メルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジー エディション1(4WD)
唯一だけど大きな問題 2025.01.14 試乗記 電気自動車(BEV)の「Gクラス」こと「メルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジー」を公道で試乗。ケタ外れのパワーユニットと大容量のバッテリーを搭載しているが、実際にはどれくらい走れるものなのか。300km余りのドライブで検証した。難攻不落のとりで
電気ですか? 電気があればなんでもできる。電気ゲレンデヴァーゲンことメルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジーは電気の塊、つまり元気の塊なのだった。
BEVなのに、スターターボタンを押すや、ブオンッとひと声ほえる。そうだ。元気ですよ、と答えたい(c吉田拓郎)。「G-ROAR(Gロア)」と呼ばれる、V8エンジンを思わせる人工音によるもので、Gロアはリアルにバーチャルリアリティーの世界へと誘う。モノマネの世界、「ごっこ」の世界ともいえる。
こどものころ、読者諸兄姉もやったことがあるのではあるまいか。お医者さんごっことか電車ごっことか。どですかでん、どですかでん。V8の「G63」ごっこをするG580は、おとなになった私たちの想像力をグオオオオオオオオオオオオッと刺激する。
Gクラスを電動化するにあたり、強固なラダーフレームはさらに強化されている。それというのも、重たいリチウムイオン電池を大量に搭載するためだ。電池は衝突時やオフロードでの走行に備えて強固なケースにおさめられている。高さ400mmのケースはラダーフレームと一体化され、フロアはますますもって難攻不落のとりでと化している。おそらく、ですけれど。
リチウムイオン電池の容量は116kWh。これがどれくらいの容量なのか? 「日産リーフ」の高性能版「e+」の60kWhや「トヨタbZ4X」の71.4kWhのおおよそ2倍。約122kWhと予想されている「テスラ・サイバートラック」の最高性能版「サイバービースト」にはちょっと負けるものの、「ポルシェ・タイカン」の高性能版の105kWhを上回る。まさにデンキの塊といってよいのではあるまいか。
12リッターエンジン級のトルク
デンキ=ゲンキがあれば、なんでもできる。G580ときたら、最高出力147PS、最大トルク291N・m、ガソリンエンジンでいえば、3リッターV6にも匹敵するトルクを発生する電気モーターを4輪それぞれに備えている。どひゃー! ってことは、12リッターV24に匹敵! V12×2!! う~む。V12を2機搭載した自動車というのは筆者も聞いたことがない。あくまで仮定の話ながら。
G580 with EQテクノロジーはシステム最高出力587PS、システム最大トルク1164N・mの、途方もないスーパーパワーを誇る。これにより、車重3120kgのウルトラヘビー級ボディーを0-100km/h=4.7秒で加速させ、最高速180km/hに到達せしめる。3120kgはガソリンV8ターボのメルセデスAMG G63の2570kgより550kgも重いことを意味する。
ウルトラヘビー級ボディーのおかげもあってだろう。乗り心地はG63よりも明らかに優れている。電気Gクラスに限り、リアに新開発のド・ディオンアクスルが採用されていることも、おそらくある。
電気いっぱいのG580はアクセルペダルを軽く踏んでいる限りだと、ほぼ無音で走り始める。それにしても、着座位置が高い。最低地上高は250mmもある。名にし負う「トヨタ・ランドクルーザー“70”」より50mmも高い。
ドライブモードを「スポーツ」に切り替えると、GロアはV8みたいなビートをグオオオオオオオオオッと刻む。乗用車の基準で申し上げると、乗り心地は素晴らしいわけではない。3t超の重しでもって上下動は小さく抑えられているものの、275/50R20サイズのタイヤとホイール、それにリアのリジッドアクスルが微妙にトラックっぽい動きを見せる。それでもG63より快適なのは、タイヤサイズからも想像できる。G63は本格オフロード4×4なのに、285/45R21という超大径極薄偏平タイヤを履いている。
どこまでもV8テイスト
不思議なことに、G580は舗装されていない路面のほうが快適に感じる。メルセデス・ベンツはこの電気ゲレンデヴァーゲンのオフロード能力の開発に、内燃機関のGクラス以上の情熱を注いでいる。オフロード用のローレンジギアが設定され、「G-TURN」に「G-STEERING」といった4輪独立モーターならではの必殺技が与えられているのだ。もっとも、今回は一般道での試乗ゆえ、どちらも筆者は試していない。
