草創期ゆえにアイデアが乱立! ジャンル確立前に登場したクロスオーバーSUV
2024.08.21 デイリーコラムAMCの先見性
今や軽自動車から超高級車まで、あらゆるセグメントに存在するクロスオーバーSUV。その定義にはっきりとした線引きはないが、基本的にはSUVとワゴン、クーペ、ミニバンといったほかのカテゴリーを掛け合わせたモデルを指す。その起源についてもこれまた明確な答えはないが、少なくともクロスオーバーSUVという呼称が生まれる前からその種のモデルは存在していた。ここではそうしたモデルを振り返ってみよう。
1972年に登場した「スバル・レオーネ エステートバン4WD」は、積雪地で使えるジープタイプより快適で経済的な四駆が欲しいという東北電力からの要望をきっかけに製品化されたモデル。走行中も切り替え可能なパートタイム4WD機構を備え、ロードクリアランスは210mmを確保し、スノーラジアルタイヤを履いて悪路踏破性を高めていた。4ナンバーの商用バンだったが、今日へと続くスバルAWDワゴンのルーツであると同時に、世界初の量産乗用車ベースの4WDでもあった。
レオーネは1975年に4ドアセダンにも4WDを加えている。これもバンには及ばないがロードクリアランスを195mmまで高めていたので、セダンとSUVのクロスオーバーだったといえるかもしれない。
近年になってその先進性が見直されているのが、AMC(アメリカン・モータース・カンパニー)が1980年代初頭にリリースした「イーグル」。AMCは1987年にクライスラーに吸収されて消滅したメーカーだが、1969年から1987年まではジープを傘下に収めていた。そのノウハウを生かして送り出したモデルがイーグルで、コンパクトの「コンコード」がベースの「シリーズ30」とより小型のサブコンパクトである「スピリット」がベースの「シリーズ50」があり、いずれも既存モデルのロードクリアランスを高めた車体にフルタイム4WD機構を組み込んでいた。
特筆すべきはそのボディーバリエーションの多さで、シリーズ30は2/4ドアセダンと5ドアワゴン、シリーズ50は3ドアハッチバックと3ドアクーペをそろえていたのだ。既存のボディーの流用と言ってしまえばそれまでだが、つまりは40年以上前にクーペとSUVのクロスオーバーもすでに存在していたのである。
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独自のボディーを持つカリブ
「面白4WD」をキャッチコピーに掲げ、「ニューアクティブビークル」とうたって1982年に誕生した初代「トヨタ・スプリンター カリブ」。既存のモデルからの流用ではなく、やや背高の独自の5ドアワゴンボディーを持つ新たなモデルである。車名からはスプリンターのバリエーションのようだが、これは販売政策上命名されたもので、ベースは通称“タコII”こと「ターセル/コルサ/カローラII」。そのエンジン縦置きFFにパートタイム4WD機構を加えたシャシーを持ち、輸出仕様は正直に(?)「ターセル ワゴン」と名乗っていた。
ちなみに1983年には初代「フィアット・パンダ」にシュタイア・プフ製のパートタイム4WD機構を組み込んだ「パンダ4×4」が追加されている。地味ではあるが、これが世界初となるエンジン横置きFFベースの4WDモデルだった。
1980年代中ごろには、Cセグメントのハッチバックやセダンにフルタイム4WD仕様が加えられるようになった。それらにはラリーマシンのベースになるようなパフォーマンス指向のモデルと、実用的ないわゆる生活四駆の2種が存在したが、後者に属する「フォルクスワーゲン・ゴルフ シンクロ」をベースに1990年に登場したのが「ゴルフ カントリー」。ロードクリアランスを広げ、プロテクトバーやアンダーガードなどを装着して悪路走破性を高めていた。フォルクスワーゲン自身の、後の「クロス ポロ」などのSUV風味のモデルのルーツともいえるモデルだった。
同じ生活四駆がベースでも、バブル景気の恩恵を受けた遊びグルマであるパイクカーの延長線上にあるモデルとして1994年に登場した「日産ラシーン」。「サニー」や「パルサー」のフルタイム4WD仕様のシャシーに載るボディーは、平面で構成され、高めのロードクリアランスを確保しつつ立体駐車場に入るよう全高を抑えた結果、独特な平べったいスタイリングを持っていた。
翌1995年には、これまたユニークなモデルが登場している。初代「スズキ・エスクード」のラダーフレームにTバールーフを持つ2座クーペボディーを載せた「スズキX-90」。本格派のコンパクトSUVとクーペのクロスオーバーだったが、2座が災いしたのか販売は振るわなかった。余談だがこれが発売された当時、メディア向けの試乗車を運転していた知り合いが信号待ちをしていたら、通りかかった女子高生グループに「ヘンなクルマ!」と指さして笑われた、というエピソードがやけに印象に残っている。
