メルセデスAMG CLE53 4MATIC+クーペ(4WD/9AT)
分かりやすさのその先に 2024.09.18 試乗記 メルセデスの新たな2ドアクーペ「CLE」にメルセデスAMGブランドの高性能モデル「CLE53 4MATIC+」が登場。優雅さを追求した4座クーペでありながら、その心臓部には最高出力449PSの直6ユニットが積まれているのだ。ドライブした印象をリポートする。4座クーペを守るという意地
言うまでもなく、2ドアクーペという車型は今や死に筋だ。存在を肯定してもらうためにはスポーツカーとして認められるほどのパフォーマンスを備えるか、豊かな歴史に彩られるブランドロイヤルティーを代弁した優雅なデザインや豪華なしつらえを盛るほかはない。ステーションワゴンどころかセダンさえも絶滅危惧種扱いの今、故意ではなく市場原理的な淘汰(とうた)ゆえ、大半のメーカーはあらがう術もないだろう。
そんななか、ドイツのプレミアム御三家はおのおのセダンベースのトラッドなクーペをしぶとく擁していたが、そちらにもいよいよ合理化の波が見えつつある。アウディは電動化の流れを受けて「A5」の名前を従来の「A4」的なポジションの内燃機系モデルに譲り、2ドアクーペの去就が注目されるところだ。BMWはMモデルの受け皿でもあるがゆえ2ドアクーペのラインナップは充実しているが、メルセデスは現行世代でその車種群を整理し、「Sクラス クーペ」を廃止したうえで、「Cクラス」と「Eクラス」のクーペを併合するかたちでこのCLEを設定した。性能的にはスポーツカーのカテゴリーとなる「AMG GT」を擁しているという面はあれど、市場規模に鑑みれば伝統の4座クーペの灯を絶対に消さないと、メルセデスとしても意地の采配なのだろう。
ツインチャージャーの直6エンジンを搭載
それでも、CLEクーペはディテールにも合理化の波が散見されなくはない。個人的に残念なのは、クオーターウィンドウがフィクスになったこと、ドアロッカー部の加飾が廃されてしまったことだ。4枚の窓を全開にすればピラーレスのグリーンハウスがキャビンの優美さを伝え、大きなドアを開ければキラリと光るメッキのオーナメントが特別にぜいを尽くしたクルマであることを知らしめてくれた……と、お前それ毎日使うて磨くんかいと問われれば元も子もないが、メルセデスのクーペを富の象徴として遠くから眺めていた昭和のオッさん的には、そういう続きごとは大事にしてほしかったように思う。
と、そんなCLEきっての高性能モデルとなるのがメルセデスAMGのCLE53 4MATIC+だ。車名が長いので以下は53とするが、搭載するエンジンは3リッター直6ターボのM256型をベースとしたM256M型となる。ターボと48V電動スーパーチャージャーという2つの過給器を持つそれは、専用設計の吸排気系統や高出力対応ピストンリングを採用。スーパーチャージャーの過給圧を0.4barから1.5barへと引き上げ、ターボチャージャーにも改良を加えたことで通常時の最大トルクが560Nm、最大10秒間のスクランブルブーストによって600N・mまでトルクが増強される。また、ISGの性能強化やエアコンコンプレッサー&ウオーターポンプの電動化による運動抵抗低減など、細かに手が加えられている。その最高出力は449PSに達し、同等とみられる本国仕様での0-100km/h加速は4.2秒、最高速は270km/hというから、余剰を慈しむクルマのそれとしては、もう十二分に速い。
独立チューナーだった時代の味わい
その動力性能を支えるべく、足まわりのセットアップはコイル、アダプティブダンパー、スタビライザーを専用設定としたほか、ベースモデルに対してトレッドを前:50mm、後ろ:70mm広げている。当然ながら全幅も75mm拡大しており、そのたたずまいはどこから見てもやはり好戦的だ。特にショルダーがぐっと張り出して踏ん張った後ろ姿は筋骨隆々な女子アスリートを思わせる。控えめなリアスポイラーがいかにもいにしえのAMG的というか、ドイツ生まれの高性能車という趣だ。
トランスミッションは9Gトロニックをベースとしたクラッチ式の「AMGスピードシフトTCT」を搭載。四駆システムには50:50~0:100で前後駆動力配分をリニアに制御する「AMG 4MATIC+」を採用している。オプションの「AMGダイナミックパッケージ」を選択すればドライブモードに「レース」と「ドリフト」が加わり、ドリフトでは駆動力配分を0:100、つまり後輪駆動にフィクスすることも可能だ。また、53には最大2.5度の切れ角を持つリアアクスルステアリングも標準で備わっており、100km/h以上の速度域では最大0.7度の同相でスタビリティーの確保に一助する。
