アウディS5アバント(4WD/7AT)
機を見るに敏であれ 2025.03.23 試乗記 アウディの基幹車種「A4」がフルモデルチェンジ。「A5」の名が与えられた新型は最新のプラットフォームに最新のパワートレインを搭載するほか、電子プラットフォームや内装も一新されている。3リッターV6ターボ搭載の高性能版「S5アバント」の仕上がりをリポートする。柔軟な方針転換
四書五経の『易経』から引いた「君子は豹変(ひょうへん)す」は本来ネガティブな意味ではなく、過ちと知れば即座に改めることを言う。『易経』では「小人は面を革(あらた)む(小人はただ外面だけを改めるにすぎない)」と続くのだ。変化の激しいこの時代、一度口に出したら必ずそれを実行しなければならないと求めるのはちょっと酷というか現実的ではない。ビジネスでは臨機応変、機を見るに敏のほうが重視されるものである。
2024年7月に本国発表されたA5は、これまでのA4とA5シリーズを統合した新型モデルである。ちょっと復習しておくと、A4はそれまでの「80」の後継モデルとして1994年に登場したアウディの基幹車種であり、2007年には派生モデルとしてA5が追加され、「クーペ」と「カブリオレ」、5ドアハッチバックの「スポーツバック」まで幅広いラインナップをそろえていた。それらをすべてまとめた新型A5は、テールゲートを持つセダンとステーションワゴンのアバントのみ。社内呼称コードはB10というから、30年余り前の初代A4から数えて6世代目にあたる。
ご存じのようにちょっと前までアウディは、奇数はガソリン車、偶数ナンバーは電気自動車(BEV)に割り当てられると発表していたのだが、2026年以降の新型車はすべてBEVにするとした方針とともにすでに撤回されたようだ。当たり前のことだが、顧客がついてこなければ、どんな目標を掲げようと意味がない。売れないクルマを無理につくっていてはたちまち経営が傾くのは自明の理。グループを挙げてコストカットを迫られている今、以前の発言にこだわっている場合ではない。
「MHEVプラス」で電動走行も可能
日本仕様のA5は計8車種が発表された。2リッター4気筒ターボを積む「A5 TFSI」(最高出力150PS)とその高出力版(204PS)を積む「TFSIクワトロ」、2リッターディーゼルターボの「TDIクワトロ」、そして3リッターV6ターボを積む高性能版のS5で、それぞれにセダンとアバントが用意されている(さらに合計150台限定の「エディションワン」もあり)。ただし、このうちのTDIクワトロは遅れて追加されるという。今回紹介するのはS5アバント(本体価格1060万円)。横浜で開催された試乗会からの第一報である。
ボディーの基本寸法は4835×1860×1450mm、ホイールベース2895mmというもので従来型と比べてホイールベースは70mm延長され、全幅もわずかに増えている。A5は「PPC(プレミアムプラットフォームコンバスチョン)」と呼ばれる新しいプラットフォームを採用しており(BEV用の「PPE」と対になる)、もはや立派なDセグメントといっていいサイズだ。PPCは内燃機関用という名を持ちながらも電動化にも対応しており、S5には「MHEVプラス」と称する新たなマイルドハイブリッドシステムが搭載されている。
MHEVとはいえ、従来の48V駆動「BSG(ベルト駆動スタータージェネレーター。アウディは「BAS=ベルトオルタネータースターター」と称する場合もある)」に加えて新たに「PTG(パワートレインジェネレーター)」と称するモータージェネレーターを装備したもので、24PSと230N・mを生み出すPTGはトランスミッションのアウトプットシャフトに取り付けられ、モーターのみによる電動走行も可能。状況に応じて140km/hまで作動するという。リチウムイオン電池(リン酸鉄タイプ)の容量は1.7kWhというから、もう一般的にはハイブリッドと呼んでも差し支えないものだ。ただしこのシステムは遅れて発売されるTDIモデルとS5(ともにクワトロ)のみに搭載されている。
S5のエンジンは従来どおりのミラーサイクル採用3リッターV6ターボのようだが、新たにVTG(可変ジオメトリーターボ)が採用されており、最高出力とトルクも367PS/5500-6300rpm、550N・m/1700-4000rpmに若干向上している。トランスミッションは従来の8段ATではなく7段Sトロニック(DCT)に変更され、クワトロシステムも「AWDクラッチ」と呼ぶ電子制御多板クラッチ式に改められている。WLTCモード燃費は13.3km/リッターという。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
使い切れないほどのアイコン
アバントのクワトロでMHEVプラス付きとなればさすがに重いが(2030kg)、静かにスタートすればなかなかエンジンは始動せず、他車の邪魔にならないように走っても40km/hぐらいまでは電動走行をキープする。高速道路でもスロットルペダルを離すと頻繁にコースティングするようだが、ただし、メーターパネル内には電動走行を示すグラフィックはなく、また電池残量の表示も、さらにはいわゆる「EVモード」も備わらない。かすかなエンジン音と見やすいとはいえないタコメーターのバーが動いているかどうかで判断するのみ、あくまで主役は内燃エンジンでモーターは黒子に徹しているようだが、街なかでもおそらくモーターアシストのおかげで柔軟で扱いやすい。
長くなったボディーもさることながら、新型を嫌でも実感させられるのはダッシュボード全面に広がるMMIディスプレイだ。11.9インチのデジタルコックピットプラス(デジタルメーター)に14.5インチのMMIタッチディスプレイ、さらに助手席前にも10.9インチのディスプレイが備わる(S5には標準で他はオプション)。当然ながら電子プラットフォームも一新されており、インフォテインメントシステムも新世代だが、機能が多すぎて短い試乗時間内にはほとんど試せなかった。
もちろんライト類も凝っている。マトリックスLEDヘッドライトには8種類のパターンから選べるデイタイムランニングライトが組み込まれ、S5ではテールライトもOLEDとされ、点灯パターンが変化して後続車に注意を促す機能も備わっている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
思ったより柔らかい
静かで滑らかな走行はいかにもアウディなのだが、ちょっと意外だったのは足まわりが想像以上にソフト志向だったこと。従来のA4/A5はスタンダードモデルでもどこか硬質な反応が返ってくるのがこれまでの通例であり(日本仕様にはスポーツサスペンションが装備されている場合が多かった)、しかも車高が20mm低いアダプティプダンピング付きスポーツサスペンションを装備する高性能版のS5であるからには、かなり硬派な乗り心地を予想していたのだが、意外にというか想像以上にソフトで洗練された乗り心地だった。首都高の継ぎ目が続くような場面ではやや上下動が収まらないこともあったから、人によってはもっとビシッと引き締まったほうが、と物足りなく感じるかもしれない。
