第166回:ゆるキャラの3輪トラック「アペ」、ソーセージ屋台の喜びと憂い
2010.10.30 マッキナ あらモーダ!第166回:ゆるキャラの3輪トラック「アペ」ソーセージ屋台の喜びと憂い
ドイツ版ファストフード「カリーヴルスト」
イタリア人の多くは、「ドイツの料理はまずい」と酷評する。それどころかドイツに住んでいる人まで、ときに「ドイツには、おいしい食べ物がない」と謙遜(けんそん)する。
しかしボク自身は、そんなことはないと思っている。その多彩さはイタリアにひけをとらないし、スープに入った肉だんご「クネーデル」などは、寒い日に食べると、芯から暖まって本当にありがたいものだ。
しかしもともと貧乏性のボクである。どちらかというと、レストランで食べるドイツ料理よりも、ドイツ版ファストフードである「カリーヴルスト」に萌えるのも事実だ。
「Currywurst(カリーヴルスト)」とは、ソーセージにカレー粉とケチャップをかけたものだ。大抵、ふちが波うったような四角い紙皿に、フライドポテトと一緒にでてくる。
ドイツでソーセージ単品を食べたい場合、ビアホールにでも行かないと食べにくいものだ。だが、カリーヴルストなら専門店の店先で単品注文できるので、酒飲みでないボクには大変助かる。
その起源は諸説あるが、第二次大戦後ベルリンでソーセージ屋台を営んでいた女性が、進駐米軍物資のカレー粉を使ってみたのが始まりというのが通説だ。そのベルリンでは、2009年にカリーヴルストの専門ミュージアムまでオープンした。
濃さや味にもよるのだろうが、ドイツ人のなかには、そのソースまで「チューッ」と吸って飲む人までいる。彼らの徹底した平らげかたは、傍で見ていても豪快だ。
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3輪トラックのカリーヴルスト屋台
話はかわって、ドイツ西部ノルトライン−ヴェストファーレン州(NRW)のエッセン市である。ある日、ボクがユネスコ世界遺産にも指定されているツォールフェライン炭鉱跡を訪ねたときのことだ。
日曜日ということもあり、ちょうど屋外イベントが行われていた。そのかたわらに1台の赤いイタリア製3輪トラック「アペ」が停まっているではないか。正確にいうと、かのジウジアーロがデザインした「アペTM」というモデルだ。
アペといえば、大矢アキオである。
「またなんでこんなところに」と思い、前に回り込んでみると、なんとあのカリーヴルスト屋台だった。
車体には、「オリジナル(ドイツ語でいうところの“オリギナール”)ベルリン風カリーヴルスト」と記されている。
荷台部分をのぞくと、若い頃の野坂昭如氏に似たおじさんがいた。といっても、小さな3輪トラックである。おじさんは車両に乗って仕事をしているわけではなく、調理台が設置された荷台の向こうに立って調理していた。
お客も、その小さなクルマを囲んで食べる。「立って半畳、寝て一畳」にちなめば「焼いて半畳、食って一畳」といったところか。
おじさんの名前はテュールさん。彼によれば、この屋台はいわゆるフランチャイズ形式なのだという。彼の加盟するカリーヴルスト屋台は現在チェーン展開中で、2006年に創業されたものである。今日までにNRW州内で女性2人を含む7人が同様に3輪トラックを使って営業しているらしい。
参考までにNRW州は、ベルリンにならんでドイツ国内でカリーヴルストを愛好するといわれる地域で、彼の加盟するチェーン店のデータによれば州内で日に30万食が消費されている。
ところでクルマ好きとして気になったのは、テュールさんのアペには立派なナンバーが、それも前部にも付いていることである。イタリアでもフランスでも、この手の軽便車のナンバーは後部だけでよいというのに。さらにこれまたドイツの一般車同様、車検済みステッカーもナンバーの枠内に貼ってある。
さすがドイツは違う。ボクが感心して話すと、彼は「免許も普通のものが必要だよ」と教えてくれた。
にもかかわらずアウトバーンは走れない不条理に哀れみを感じるのは、ボクだけだろうか。遠くのイベント会場で出張販売するときは、かなり早めに出て一般道を走って行かなければならないだろう。
どうなる、この手のクルマの未来
ボクも食べてみることにした。ひと皿2.5ユーロ(約280円)である。野坂さん…、いやテュールさんが「シャルフ(辛め)か?」とボクに尋ねる。お客の好みに合わせ、辛さを調節するのも、このチェーン店の売りらしい。さっそくアペの脇で盛りたてのカリーヴルストを賞味してみると、辛さのパンチと、ケチャップのまろやかなコクが絶妙である。ボクが今まで食べたカリーヴルストの中でも、五本の指に入るうまさだ。
付け合わせのパンが日本でいう「食パン」なのは他のカリーヴルスト屋台でも時折見かけるものだ。でも、しゃれたパンよりも屋台食っぽくてボクは好きである。
振り返ると、昼前というのにボクの後ろには20人近くのお客さんが列をなしていた。この人気、カリーヴルストの味はもちろんだが、アペというクルマのキャラクターも大いに味方しているに違いない。アペの本場であるイタリア人が気づかない、ニクい作戦である。
しかしながら昨今イタリアの街で、アペは旧「ダイハツ・ハイゼット」をベースにした「ポーカー」という軽4輪に取って代わりつつある。うちの近所の左官屋さんもアペからポーカーに乗り換えた。将来アペは消えてゆくのだろう。
そういえば、日本ではクレープ屋さんの定番であり、こちらでもアイスクリームなどの移動販売車として使われている「シトロエンHバン」も1981年に生産終了している。
こうした、日本風にいえば「ゆるキャラ」系商用車が将来少なくなると、欧州の人気移動販売車の未来はどうなってしまうのか、ちょっと心配になってきたボクだった。
(文と写真/大矢アキオ、Akio Lorenzo OYA)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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