第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかし、私たちの心はイマイチ、以前のようにはときめかないのである。見目麗しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。
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どんなにカッコよくたって……
webCGほった(以下、ほった):……えー。今回は「マツダの明日はどっちだ?」って話ですね。またしてもジャパンモビリティショー(以下、JMS)がらみですが、ようやく魂動デザインの次の一手が見えたっぽいので、その話をしようかと。
清水草一(以下、清水):まだJMSを引っ張るのかって言われそうだね(笑)。
ほった:さすがにJMSネタもこれが最後ですけどね。それにしても、その最後がマツダというのも皮肉というかなんというか。なんせ最近のマツダに対しては、ワタシらのショーで見る目が厳しくなってますからね。コンセプトカーを出しておしまい。市販の予定ナシ! って流れが、ずーっと続いているから。
清水:もう本気で見なくなっちゃったよ。
ほった:どんなにカッコよくても、市販化が期待できないと気が抜けちゃいますよね。話題になった「RX-VISION(以下、RXビジョン)」系のコンセプトモデルも、結局あれっきりだし。そのくせ中国で発表したコンセプトカーはすぐに市販化するし(笑)。まぁグチっててもしょうがないので、本題に入りますが。
渕野健太郎(以下、渕野):JMSに出展された2台についてですね。「VISION X-COUPE(ビジョン クロスクーペ、以下Xクーペ)」の意図は測りかねますが、コンパクトカーのほうの、「VISION X-COMPACT(ビジョン クロスコンパクト、以下Xコンパクト)」はいいですよね。「デミオ」や「マツダ2」など、市販車が想像できるプロポーションで、自分はこちらのほうがよくできているし、いいなと思いました。
ほった:Xコンパクトのほうがステキでしたね、お尻がプリプリしてて。編集部のサクライも「これがおすすめ!」で推していましたよ。
今日に至る「魂動デザイン」の変遷
渕野:魂動デザインの歴史を振り返ると、マツダは15年くらい前からこれをやっていて、最初はおそらく、2010年発表の「靭(SHINARI)」だったと思います。その後に「雄(TAKERI)」「勢(MINAGI)」が出て、それぞれ「アテンザ」「CX-5」と市販車に落とし込んでいったわけです。大きな変化があったのが2015年の東京モーターショーで、RXビジョンで皆、度肝を抜かれたわけですよ。これが、今日の魂動デザインの方向性を決めたクルマかなと思います。
清水:あのころは、完全にモーターショーの主役でしたね……。
渕野:RXビジョンでなにが変わったかというと、面のリフレクション(映り込み)の動きを、すごく重視するようになったんです。プロポーションもですが、オリジナリティーとしてリフレクションの変化を追求するようになった。2年後に出た「VISION COUPE(ビジョン クーペ)」ではよりそれが顕著になって、「マツダ3ファストバック」や「CX-30」などの市販車にも反映されていきました。
ほった:RXビジョンもビジョン クーペも、市販化はされなかったけど、あのデザインはそれなりに他車に生かされたんですよね。
渕野:次いで2023年の「ICONIC SP(以下、アイコニックSP)」では、それまでのリフレクション重視の路線から離れて、「よりシンプルな造形にしていこう」というデザインテーマが見てとれました。そして、今回出た2台のコンセプトカーですね。基本的な立体構成は2017年のビジョン クーペあたりから変わっていませんが、表現のしかたがマイルドになっている(写真キャプション参照)。リフレクションを強調するより、すんなり見られるものにしたいのかなと、デザイナーの意図は伝わってきました。
清水:どっちも美しいのは確かです。
渕野:以前、この連載の新型CX-5の回(その1、その2)で、「マツダのデザインはコンサバになった。守りに入ったのか?」と言いましたが 、今回の2台を見て、また魂動デザインに攻めの姿勢が出てきたなと思いましたよ。
清水:まぁショーカーとしてはそうなのでしょう。でも私は、現実性を重視してしまうんだよなぁ。
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「ビジョンXコンパクト」のデザインは実現可能か?
ほった:現実性というと、市販車の可能性があるかってことですね。
清水:そうそう。Xクーペのほうはもう、現実になりっこないAIアイドルですよ。新型マツダ2になりそうなXコンパクトには、「やっと少し現実的なアイデアを出してくれた」って感じましたけど、でもこのプロポーションは電気自動車(BEV)じゃないと無理なのでは? エンジンを積むスペースはあるのかな。
ほった:それにこのクルマ、デザインのキモは下半身の踏ん張り具合とプリッとしたお尻だと思うんですけど、コンセプトカーが市販車になるとき、一番犠牲になるのは造形じゃないですか。仮に市販化されるとしても、このかわいらしさは維持されるかな?
渕野:いや。このCピラーからリアフェンダーにかけてのスムーズな面は、「マツダ3ファストバック」と同じものですよ。マツダ3でも度肝を抜かれましたし、Xコンパクトが市販化されても、Cピラーまわりのシルエットは保たれると期待したいですね。この控えめなリアバンパーまで再現できるかはわかりませんけど……。
それと全体のシルエットに関しては、Aピラーを立たせてCピラーを寝かせた、往年の「フィアット500」のような形をしていますよね。要は懐古主義的なところもある。以前取り上げたネオレトロ系のモデル(その1、その2)ではありませんが、Xコンパクトが魅力的に見えるということは、やはり皆、こういう古典的なスタイルを求めているのでしょう。
ほった:なるほど。
渕野:気になる点を挙げると、Xクーペもそうですがリアコンビランプのグラフィックが「なんでこれなの?」とは思いますね。リアゲートをはじめとするリアまわりの造形と合ってないように思います。
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理想が先走りすぎてない?