もちろん、ドライブセレクトで「ダイナミック」モードを選べば、はっきり引き締まった身のこなしになる。すぐには気づかなかったのだが、ドライブセレクトの初期画面には4種類のモード「バランスト」「コンフォート」「ダイナミック」「エフィシェンシー」が表示されるが、例えばバランストからさらに個別設定可能であり、サスペンションだけをダイナミックにすると自動で「インディビジュアル」と表示される。流れの遅い高速道路などではこうすればいいのか、と試乗の時間切れ間際に気がついた次第である。以前よりもモードごとのメリハリが大きく、得意なスピードレンジがはっきり分かれているようだ。だが何しろ走行時間が限られていたので現時点では半分保留とさせていただきたい。第一印象ではよりラグジュアリー志向と感じた。
(文=高平高輝/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
アウディS5アバント
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4835×1860×1450mm
ホイールベース:2895mm
車重:2030kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:367PS(270kW)/5500-6300rpm
エンジン最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/1700-4000rpm
モーター最高出力:25PS(18kW)
モーター最大トルク:230N・m(23.5kgf・m)
タイヤ:(前)HL245/35R20 98Y XL/(後)HL245/35R20 98Y XL(ブリヂストン・ポテンザ スポーツ)
燃費:13.3km/リッター(WLTCモード)
価格:1060万円/テスト車=1233万円
オプション装備:パノラマガラスルーフ(33万円)/ロールアップサンシェード<リアサイド>(3万円)/マルチスポークSデザインアルミホイール&245/35R20タイヤ(31万円)/インテリアエレメンツ<バナジウムルック>(4万円)/ダークアウディスタイリングパッケージ<アウディリングス、ブラックスタイリングパッケージ、エクステリアミラーハウジング、ドアハンドル、テールパイプ、ルーフレール>(16万円)/ライティングパッケージ<プライバシーガラス、アンビエントライティングプロ、パーテーションネット>(9万円)/Sファインナッパレザーラグジュアリーパッケージ<MMIエクスペリエンスプロ、Bang & Olufsenプレミアムサウンドシステム[16スピーカー+フロントヘッドレストスピーカー]、Sスポーツシート[フロント]、シートベンチレーション&マッサージ[フロント]、ファインナッパレザー[ダイヤモンドステッチ]、ダイナミカラップアラウンドインテリアエレメンツ[インパネトリム、ドアハンドルトリム、アームレスト](77万円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1563km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
拡大 |

高平 高輝
-
日産ルークス ハイウェイスターGターボ プロパイロットエディション/ルークスX【試乗記】 2025.12.15 フルモデルチェンジで4代目に進化した日産の軽自動車「ルークス」に試乗。「かどまる四角」をモチーフとしたエクステリアデザインや、リビングルームのような心地よさをうたうインテリアの仕上がり、そして姉妹車「三菱デリカミニ」との違いを確かめた。
-
アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.13 「アストンマーティン・ヴァンテージ ロードスター」はマイナーチェンジで4リッターV8エンジンのパワーとトルクが大幅に引き上げられた。これをリア2輪で操るある種の危うさこそが、人々を引き付けてやまないのだろう。初冬のワインディングロードでの印象を報告する。
-
BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)【海外試乗記】 2025.12.12 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
-
BYDシーライオン6(FF)【試乗記】 2025.12.10 中国のBYDが日本に向けて放つ第5の矢はプラグインハイブリッド車の「シーライオン6」だ。満タン・満充電からの航続距離は1200kmとされており、BYDは「スーパーハイブリッドSUV」と呼称する。もちろん既存の4モデルと同様に法外(!?)な値づけだ。果たしてその仕上がりやいかに?
-
フェラーリ12チリンドリ(FR/8AT)【試乗記】 2025.12.9 フェラーリのフラッグシップモデルが刷新。フロントに伝統のV12ユニットを積むニューマシンは、ずばり「12チリンドリ」、つまり12気筒を名乗る。最高出力830PSを生み出すその能力(のごく一部)を日本の公道で味わってみた。
-
NEW
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】
2025.12.17試乗記「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。 -
NEW
人気なのになぜ? アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17デイリーコラム現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。 -
NEW
第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17カーデザイン曼荼羅業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。 -
車両開発者は日本カー・オブ・ザ・イヤーをどう意識している?
2025.12.16あの多田哲哉のクルマQ&Aその年の最優秀車を決める日本カー・オブ・ザ・イヤー。同賞を、メーカーの車両開発者はどのように意識しているのだろうか? トヨタでさまざまなクルマの開発をとりまとめてきた多田哲哉さんに、話を聞いた。 -
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】
2025.12.16試乗記これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。 -
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか?
2025.12.15デイリーコラム2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。























































