“出たばかりのクルマ”は買わないほうがいいか?

2025.01.28 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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「新車として出たばかりのクルマは初期トラブルが多いので、できれば1~2年待ってから買うといい」と知り合いに言われました。現実にそういう面はあるのでしょうか? もし「〇年後なら安心できる」というタイミングがあれば教えてください。

「買ってすぐに困ってしまう」というケースは年々減っていますが、今でも全くないとはいえません。一般的なイメージとしてはどうでしょう。「日本車はまぁ大丈夫だろうが、輸入車はちょっと危ないんじゃないか」という感想も耳にしますが……。私自身、かつて“国内第1号車”となる輸入SUVを購入し、トラブル続きであまり乗れないまま買い戻してもらったという、ちょっと残念な経験があります。

では海外のメーカーは初期トラブルを気にしないのかといえば、私がBMWといっしょに仕事をした経験からいうと、そんなことはありません。事前にすごくテストしているし、協業相手だったトヨタ側からもテストを要求して初期トラブルを減らそうと努力をしていました。それでも全般的にいって、立ち上がりから2~3カ月のトラブルは、トヨタよりも若干多めだったという印象はぬぐえませんが……。

そもそも日本と欧米とでは、クレームのポイント、着眼点が違います。日本人は小さな傷とか合わせ目のズレとか、こまごましたことを指摘しますが、そういうクレームは欧州のユーザーからはまったく出ない。しかし、「以前乗っていたクルマよりもハンドリングが不安定でふらふらする」みたいな、自動車雑誌の評論のようなことをお客さんが言うわけです。日本ではあり得ません。そのため、国産車から乗り換えるといろいろ言いたくなるという面はあるでしょう。

国産車にしろ輸入車にしろ、「そもそも、事前にテストやチェックをしているはずなのになんで不具合を見逃すのか?」と思われるでしょうが、それは“数”の問題です。発売後は、そのクルマを走らせている人が(社内のテスターとは)ケタ違いに多くなります。いろんなユーザーがいろんな走り方でチェックする。それにより見つかる不具合も各段に増えるという、単純な理屈なのです。

「では、どれくらい待てばいいのか?」については、メーカー側でたまたま見逃したというケースもありますし、本当にケース・バイ・ケースとしか言いようがありません。

メーカーの事前チェックには、どうしても限界があります。各社、そういうことのないように努力してはいますが、部品単体では何の問題もなくとも、部品を組み合わせて初めてトラブルが起こるということも一定数あります。それで「早く買って損した」と言われないようにメーカーは品質保証をつけて、購入時期で差が出ない体制を整えています。

皆さん、新しく出たものを気に入って買われるわけですし、当然、できるだけ早く乗りたいですよね。なのに不具合が出ることを恐れて購入タイミングをずらすというのも、クルマ好きとしては損なことです。

好きなモデルは早めに手に入れ、もし初期トラブルに遭ってしまったら「メーカーすら気づかなかった不具合を見つけて、フィードバックしてやった!」くらいの気持ちでいるというのもひとつの対処法かもしれません。私自身、自動クラッチのバイクが出た際には、「新しいメカニズムだし、トラブルが起きそうだな……」と思いつつも、前述のとおり気持ちを切り替えて、あえて1号車を買い求めて付き合っています。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。