三菱パジェロ ロング スーパーエクシード (4WD/5AT)【試乗記】
三菱ディーゼル復活! 2010.11.01 試乗記 三菱パジェロ ロング スーパーエクシード (4WD/5AT)……476万7000円
「ポスト新長期規制」に適合するクリーンディーゼルエンジンを手に入れた「三菱パジェロ」。名実ともにパワーアップした旗艦モデルをオンロードで試した。
SUVとディーゼルの強いきずな
1980年代後半、猫も杓子(しゃくし)もクロスカントリー4WDに走った「RVブーム」を覚えている人は多いだろう。当時はRVといったが、実際は今でいうSUVのことで「トヨタ・ハイラックスサーフ」や「日産テラノ」あたりが若者には人気で、さらに上をいく「三菱パジェロ」はあこがれの一台だった。
当時は今よりもガソリンと軽油に価格差があり、燃費の悪いSUVでは好んでディーゼルエンジンが選ばれた。おかげで、乗用車全体におけるディーゼル車比率は5〜6%を占め、今よりもはるかに身近な存在だったのだ。
ところが、ディーゼル車の自動車税が引き上げられたことなどにより、ガソリンと軽油の価格差が小さくなり、加えて、東京都がディーゼル車に「No」を突きつけたことから販売は低迷。さらに、世界一厳しい排ガス規制といわれる「ポスト新長期規制」が立ちはだかり、日本のディーゼル市場は長い冬の時代を迎えることになった。
しかしながら、最近になって、ようやく春の兆しが見え始め「日産エクストレイル」や「メルセデス・ベンツEクラス」にポスト新長期規制をクリアするモデルが現れている。そして、日本を代表するSUVである「パジェロ」にも、待望のディーゼルエンジンが復活した。
クリーンディーゼルの実力は?
最新の排ガス規制をクリアした「クリーンディーゼルエンジン」。パジェロに搭載されるのは3.2リッターの直列4気筒直噴ターボで、最高出力は190psとやや控えめに思えるが、45.0kgmという最大トルクはタダモノではない。ハードウェアの解説は以前の記事に詳しいので、さっそくオンロードの試乗に向かうことにしよう。
試乗車はシリーズ最高グレードとなる「ロングボディ」の「スーパーエクシード」。車両価格は476万7000円だが、クリーンディーゼル車ということで自動車取得税と重量税あわせて27万9300円が全額免除になるから、同じグレードのガソリンモデルとの価格差は実質1万円ほどだ。
それはさておき、エンジンをスタートさせると、ガソリン車とは明らかに違うタイプの音が耳に届く。「冬の時代」より前のディーゼルに比べたら、ガラゴロ音は格段に抑えられている。排ガスだけでなく、ノイズや振動が低減されているのも最新ディーゼルの特徴なのだ。
しかし驚くのはまだ早い。このクルマのすごさはその圧倒的な加速にある。アクセルペダルをグッと踏むと、2.3トンの巨体が軽々と前に押し出されるのだ。
選択肢は多いほうがいい
カタログによれば、わずか2000rpmで最大トルクを発生させるこのディーゼルエンジン。1000rpmそこそこの極低回転からすでに臨戦態勢となり、ガソリンでいえば4リッターオーバーのV8を扱う感覚でぐいぐい加速する。アクセルペダルを踏み増すと、やや大きなノイズを伴いながら豪快にスピードを上げる。レブリミットは4250rpmだが、4000rpmくらいまではこの勢いが続く。
一方、高速道路を巡航する場面、たとえば5速100km/hで走るとき、エンジン回転数は2000rpmに抑えられ、ディーゼル特有のノイズは気にならない。加速自慢のディーゼルではあるが、一定速で巡航するほうがあらが出ない。残念ながら試乗時間に制限があり、燃費はチェックできなかったが、ガソリンエンジンを上回るのは確実で、ドライバーの財布にやさしいクルマといえる。
NV(ノイズと振動)の点では、ヨーロッパのよくできたディーゼルエンジンにはいま一歩及ばないレベルなのだが、その力強い加速と低燃費性能を存分に堪能できるクリーンディーゼルのパジェロ。高性能と低燃費の両立にはハイブリッドという手もあるが、より低コストで軽量に仕上がる点では、ディーゼルのメリットは大きい。どちらを選ぶかはユーザー次第だが、選ぶ側としては選択肢は豊富なほうがいい。そういった意味でも、このパジェロの果たす役割は大きいはずだ。
(文=生方聡/写真=峰昌宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。