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第25回:フェラーリ12チリンドリ(前編) ―新しい跳ね馬に宿るデザイン的革新―

2024.05.22 カーデザイン曼荼羅 渕野 健太郎清水 草一
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ついに登場したフェラーリの新たな12気筒モデル「12チリンドリ」。これまでとは大きく方向性が異なるニューモデルのデザインを、大乗フェラーリ教開祖とカーデザイン歴20年の識者が語る。そのカッコよさは、あの往年の名車を超えたのか!?

スマホの画面で見ただけでもカッコいい

清水草一(以下、清水):ドーディチ チリンドリ……なかなか車名が覚えられないですけど(全員笑)、フェラーリのニューモデルって、なにが出ても最近はあんまり読者の反応がよくなかったんじゃない?

webCGほった(以下、ほった):正直そうですね。でも、12チリンドリの記事はかなり見られてます。

清水:そういうの、すごく久しぶりでしょ?

ほった:久しぶりですね。このあいだの“フェラーリ デザイン評”は辛口でしたけど(その1その2)、清水さん的にも、今回は「カッコいいのが出た!」って思います?

清水:本当に久しぶりにカッコいいのが出たと思ってるよ。超リバイバル系のデザインだけど。

ほった:顔は昔の「デイトナ(365GTB/4)」ですよね。

清水:渕野さんも結構評価してるって聞いてますけど。

渕野健太郎(以下、渕野):僕がフェラーリを評価するというのもおこがましい話ですけど(笑)、このクルマはスマホの小さい画面でパッて見ただけでカッコいいって思えたんですよ。ロングノーズ/ショートデッキで、なおかつモダンな感じがして。フロントノーズが低くて尖(とが)っていて、ドアサイドの面質もイイ。クルマのエクステリアの印象って、結局、最初のほんの数秒で決まるじゃないですか。このクルマは特にフロントクオーターがいいなと思います。

清水:フロント側は安心して眺められますね!

2024年5月3日に米マイアミで世界初公開された「フェラーリ12チリンドリ」。このご時世にノンターボ、電動機構なしの12気筒という、潔いスーパースポーツだ。
2024年5月3日に米マイアミで世界初公開された「フェラーリ12チリンドリ」。このご時世にノンターボ、電動機構なしの12気筒という、潔いスーパースポーツだ。拡大
最近の他のフェラーリとは異なり、シンプルにプロポーションで勝負をしてきた感のある「12チリンドリ」。遠目に見ても、それこそ携帯端末の画面越しでさえ「おっ」と思わせる存在感を放つ。
最近の他のフェラーリとは異なり、シンプルにプロポーションで勝負をしてきた感のある「12チリンドリ」。遠目に見ても、それこそ携帯端末の画面越しでさえ「おっ」と思わせる存在感を放つ。拡大
1968年に登場した“デイトナ”こと「フェラーリ365GTB/4」。初期のモデルは前端がプレキシガラスで覆われていて、その中央部はブラックとなっていた。(写真:newspress)
1968年に登場した“デイトナ”こと「フェラーリ365GTB/4」。初期のモデルは前端がプレキシガラスで覆われていて、その中央部はブラックとなっていた。(写真:newspress)拡大
清水「……超リバイバル系のデザインって言っちゃったけど、こうして見ると、顔以外はあんまり“デイトナ”とも似てはいないんだよね」 
ほった「というか、過去のどのフェラーリとも似てない印象ですね」
清水「……超リバイバル系のデザインって言っちゃったけど、こうして見ると、顔以外はあんまり“デイトナ”とも似てはいないんだよね」 
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キーワードは“軸感”

渕野:いっぽうリアに関しては、ここまでデザイン的に新しいことしなくてもよかったんじゃないの? と思ったりしました。リアにはデザイナーが「なんかやらないと!」って思って、なんか頑張っちゃった感じがありますね。

清水:実際、リアでなにか新しいことをしないと、ただのリバイバルって言われるでしょうからねぇ。ただ、この「デルタウイングシェイプ」って、基本的にはボディー色の変化だけで、造形はスーッと流れてるわけですよね。写真だとちょっとわかりづらいですが。

ほった:トリックアートみたいですよね。

渕野:そうなんですよね。まぁリアについては後で触れるとして、まずは他のポイントからいきましょう。フロントはデイトナを意識してますけど、それより最近のFRフェラーリと違うのは、サイドの軸がすごくしっかり通ってることです。

清水:そこですね!

