格安BEVを投入し「ゴルフ」もBEV化! フォルクスワーゲンが発表した事業計画のウラを読む
2025.03.03 デイリーコラム新たなエントリーBEVの存在が明らかに
去る2025年2月上旬のこと、フォルクスワーゲン(以下、VW)はシュコダやセアトを含むコアブランドにまつわる事業計画を発表しました。これはファイナンシャルな対外的方針説明というよりも、2024年12月下旬の労使交渉妥結を受けてのインナー側へのアナウンス的な意味合いが強いものです。
VWにとって、2024年12月は試練の連続でした。度重なる労使交渉においては、当初予定されていたドイツ国内3工場の閉鎖は見送られるいっぽうで、3万5000人以上の人員削減が合意されています。一見、痛み分けの様相ですが、取締役会側は財務的にもさらなるリストラが必要という構えを崩していません。
そんななかで、向こう5年程度の中期的なポートフォリオを内側へと提示することで、グループで働く方々の不安を軽減し、一致結束を促す、という思惑があったのでしょう。このタイミングで従業員に向けてお披露目されたのが、コンパクトな電気自動車(BEV)のコンセプトカーです。
VWでは、すでにお値段2万5000ユーロ級のコンセプトカーとして「ID.2 all」が発表されていますが、こちらは4050mmの全長が示すとおり、Bセグメントの「ポロ」に相当するモデルとして2026年の発売を予定、日本への導入も表明されています。今回お披露目されたモデルの具体的なスペックは不明ですが、そのボディーはよりコンパクトな様子で、いってみればかつての「ルポ」や「フォックス」「up!」といったAセグメント級のモデルとみることができそうです。ちなみにこのモデルは、2025年3月上旬には公開され、2027年には2万ユーロ程度のスタートプライスで発売を予定しているそうです。
拡大 |
進捗に遅れはみられるものの
ところで、これら2車種の中身については、既販の「ID.3」や「ID.4」と同じ「MEB」プラットフォームをベースに、合理化と高効率化を進めた「MEB+」を採用する予定となっています。その向こうに控えるのが、MEB系とポルシェやアウディが用いる「PPE」系とを一本化する「SSP」プラットフォームの計画です。並行して電子プラットフォームの刷新を進めたうえで、2026年以降に展開……というのが最初の青写真でしたが、SDV(ソフトウエアディファインドビークル)を担うカリアドの開発遅滞に加えて、BEVへの逆風やら中国のリセッションやらと逆風が吹きまくり、現状は「2030年に近い2020年代後半」からの展開が予定されています。
と、そこでポイントとなるのが、今回の発表に含まれていた「ゴルフ」の生産拠点の移動です。内燃機モデルのゴルフは2027年以降、メキシコ工場が受け持つこととなり、2代目以降のゴルフの中核生産ラインとして稼働してきたウォルフスブルク工場の「ホール54」は、このSSPを用いてつくられる次世代ゴルフおよび「T-ROC」のラインとして生まれ変わる予定です。つまり、2030年を区切りに見据える近未来、ゴルフはBEV化されるというのがVWの既定路線ということになります。この頃になれば、内燃機からBEVへの以降を象徴した「ID.」シリーズというサブブランドは、その役割を終えて縮小方向に向かうのかもしれません。
これらの計画をみるにつけ、2030年に販売全量の50%をBEV化するというVWのロードマップは、まだ生き続けているようにもうかがえます。今回の発表はドイツの総選挙前に行われたものですが、ご存じのとおり選挙では中道右派の最大野党が勝利を収めました。緑の党をはじめとする現政権的な政策とは相いれないものの、連立を模索しなければ彼らにしても政権をグリップできません。先の読めないこの状況は、窮地にあるかの地の自動車業界にとっても悩ましいというか、もどかしいところではないかと察します。
拡大 |
電気ばかり頑張っていると思いきや……
個人的に、BEVが世界のクルマの主軸となっていく未来は遠かれ早かれ訪れるとは思っています。その点においてVWの戦略を全否定することはありません。が、彼らが扱う商品が一般大衆向けである以上、その普及には環境性能的な理由よりも、利便性や経済合理性、そして商品そのものの魅力において、「エンジン車よりBEVのほうが勝っている」というカスタマーの認識や判断が前提になるのではないでしょうか。補助金や税制優遇といった策略で需要喚起したところで長くは続かないのは、どこの国でも一緒です。そういう意味では、欧州ではこの10年ばかし、自動車メーカーの戦略が政治に振り回された感があります。
先日乗った“8.5”などと呼ばれているマイナーチェンジ版ゴルフ(参照)は、相変わらず同級他車とは一線を画する包容力で、どこまでも走っていけるという自信をドライバーにもたらしてくれるクルマとなっており、そのうえで20km/リッターオーバーの燃費をマークしたのに驚かされました。あくまで肌感ですが、先代や先々代に対すれば、間違いなく1割は燃費が伸びている。彼らの内燃機も静かに進化を重ねているわけです。VWはBEVと心中覚悟……なんて、各種発表の表層ばかりをみて判断していると、足をすくわれることになりかねません。目に見えぬところで着々と戦略の修正が加えられている。彼らと年間販売台数で約100万台の差をつけたトヨタあたりも、当然そういう見繕いでいるはずです。
(文=渡辺敏史/写真=フォルクスワーゲン/編集=堀田剛資)
拡大 |

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
復活の決め手はこっくりさん!? 新生「三菱パジェロ」誕生の経緯とその狙いNEW 2026.9.2 5年間の沈黙を経て、ついに登場した新型「三菱パジェロ」。スリーダイヤモンドが誇る荒野のフラッグシップは、いかにして復活を遂げたのか? 開発の経緯や内外装デザインの詳細、パワートレインに見るクルマの“狙い”をリポートする。
-
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの? 2026.8.31 自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。
-
酷評もされたBEVのフェラーリが4000万ドル!? 「ルーチェ」の初物に誰が、なぜ大金を出したのか? 2026.8.28 フェラーリ初の電気自動車として話題になった「ルーチェ」。その特別仕様の生産0号車が、米国内のカーオークションにおいて4000万ドル(約64億円)という衝撃価格で落札された。その背景について、事情に詳しい西川 淳がリポートする。
-
これが次世代アウディの源流 ハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」に乗って気づき感じたことは? 2026.8.27 2026年6月に発表されたアウディのハイブリッドスーパーカー「ヌヴォラーリ」は、同ブランドの新しいデザインフィロソフィーを体現したモデル。個性的な内外装やこだわりのつくり込み、そしてステアリングを握った印象を米モントレーから報告する。
-
「カスタム」はオラオラ路線へ!? 新しい「ホンダN-BOX」のフロントデザインを考察する 2026.8.26 2026年7月に登場した「ホンダN-BOX」のマイナーチェンジモデルはデザインに手が入れられており、特に「カスタム」はいわゆる「オラオラ感」が大幅にアップ。他社の同系モデルと同様の路線を歩むことになった。いまホンダのデザインに何が起きているのか?
-
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。
































