第414回:カーマニアよ鉄ちゃん化せよ!
ホビーショーで見つけた、とある社長の金言
2010.11.02
小沢コージの勢いまかせ!
第414回:カーマニアよ鉄ちゃん化せよ! ホビーショーで見つけた、とある社長の金言
ホビー業界も不況だが……
不肖小沢、思わず目からウロコが落ちましたね。そう、先日幕張メッセで行われた全日本模型ホビーショーでのこと。ここでいう“ホビー”ってのは、いわゆる子供用のオモチャではなく、完全なる大人の趣味。俺は当然、ミニカーやクルマのプラモデルに注目したわけだけど、会場にはほかにも鉄道模型やらフィギュアやらがわんさか並んでいる。
一見、にぎわっているように見えるんだけど、ぶっちゃけホビー業界は最近落ち込んでるそうな。
どうやら2008年末のリーマンショックの影響が色濃く残っており、関係者いわく「ホビーは生活“非”必需品なんで、どうしても後回しにされる傾向があって……」とのこと。そりゃそうか。
実は今回も一部大手メーカーが出展を取りやめるという話があったほどで、「すわ! ホビーショーも東京モーターショーと同じ運命か?」と思ったが、意外にも力のある会社、ちゃんとしたプランのある会社は悲観視してない。
たとえばトミカで有名なタカラトミーのホビー部門ともいえる「トミーテック」の大内裕幸さんいわく「減ったといっても、今まで月10個ミニカーを買っていた人が6個7個になるとかで、いつかは戻って来ますし、完全に無くなることは考えられません」
こうも続ける。
「今、日本でクルマの販売は落ちてるかもしれませんが、それって実社会の話じゃないですか。今後、日本はご年配の数が増えるんです。特にリッチな団塊の世代がリタイヤして、どんどんホビーの世界に入ってくるとすると、市場は広がるはずなんです。魅力ある商品が作れればですけど」
たしかに!
しかし、トミーテックはすごい実績があって、2004年から“大人のトミカ”ともいうべき「トミカリミテッドヴィンテージ」というツウなシリーズを出しているのだが、これがひそかに大ヒット。ポイントは大人の鑑賞に耐える緻密(ちみつ)な作りと、手応えのあるフルダイキャストシャシー、さらにトミカらしくサイズが64分の1と手頃で、サス付きで遊んでも壊れにくいこと。つまり従来の大人向けミニカーとトミカの良さをプラスしてお値段1200円と絶妙なところを突いているのだ。
結果、一時は大人向けとしては破格の1色(ミニカーの世界ではボディカラー別に1単位とする)2万個オーバーも記録し、1個7000円もする限定モデルが半日で完売したこともあったとか。もちろんリーマンショックの時は落ち込んだが、今は回復傾向で、今年の売り上げは車種増加もあって過去最高なんだそうな。
カーマニアの鉄ちゃん化がカギ!
さらに偶然実現した、トミーテック開発者の小林新吾さんと岩附美智夫社長との三者雑談でも、目からウロコがポロポロ落ちた。
小林:今までの日本のミニカーって、大人を相手にしてるようでしてなかったんですよ。基本子供向けしかなかった。なぜウチのヴィンテージが評価を得てるかって、ちゃんと大人の鑑賞に耐えるクオリティだからなんです。
小沢:しかもトミカらしく手で動かせるし、台座にくっついてるわけではないしね。
小林:車種もスーパーカーばかりでしたが、もっとみなさんの記憶にあるクルマ、たとえば今回は昭和36年式の「日産キャブオール」なんかも出しましたし。
小沢:いわば『三丁目の夕日』作戦ですね。“ミニカーはタイムマシン”だと。
岩附:それともうひとつは個数ですね。ある意味、ミニカーを作りすぎました。
小沢:作りすぎ?
岩附:それってオモチャ屋のやり方なんですよ。子供用は売れると何万個どころか何100万個って出るから、売れるとイッキに作って売り切って、すぐ次! となる。
小沢:すぐ過剰供給して、ブームにして消費し尽くしちゃうと……。
岩附:かたやホビーは本来「売れる商品を作る」というより「ユーザーを育てる」という感覚ですから。数を減らして気持ちを引っ張るくらいでないと。
小沢:もっと出し惜しみせいと(笑)。もしかしてスーパーカーブームもそうすれば長持ちしたんですかねぇ……。
岩附:いま一部出てるF1なんか、もうちょっと寝かせた方がいい部分ありますよね。日本での本当のブームって中嶋悟さんが出た1987年頃じゃないですか。その人たちが年配になるまでにはもうちょっと時間がかかる。
小沢:つまりホビーには“寝かせ”と“適性供給”、出すタイミングと数がポイントであると。
岩附:でも、日本にはいいお手本がありますから。鉄道模型です。あれって実は3世代マーケティングで、おじいさん、おとうさんがやってたから僕もって世界なんです。決してプラレールやってたからじゃない。1モデル何10万個って作らないし、それに鉄道模型は始まってやっと40年ですから。ミニカーはこれから。私たちは鉄道模型に続く大人のホビーにしたいし、できると思ってるんです。
小沢:カーマニアよ、鉄ちゃん化せよ!と。
岩附:(笑)。ある意味そうですね。
いまだ日本にはホビー、たとえばミニカー(モデルカーとも呼ぶ)に対して根強い偏見があって、あれを「子供のオモチャ」と思っている人は多い。それが主に日本をホビー後進国にしている最大の理由だが、今後、仕事ばかりでロクに遊んでない(失礼!)戦争直後世代ではなく、ちゃんと働き、遊んでいた団塊世代がリタイヤするから、うまくリードすればホビーが真に日本に根付く可能性は大きい。
それだけではない。岩附社長いわく「ホビーって、経済成長をとげ、国産品を作り、さらにブームがあって、それが後に一度ポシャった国で育つものなんです。イギリス、イタリア、ドイツ、アメリカ、みんなそう。だから今後日本がアジア初のホビー大国になりうるんです」。
まさしくホビーは知的カルチャーであり、国のマスプロダクトの歴史そのもの。今後栄えるであろう韓国中国に対する絶対的アドバンテージでもあるのだ。
ってなわけで読者のみなさま。クルマに限らず好きなジャンルをそれぞれ深め、日本をミニカー大国に、そしてホビー大国にしようではあーりませんか! それがわが国を幸せに導くひとつの道でもあるのだ、きっと……。
(文と写真=小沢コージ)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 YouTubeチャンネル『小沢コージのKozziTV』
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