ほった:サイドビューのこれ。この一直線のライン(写真参照)。

渕野:それです。そこが一番重要です。前から後ろまでスパーンといってるでしょう? そのキャラクター線をシルエットがしっかりフォローしているので、12チリンドリには明快に“軸感”があるんです。ただ必ずしもキャラクター線を前後に通さなきゃいけないことはなくて、実際、ラインが通ってなくても軸を感じさせるクルマはあります。どちらにしても、軸感を表すことはカーデザインの基本なんですね。

清水:(「550マラネロ」や「F12」「812」の写真を広げつつ)。以前はグニャグニャ曲がってましたからね。

渕野:いっぽうでリアまわりのグラフィックについては、真横から見たときに黒い部分の縁がそのラインをぶつ切りにしてしまっています。これがもったいないと思いました。

清水:真横から見て、ちょっとだけ黒く見える部分ですか?

渕野:そう。そこです。

「12チリンドリ」のフロントマスク。中央部がブラックとされたノーズの意匠に「デイトナ」の面影を感じる。
「12チリンドリ」のフロントマスク。中央部がブラックとされたノーズの意匠に「デイトナ」の面影を感じる。拡大
リアまわりでは、大胆に取り入れられたブラックのカラーリングが特徴。真後ろからではわかりづらいが、キャビンから後ろの全体でV字のモチーフを表している。
リアまわりでは、大胆に取り入れられたブラックのカラーリングが特徴。真後ろからではわかりづらいが、キャビンから後ろの全体でV字のモチーフを表している。拡大
サイドビューでは、ヘッドランプからテールランプまで貫くように、直線のラインが車体を横断。これにより、クルマの“軸感”が強調されている。一方、車両後端は黒で“ぶつ切り”にされており、ちょっとクルマのフォルムがわかりにくくなっている。
サイドビューでは、ヘッドランプからテールランプまで貫くように、直線のラインが車体を横断。これにより、クルマの“軸感”が強調されている。一方、車両後端は黒で“ぶつ切り”にされており、ちょっとクルマのフォルムがわかりにくくなっている。拡大
一世代前のFR 12気筒モデルにあたる「812スーパーファスト」(2017年)のキャラクターラインはご覧のとおり。ボディーサイドは車体底部から後ろへと跳ね上がる曲線(曲面)の造形が目を引く意匠で、クルマの“軸感”はあまり意識されていない。
一世代前のFR 12気筒モデルにあたる「812スーパーファスト」(2017年)のキャラクターラインはご覧のとおり。ボディーサイドは車体底部から後ろへと跳ね上がる曲線(曲面)の造形が目を引く意匠で、クルマの“軸感”はあまり意識されていない。拡大

リアにはちょっと気になるところも

渕野:この黒い部分は、リアクオーターから見れば「こういう流れにしたいんだな」っていうのがわかりますけど、真横から見たときは、なんだか脈絡がなく感じられるんですよね。最後部の黒い部分もボディー色にしたほうが、クルマを長くキレイに見せられるじゃないですか。やっぱり、「なにか新しいことをしないといけない」っていうのがどうしてもあったんでしょう。

清水:自分がもし担当デザイナーだったら、なにかしら新しさを見せなきゃ立場がないって思うだろうな。

ほった:フェラーリとしても、遺産だけで食ってる道楽息子って言われかねないですからね。

渕野:あと、前回のフェラーリについての回で、「ローマ」のフロントのフェンダーがポヨンと盛り上がっていてタイヤが小さく見えるっていう話をしたじゃないですか(参照)。

清水:そのせいで、どこか富裕層の奥さまのお買い物グルマに見えてしまう、という。

渕野:12チリンドリに関しては、全然それはないです。

清水:ないですねー! 男が命を乗せて走るクルマに見える。

渕野:フロントフェンダーが薄く引き締まっていて、タイヤがしっかり主張して見えますから。リアフェンダーは結構ぼっこりしてるので、こちらはもう少し抑えてもよかったかと思いますけど、全体としては普通にいいなって思います。