清水:とにかく、こういうものを出したんだから、ぜひマツダ2をモデルチェンジしてほしいですよ!
渕野:現行型はスポーティーで古びない、いいデザインをしていますが、とはいえデビューから11年ですからね。ぜひこのコンセプトカーをベースに、新型を出してほしいです。
ほった:いやー。でもどうだろう。今はBセグのコンパクトって世界的に厳しいですからね。台数ははけないし利ザヤも稼げないし。マツダ2も、最終的には「トヨタ・ヤリス」のOEMになっちゃうんじゃないですか? ヨーロッパで売ってる「マツダ2ハイブリッド」は、すでにヤリスの姉妹車だし。
渕野:でも、全部をヤリスのバッジ違いにする気なら、こんなコンセプトカーは出さないんじゃないですか? やる気はあると思いますよ。
清水:トヨタのプラットフォームでマツダにデザインさせる、というかたちを期待したいな。
ほった:「これっぽい見た目で中身はヤリスでいい」ってことですね。もうメカがスカイアクティブとかロータリーじゃなくても。
清水:むしろ、もうロータリーはあきらめてほしいな。スカイアクティブも……。
ほった:あれだけ華々しくデビューした「SKYACTIV-X」も、現状は厳しいですしねぇ。
清水:今回のXクーペのメカもそうだよ。「走りながらCO2を回収する」(参照)っていうけど、まさに夢物語に聞こえてしまう。志が高いのはいいけど、最近のマツダは志だけが先行したメカが続いているから。
なんでクーペ型のショーカーをつくるのか
ほった:デザインに話を戻すと、今回の2台を見ていると、中国で出た「創(ARATA)」や「EZ-60」を思い出しますね。Xクーペの顔の雰囲気とか。
渕野:そうですね。こうして見ると、考えようによっては新型CX-5だけが異質な気がしてくる。まとまりのいいデザインですが、マツダへの期待を思うと、やはりもう少し攻めてほしかったな。
ほった:それと、今回のコンセプトには過去にない新しい点もありますよね。フロントマスクの、今までだったらグリルがあった部分の両サイドに、縁取りみたいにランプを入れている。
渕野:そうですね。これが効いている気がします。これがなかったら、マツダ車には見えないかもしれない。やはりグラフィックは立体より力が強いんですよ。これが“BEV時代の顔”としての、マツダの回答なのかな。
清水:XクーペはBEVじゃないですけどね。まぁグリルはないし、BEV時代を見据えたデザインではあるんだろうけど。
ほった:「カーボンニュートラル燃料で駆動する2ローターロータリーターボエンジンとモーター、バッテリーを組み合わせた、プラグインハイブリッド」ってことになってますね。で、さっき言ってたCO2回収装置も積んでると。
清水:理想は天より高いね。
ほった:ちょうどXクーペに話題が移ったんでそちらの話をしたいんですが、このクーペ、多少はSUVを意識しているんでしょうか?
渕野:うーん。車高が高いわけじゃないけど、ベタベタでもないですよね。これがマツダのさじ加減なのかもしれません。ただ、SUVだったらもっとSUV的にしてもいいと思います。
ほった:なるほどぉ……。いや、この手のクーペ型のショーカーって、デザインを他の車形に応用するのが難しいと思うんですよ。前にも「RXビジョンやビジョン クーペはカッコよかったけど、『CX-60』はちょっと……」って話をしたと思うんですが(参照)。そもそも、現行ラインナップもほとんどがハッチバックとSUVなのに、なんで、こういうときだけ背の低いショーカーをつくるのかと。
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そろそろ現実解を見せてほしい
渕野:確かに、XクーペのデザインをSUVに落とし込のむは難しそうですね。アイコニックSPのデザインも、よっぽど抑揚を出さないと他の車形では成立しないと思いましたけど。
清水:相当な全幅が必要になりますね。
ほった:だいたい、クーペのコンセプトカーって屋根が低くてキャビンが小さいからカッコいいのであって、そのモチーフのままボディーを厚くしてキャビンをデカくしたら、「あれ?」ってなっちゃうと思うんですよ。最初からSUVでコンセプトモデルをつくって、まずSUVに親和するデザインを模索するほうがいいんじゃないかな。
清水:あと、クーペばっかだと「どうせ出ないんでしょ」ってシラけちゃうしね。
ほった:そうそう。今回の議論も、いろいろ新しいモノが見えてきたのにビミョーに盛り上がらないじゃないですか。
清水:これまではマツダにしっかりだまされてたけどね(笑)。RXビジョンやアイコニックSPを見て、「スゲエ! 美しすぎる! 欲しい」って。まぁ、マツダ自身が「市販化します」って言ってたわけじゃない。僕らが勝手に期待しただけなんだけど。
ほった:でもですよ。提案性に振ったのでもない、市販化もしない、デザインの横展開もビミョーってなると、そのコンセプトカーの意味ってなんなん? ってなりますよ。やっぱり。
渕野:コンセプトカーの立ち位置の問題は、結構重要ですよね。
ほった:出来栄えがどうこうじゃなくて、そのコンセプトカーをつくる目的はなにか、どんな役割を担わせるのかを、ちゃんと考えるってことですよね。まぁ海外のショーだと、夢を見せる系のショーカー自体がほとんどなくなってしまったから、こういう悩みがあるだけでも、日本のメーカーとユーザーは恵まれているのかもしれませんが。
清水:いや~、夢ばっかり見せるのも問題だよ。マツダはそろそろ現実解を見せてほしい!
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=ダイハツ工業、トヨタ自動車、本田技研工業、マツダ、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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