同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?

2025.12.23 あの多田哲哉のクルマQ&A 多田 哲哉
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同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚は異なると思います。その違いを決定づけるのは、どんな要素なのでしょうか? 車台が同じでも、味や性格の違いは容易に出せるものですか?

車両開発の話で“味”とか“秘伝のタレ”とか言っているメーカーは、今ではトヨタだけかもしれませんけれど……それはさておき。

多くの方は、クルマの「乗り味」と「運動性能」がごちゃごちゃになっているのではないかと思います。

クルマのいわゆる運動性能は、プラットフォームのスペックを決めた段階でほぼ固まってしまいます。つまり、「ホイールベース」「トレッド」「重心高」という3要素を定めた時点で、旋回性能をはじめとする走りの要素は決まってくる。それ以外のサスペンション形式やパワーステアリングのセッティングなどが、どちらかというと乗り味に関係してくる、というだけのことなんです。

味(=ドライバーがどう感じるか)を変え得る要素としては、ほかにシートやステアリングホイールの形状と質も挙げられます。視界も重要で、運転席から見える景色、そして車両の四隅の捉え方は、乗り味に大きく影響します。インストゥルメントパネル上面の形状もそうです。たいていはRの大きなラウンド形状になっているのですが、その曲面をどのようにするかでドライバーの感じ方は大きく異なってくる。特にスポーツカーは、そのRを気にして設計します。ポルシェなんか、絶妙ですよね。

ほかにも要素となるのは、タイヤ、サスペンションのジオメトリー、ボディー剛性など。電子制御も今はなんでもできるので、大きく道具立てを変えなくてもプログラムを調整するだけで、ドライバーの感じ方が大きく変わってくる。プラットフォームが同じである以上、クルマの基本的な運動性能も同じなので、こうした要素を工夫することで、そのメーカーのクルマらしい性質に変えていける。それがまた、クルマの面白いところでもあります。

繰り返しになりますが、クルマの運動性能は物理的な性能で、乗り味というのはドライバーが感じるもの、感じ方の定義です。そこが大きな違いで、よく勘違いされるところでもあります。

そうやって整理して考えていくと、プラットフォームが同じクルマ同士で乗り味が違うというのは当然ですし、逆に、基本的な運動性能のポテンシャルは、プラットフォームを変えない限りは変わらないともいえます。

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多田 哲哉

多田 哲哉

1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。