ほった:普通にいい(笑)。確かに普通にいいですね。お値段は普通じゃないけど。

清水:7000万円くらい? クラクラするな~。

「12チリンドリ」の大きな特徴となっている「デルタウイングシェイプ」。フロントウィンドウやカーボンファイバールーフ、サイドウィンドウをひとつのセット、リアウィンドウとリッド、エアロフラップをもうひとつのセットとしてブラックでまとめ、リア全体でV字のモチーフを表現している。
「12チリンドリ」の大きな特徴となっている「デルタウイングシェイプ」。フロントウィンドウやカーボンファイバールーフ、サイドウィンドウをひとつのセット、リアウィンドウとリッド、エアロフラップをもうひとつのセットとしてブラックでまとめ、リア全体でV字のモチーフを表現している。拡大
渕野氏&清水氏に「お金があったら買いたい」とまで言わしめた「ローマ」だが、フロントフェンダーはやや膨らみが強く、タイヤが小さく、ボディーを重たく見せてしまっていた。
渕野氏&清水氏に「お金があったら買いたい」とまで言わしめた「ローマ」だが、フロントフェンダーはやや膨らみが強く、タイヤが小さく、ボディーを重たく見せてしまっていた。拡大
いっぽう、「12チリンドリ」のフロントフェンダーはご覧のとおりの薄さで、非常に軽快でスポーティーだ。いっぽうリアフェンダーは、“ぽっこり”とした形で膨らみを強調している。
いっぽう、「12チリンドリ」のフロントフェンダーはご覧のとおりの薄さで、非常に軽快でスポーティーだ。いっぽうリアフェンダーは、“ぽっこり”とした形で膨らみを強調している。拡大

あの「デイトナ」を超えたか!?

渕野:ところで、リアのデルタウイングシェイプ、フェラーリはほかのモデルでもやってましたよね?

ほった:やってましたっけ?

渕野:ちょっと待ってください。……あー、これです。

ほった:えっ、「SF90ストラダーレ」ですか。

清水:ホントだ。形は違うけどデルタウイングだ。まったく印象に残ってなかった。

渕野:フェラーリとしては、こだわっている造形なのかもしれませんけど、もっとシンプルでもよかったのかなと。

清水:スパイダーだと、黒い部分の面積がぐっと小さくシンプルになりますけど。

webCGほった:シンプルっちゅうか、普通になるんですよね。それでも尻の端は黒なんですが。

清水:あんまり目立たなくなる。そのほうがいいと思ってしまうのは、新しいことを拒否する守旧派みたいで嫌だけど。

渕野:で、これがオリジナルの365GTB/4デイトナです。やっぱりオリジナルはカッコいい。サイドビューがすごく明快なんですよ。フロントクオーター、リアクオーターよりも、サイドビューが一番好きです。

清水:僕は12チリンドリのほうがカッコいいと思いますよ。

ほった:マジですか!?

清水:だってデイトナって結構胴体太いし、前も後ろもポッコリしてるでしょ。12チリンドリのほうが引き締まって見えるな。実物見てみないとわかんないけど!!

後編へ続く)

(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=フェラーリ、newspress、webCG/編集=堀田剛資)

「12チリンドリ」の、俯瞰(ふかん)よりのリアクオータービュー。この角度で見ると「デルタウイングシェイプ」の意匠がよくわかる。
「12チリンドリ」の、俯瞰(ふかん)よりのリアクオータービュー。この角度で見ると「デルタウイングシェイプ」の意匠がよくわかる。拡大
プラグインハイブリッドのスーパーカー「SF90ストラダーレ」。「12チリンドリ」ほどわかりやすくはないが、よく見ると、キャビン後方のエアインテークと黒のエンジンフードにより、V字のモチーフが表現されている。
プラグインハイブリッドのスーパーカー「SF90ストラダーレ」。「12チリンドリ」ほどわかりやすくはないが、よく見ると、キャビン後方のエアインテークと黒のエンジンフードにより、V字のモチーフが表現されている。拡大
クーペと同時に発表された「12チリンドリ スパイダー」。写真のとおり「デルタウイングシェイプ」とはなっておらず、クーペよりはシンプルでクラシックなイメージである。
クーペと同時に発表された「12チリンドリ スパイダー」。写真のとおり「デルタウイングシェイプ」とはなっておらず、クーペよりはシンプルでクラシックなイメージである。拡大
渕野氏が絶賛する「365GTB/4」のサイドビュー。ロングノーズ/ショートデッキの伸びやかで明瞭なフォルムをしている。
渕野氏が絶賛する「365GTB/4」のサイドビュー。ロングノーズ/ショートデッキの伸びやかで明瞭なフォルムをしている。拡大
「フェラーリ12チリンドリ」(写真向かって左)と「12チリンドリ スパイダー」(同右)。
「フェラーリ12チリンドリ」(写真向かって左)と「12チリンドリ スパイダー」(同右)。拡大
渕野 健太郎

渕野 健太郎

プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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