走り慣れた都市部の道路を低中速域で走るに、53の乗り味は想像以上に重厚なものだった。特にバウンドの類いは橋脚ジョイントのような小さく鋭利なものから、舗装の痩せによる大きく緩いものまで、けっこう正直にフィードバックを伝えてくる。ダンピングが効いているから突き上げとまではいわないが、なかなかバンカラな乗り味だ。
と、そこでちょっと思い出したのは1990年代後半、まだAMGが独立銘柄だったころのW202系「C36」や、W210系「E50」のような感触だ。初手から路面情報をぐりぐり伝えてくる一方で、速度が一定域に達しないとちょっと粗野な印象がつきまとう。53にはあのころの触感がある。もっとも、これについては試乗車自体が下ろしたてに近い状態だったことも考慮しなければならないだろう。
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違いの分かる人に乗ってほしい
動力性能は数値にたがわぬ強力なもの。そこに四駆が加わることもあって、スタビリティー面での物足りなさは一切感じない。コーナーでは前輪側の駆動力や後軸のステアによる巻き込み的な動きもなく、踏み込みに応じてじわーっとアンダーステアが増していくという、市販車のセオリーどおりの所作がしっかりできている。ドリフトやレースモードではおそらく違った動きをするのだろうが、それは余興であって、このクルマに求められるのはあくまでオープンロードを安心してきれいに速く走れるというリアリティーだ。非日常的な刺激は時折現れるキレ系キャラ、例えば前述のAMG GTや「A45 S」のようなレーシィ系、あるいは「ブラックシリーズ」のような破天荒系、さらにはラオウのような「メルセデスAMG ONE」までアファルターバッハののれんの内には控えている。そういう全体像を鳥瞰(ちょうかん)的に見れば、この53はどこともかぶらない絶妙な動的キャラクターにも思えてくる。
工場からつまんできたセダンにコツコツと改善を積み上げることで商品価値を別物に高めていた、それこそC36くらいの時代からみれば、AMGのお仕事は天変地異のごとく多岐に及んでいる。おそらく開発の現場は千手観音の手も借りたいくらいのてんてこ舞いぶりではないだろうか。
そんななかでCLEに設定されたこの53は、単に分かりやすいステータスのためにお財布を開いたとしても問題のない柔軟性を備えている。が、それで満足するのはもったいない。「43」だ「63」だというパワートレインとのすみ分けや、クーペというキャラクターまでくんだ繊細な味つけの差異といった、その奥にあるものを嗅ぎにいけるカスタマーにこそ試してみてほしい。要はそのくらい、通向けのAMGだということだ。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデスAMG CLE53 4MATIC+クーペ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4855×1935×1435mm
ホイールベース:2875mm
車重:2000kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ+スーパーチャージャー
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:449PS(330kW)/5800-6100rpm
エンジン最大トルク:560N・m(57.1kgf・m)/2200-5000rpm
モーター最高出力:23PS(17kW)/1500-3000rpm
モーター最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/0-750rpm
タイヤ:(前)265/35ZR20 99Y XL/(後)295/30ZR20 101Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツS 5)
燃費:10.6km/リッター(WLTCモード)
価格:1290万円/テスト車=1392万円
オプション装備:AMGダイナミックパッケージ(40万円)/パノラミックスライディングルーフ(22万円)/レザーエクスクルーシブパッケージ(40万円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:373km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(8)/山岳路(0)
テスト距離:207.6km
使用燃料:25.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.3km/リッター(満タン法)/8.6km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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