日産GT-RプレミアムエディションT-spec(4WD/6AT)
不滅のマスターピース 2024.09.30 試乗記 長いこと「ご家族や親しい人を呼んでください」状態だった「日産GT-R」がついに大往生を遂げた。2007年発売のクルマがこんなにも輝いて見えるのは「アルティメイトメタルシルバー」のボディーカラーのせいだけではないはずだ。最終型の2025年モデルを試す。“後付け”では解決できない課題
新車の日産GT-Rに乗るのもこれで最後になるかもしれない。そう思うと、いろいろな思い出がよみがえってきて、ありきたりの言葉になるけれど感慨深い。
例えば2007年、R35型GT-Rの生産立ち上げの際に、栃木工場で見た光景を思い出す。「スカイライン」の生産ラインで、7台から10台に一台の割合でGT-Rが“混走”していて、なるほど、こういうむちゃをするからポルシェと同等のスペックが777万円で手に入るのか、と感心した記憶がある。
日産の横浜工場で見学した、エンジンの組み立て工程も目に浮かぶ。「ひとりの職人がひとつのエンジンを担当する」というと、AMGで聞いたようなフレーズだけれど、こんなに手間暇かけてエンジンを組み立てているクルマがたったの777万円なのか、と驚いた。
懸案だった騒音規制の問題は2024年モデルでクリアしたGT-Rではあるけれど、2025年末に装着が義務化される衝突被害軽減ブレーキは“後付け”できない。いよいよ2025年モデルが最後で、2025年8月をもって生産を終了すると正式にアナウンスされた。
もしかしたら最後になるかもしれないGT-Rは、「日産GT-RプレミアムエディションT-spec」(2025年モデル)。2035万円と、NISMO銘柄以外では最も高価なモデルだ。
エクステリアのデザインは、前後のバンパーの形状を改め、リアウイングの面積と位置を変えた2024年モデルから変更はない。2024年モデルのデザイン変更は、マイナーチェンジにありがちな「目先を変える」ものではなく、機能向上が目的。事実、最大ダウンフォース量は10%も向上しているという。初めて2024年モデルを見たときに、シュッとしたなという印象を受けたけれど、飾り立てるのではなく、機能に全振りするという信念を最後まで貫いてくれたのはうれしい。
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走りだせば古めかしさを忘れる
プレミアムエディションT-spec専用色のグリーンがかったシートに腰掛けると、目の前の風景は久しぶりに電源を入れた「プレステ2」の画面のようで、さすがに時代を感じさせられる。でも、キャリアを重ねた名優のシワや白髪のように味がある。継続は力なり。特にダッシュボード中央のマルチファンクションディスプレイは、最新の液晶パネルと比べてアニメーションの解像度が低いのは仕方がないとして、必要がないときでも切り替えたくなる楽しいアイデアで、秀逸だ。
赤いスターターボタンを押して、VR38DETTを始動。17年前は、ドライバーズシート後方に位置するギアボックスからのノイズと振動がなかなかで、セミレーシングマシンみたいだと思ったけれど、すっかり穏やかになっている。いまや希少となったサイドブレーキを解除してスタート。ひとたび走りだしてしまえば、時代を感じさせられることは一切ない。
まず、タウンスピードでも乗り心地は快適だ。ふんわりともてなしてくれるというわけではないけれど、路面の凸凹に対して、キメ細かにサスペンションが伸びたり縮んだりして追従する。プレミアムエディションT-specは、専用のカーボンセラミックブレーキとレイズと共同開発した専用アルミ鍛造ホイールとの合わせ技でバネ下重量が低減されており、それに合わせてサスペンションにも専用のセッティングが施されている。当然、運動性能を引き上げるためのセッティングであるはずだけれど、繊細な乗り心地にも貢献しているように思える。
改良を重ねてきたから今がある
VRサンパチとGR6型デュアルクラッチトランスミッションの組み合わせは、もともとパワフルでレスポンスにも優れたパワートレインだった。この17年間で、静かになる、変速が素早く滑らかになる、さらに反応が俊敏になるなど、正常進化を遂げてきたけれど、最後の最後に感じたのは、微妙なパーシャルスロットルに正確についてきてくれることと、音が良くなったということだ。
音に関しては、2024年モデルから採用されているフジツボ製チタン合金製マフラーの手柄だろう。歯切れがいいのにブ厚いという、ほかのどんなスーパースポーツとも異なる、“GT-Rミュージック”を奏でてくれる。
