMW R12 nineT(6MT)【レビュー】の画像拡大

【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2140×1070×870mm
ホイールベース:1520mm
シート高:795mm
重量:222kg
エンジン:1169cc 空油冷4ストローク水平対向2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:109PS(80kW)/7000rpm
最大トルク:115N・m(11.7kgf・m)/6500rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:19.6km/リッター(WMTCモード)
価格:287万6000円

 
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後藤 武

後藤 武

ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。

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