通常の使用で断言できるのは、電子制御サスペンションを新たにおごられた最新のG63より乗り心地がよいことである。GロアでV8ビートを刻むのに、内燃機関の微振動とは無縁。無振動なのにV8ビートが室内にとどろくのだからバーチャルワールドである。さながら、ユニバーサル・スタジオのハリー・ポッターのアトラクションのごとく、じつは空を飛んでもいないのに視覚と聴覚、サウンドの効果で錯覚させる。
停車時には、ひゅううううん、という回生ブレーキとおぼしき電子音が聞こえる。電気のGクラスは電気なのに、限りなく内燃機関のV8 Gクラスを模倣している。ここまでマネをすることに意味があるのか? 芸術は自然を模倣するらしい。模倣とは芸術、アートなんである。松村邦洋とか清水ミチコとか、往年のタモリとかコロッケとかのモノマネはなぜ面白いのか? 筆者は常々不思議なんである。不思議だからオモシロイということはある。G580のオモシロさはそこにある。ここまで内燃機関のマネをする意味は奈辺(なへん)にありや?
安心感たっぷりに曲がる
自動車というハードウエアとして見たとき、付け加えておきたいのは制動力だ。こんなに重いのに、さすがメルセデス・ベンツ。強力なブレーキを備えている。スムーズな加速が印象的なことはBEVなのだから当然ともいえるけれど、それでもやっぱり印象に残る。
コーナリング時の姿勢も素晴らしい。重たい電池をフロアに敷き詰めているため、全高1990mmと、193cmの大谷翔平や196cmのダルビッシュ有よりも高いのに重心がめちゃんこ低い。車検証にみる前後重量配分が48:52であることもあって、トランスアクスルのフロントエンジンスポーツカーみたいにコーナリング時、外輪の前後にバランスよく車重がのっかり、こんなに背が高いのに安心感たっぷりの姿勢を披露する。存外ロールが小さいのは、もちろんサスペンション設定ゆえだろうけれど、物理的には重たいから、なのかもしれない。
実用上、問題があるとしたら電費である。東京から河口湖に至り、河口湖周辺で全開加速を繰り返したため、帰路に就くときには電気エネルギー残量36%、最長航続距離153kmになっていた。無充電では東京まで、戻れぬやもしれぬ……(編集部注:282km走って2.8km/kWhでした)。
しかして、一寸先はハプニング。というのは世の常、人類に課された宿命ともいえる。BEVにおける次の戦いは電費。電費があれば、なんでもできる。いけば分かるさ。迷わずいけよ。1、2、3、ダーッ!
(文=今尾直樹/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=メルセデス・ベンツ日本)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジー エディション1
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4730×1985×1990mm
ホイールベース:2890mm
車重:3120kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機×2
リアモーター:交流同期電動機×2
フロントモーター最高出力:147PS(108kW)/3542-1万0328rpm<1基あたり>
フロントモーター最大トルク:291N・m(29.7kgf・m)/111-3542rpm<1基あたり>
リアモーター最高出力:147PS(108kW)/3542-1万0328rpm<1基あたり>
リアモーター最大トルク:291N・m(29.7kgf・m)/111-3542rpm<1基あたり>
システム最高出力:587PS(432kW)
システム最大トルク:1164N・m(118.7kgf・m)
タイヤ:(前)275/50R20 113V XL/(後)275/50R20 113V XL(ファルケン・アゼニスFK520)
一充電走行距離:530km(WLTCモード)
交流電力量消費率:262Wh/km(WLTCモード)
価格:2635万円/テスト車=2635万円
オプション装備:なし
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:1689km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:282.0km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:2.8km/kWh(車載電費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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