スロットルワークに対する反応が良くなっていることは、エンジンとトランスミッションの性能向上と、両者のマッチングが熟成されていることが物理的な理由だろう。大した台数が期待できるわけでもないこのクルマを、コツコツと育ててきたことがひしひしと伝わってくる。ただ単に17年間つくり続けたわけではなく、いろいろな人がこのクルマをもっと良くしようと改良を重ねてきたことで、今がある。
ほかに、このエンジンで戦ったFIA GT3で得たノウハウを注入したというストーリーも伝わっている。スーパーカーはパフォーマンスのほかに、物語も大事なのだ。
ちなみに、プレミアムエディションT-specには重量バランスの精度が高い特別なエンジンパーツが使われている。普通のパーツを用いた個体と同条件で比べていないので断言はできないけれど、これもエンジンの官能性が高まっていることの要因のひとつだと考えられる。
つくり手の愛と情熱
セットアップスイッチを操作して、トランスミッションとショックアブソーバー、そして駆動力をつかさどる「VDC-R」をすべて「R」にセットすると、クルマの感触がガキンとソリッドになる。加速フィールも、エグゾーストノートも、ハンドリングも、すべてが刺激的だ。
GT-Rというクルマは、全開でカッ飛ぶだけでなく、30km/hで街なかを流しても楽しめるように、ファントゥドライブの領域を広げるかたちで進化してきたと感じる。けれども、やっぱり本領を発揮するのは武闘派モードで、このパフォーマンスの高さがあるからこそ、快適な乗り心地や耳に心地よい音も意味を持つのだろう。ハンパな高性能だったら、繊細なフィーリングを加えたとて、17年もの間、命脈をたもてなかったはずだ。
そして17年前にこのパフォーマンスを実現したのが、開発責任者だった水野和敏さんだ。GT-Rのデビュー当時、話をうかがったときには、カルロス・ゴーンCEO(当時)から一任され、だから多少の無理やわがままも通すことができたと語っていた。GT-Rのようなクルマの場合は、マーケティングとかPRよりも、つくり手の愛と情熱が大事なのだと思い知らされる。
モデルによってはR35GT-Rに3000万円を超える価格がついているのは、名もない画家が自分の思うように描いた絵が次第に認められ、数十年後に途方もない値段になるような事象に近いと感じる。GT-Rは作品だった、というのが自分なりの結論だ。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
日産GT-RプレミアムエディションT-spec
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4710×1895×1370mm
ホイールベース:2780mm
車重:1760kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.8リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:570PS(419kW)/6800rpm
最大トルク:637N・m(65.0kgf・m)/3300-5800rpm
タイヤ:(前)255/40ZRF20 101Y/(後)285/35ZRF20 104Y(ダンロップSP SPORT MAXX GT 600 DSST CTT)
燃費:7.8km/リッター(WLTCモード)
価格:2035万円/テスト車=2091万4052円
オプション装備:特別塗装色<アルティメイトメタルシルバー>(33万円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>&SRSカーテンエアバッグ(7万7000円)/プライバシーガラス<リアクオーター+リア>(3万3000円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー(9万8797円)/ウィンドウはっ水12カ月<フロントウィンドウ1面+フロントドアガラス2面>(1万3255円)/NISSAN GT-R専用フロアカーペット<プレミアムスポーツ、消臭機能付き>(13万2000円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:2446km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:299.9km
使用燃料:40.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.5km/リッター(満タン法)/7.7km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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