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現代に通じる手法を先取りしていた三菱
1980年代後半のバブル期、折からのスキーやアウトドアの流行と相まってクロスカントリー4WDブームが起きた。その中心的存在だった「パジェロ」によって、一躍RV(レジャービークルの略、後のSUV)のリーディングブランドとなった三菱が1991年に送り出した、その名も「RVR」。もともとRV的な要素があったミニバンの先駆けである「シャリオ」をベースに「ライトデューティーRV」というコンセプトを掲げていたが、今日の目にはトールワゴンとSUVのクロスオーバーに映る。
バリエーションは多かったが、なかでも前席頭上を電動オープントップにした「オープンギア」と、エアロパーツで武装したボディーに“ランエボ”こと「ランサー エボリューション」譲りのハイパワーユニットを載せた「ハイパースポーツギア」などは、SUVの多様化を先取りしていたといえる存在だった。
三菱では、1994年に登場した「ギャラン スポーツGT」も記憶に残る。ロードクリアランスを高め、カンガルーバーと呼ばれていたグリルガードを装着した5ドアハッチバックボディーに2リッターV6ターボエンジンとフルタイム4WDを搭載。「GTの走りとRVの楽しさ」を併せ持ち、「ワゴンよりスマート、セダンよりワイルド」をうたっていた。その雰囲気は後年のいわゆるクーペSUVに通じるものがあるが、当時の市場ではニッチ商品以外の何物でもなかった。
それに対して同じ“車高上げモデル”でも、市場に受け入れられたのが、1995年に登場した「スバル・レガシィ グランドワゴン」。2代目「レガシィ ツーリングワゴン」のロードクリアランスを広げて内外装を小変更。4WDワゴンの車高を上げて悪路走破性を高めるという手法は先に紹介した初代レオーネ エステートバン4WDへの先祖返りともいえるものだが、後にアウディやボルボなどが倣い、ワゴンとSUVのクロスオーバーの定番手法となった。なお輸出名称は「アウトバック」で、その名のとおり今日の「レガシィ アウトバック」の原形である。
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30年を経て再評価されるスタイリング
1998年に「ワゴンでもクロカンでもない、アーバンクールなハイライダー」を名乗って登場した「ホンダHR-V」。「ワンダーシビック」をほうふつさせるロングルーフの3ドアハッチバックボディーは今見てもスタイリッシュだと思うが、市場ではパッとしなかった。しかし翌1999年に5ドアが追加されると販売は上向いた。確かに5ドアのほうが使い勝手がいいが、3ドアのほうが見た目は圧倒的にクールである。
スタイリッシュなモデルといえば、1997年にデビューした「いすゞ・ビークロス」も忘れられない。1993年の東京モーターショーに「悪路も走破可能な全天候型スポーツカー」とうたって出展されたコンセプトモデルを、別体式フレームを持つ本格派クロカン4WDである「ビッグホーン」のシャシーを使って量産化。その個性的かつ前衛的なルックスはデビューから30年近くを経た今、再評価されている。
これとは対極にあるリーズナブルで実用的なモデルだが、今見ると悪くないと思うのが1998年に登場した「スズキKei」。軽セミトールワゴンとSUVのクロスオーバーで、当初は3ドアのみだったが翌1999年に5ドアが追加された。
これとほぼ同時期に登場した2代目「ホンダZ」。一見したところKeiと似たようなプロポーションだが、中身はエンジン縦置きミドシップ4WDという、まるでスーパーカーのような凝ったレイアウトだった。その実は軽トラックの「アクティ4WD」をベースにしたものだったが、悪路走破性の高さも特徴のひとつで195mmの最低地上高が確保されており、立派なクロスオーバーSUVだった。だが地味な見た目にマニアックな設計の組み合わせはユーザー層には理解されにくく、わずか3年で市場から姿を消してしまった。当時よりさらにコスト意識が厳しくなった今では、こんな特殊な軽はおそらく二度とつくられることはないだろう。
(文=沼田 亨/写真=スバル、トヨタ自動車、フォルクスワーゲン、日産自動車、スズキ、三菱自動車、本田技研工業、いすず、TNライブラリー/編集=藤沢 勝)
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沼田 亨
1958年、東京生まれ。大学卒業後勤め人になるも10年ほどで辞め、食いっぱぐれていたときに知人の紹介で自動車専門誌に寄稿するようになり、以後ライターを名乗って業界の片隅に寄生。ただし新車関係の仕事はほとんどなく、もっぱら旧車イベントのリポートなどを担当。
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