第75回:アウディA5(前編) ―コテコテ路線とはこれで決別!? 迷走するプレミアムブランドに差した曙光―
2025.07.02 カーデザイン曼荼羅 拡大 |
装飾華美な既存のモデルとは趣の異なる、シンプルな意匠をまとう新型「アウディA5」。「タイムレスな美しさ」という標語はどこへやら? という時期もあったアウディだが、ここから巻き返しとなるのか。カーデザインの識者と、新時代のアウディについて考えた。
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明らかに変わったデザインの方向性
webCGほった(以下、ほった):今回のお題はアウディA5です。アウディを取り上げるのは、以前、欧州車のデザインをブッタ切って以来ですね。(その1、その2)
渕野健太郎(以下、渕野):昨日、「A5アバント」の実車を見てきました。「A4」の後継モデルですね。車名がちょっと、ややこしい話になりましたけど。
清水草一(以下、清水):えーと、奇数がなんでしたっけ?
渕野:奇数がエンジン車で、偶数が電気自動車(EV)って話だったんです。
ほった:でも、すぐやめちゃった。
渕野:アウディ内部の混乱がうかがえますね(笑)。
清水:今はやめたけど、間に合わなくてA4はA5になっちゃったんですよね。で、もともとあったクーペ系のA5はナシと。
渕野:今後出てくるかもしれませんけど。
ほった:新型A5は5ドアハッチバックとワゴンなんで、どっちかがなくなったというより、既存のA4とA5が統合されたって言い方もできそうですけどね。(写真キャプション参照)
渕野:そういう戦略かもしれませんね。で、肝心の新型A5ですけど、実車を見ると4→5に名前がアップしただけじゃなくて、高級感もワンランク上がったような感じがしました。アウディは「A6」や「Q5」も新型が出てますよね。それらと合わせて見ると、シンプル路線に回帰しようとしてますね。
清水:ボディーのキャラクターラインがぐっと減りましたね。
渕野:今までみたいにキャラクターラインに頼っていなくて、面の強さで見せてるところが好印象でした。ボディーサイドとリアに関していうと、かなりボリュームがあって、マッシブなイメージです。
哲学に忠実だった時代と、そこからの変節
ほった:ただまぁ、シンプル路線って今のひとつの潮流ですよね?
清水:なんかこう、遅れてトレンドに乗ってきたっていう感じがするんですけど。
渕野:トレンドというか、一般的にプロダクトデザインって、シンプルで明快なのが理想なわけですよ。手数をどれだけ減らせるかと、それがメッセージとしてどれだけ明快かが大事なので。そういう理屈からすると、いろいろ細かい策を講じるのはナンセンスなんです。で、アウディのホームページを見ると「タイムレスな美しさ」って文言があって(参照)、シンプルであることに徹底的にこだわり続けていると。
ほった:(現行のラインナップ一覧を見て)……それは、ギャグで言ってるわけじゃないですよね(全員笑)。
渕野:この文言だけ見ると、カーデザインの志はすごく高いわけです。「形態は機能に従う」です。
ほった:最近は、そこから少々逸脱してたわけですね。
渕野:初代「アウディTT」の時代は、すごく体現できてたんですけどね。多分、皆さんも納得感があったと思います。あの頃はバウハウス的なデザインって言われてましたが、まさに「形態は機能に従う」の文言どおりでした。初代TTは、おそらく「タイヤの延長線上としての円のモチーフ」っていうのを、意識してたんじゃないかと思うんです。タイヤ発信で、あのプロポーションがあった。まさにミニマルじゃないですか。そういうところで、非常に評価されていたのではないかと。
清水:初代TTはアート作品に近かったですね。
渕野:で、テイストはちょっと違いますけど、当時のA6とかA4、「オールロードクワトロ」なんかも、シンプルであることに徹底的にこだわっていた。デザイナーとして見て「うわ、すごいな」という感じで、その後、アウディのようなプロダクトデザインのテイストがはやったりもしました。この時期のアウディは、ブランド内にとどまらないトレンドをひとつつくりましたし、カーデザインのひとつの先端、頂点でした。
清水:実用車も、芸術でメシが食えるんだなって感じでした!
渕野:ところがですね、ここ10年、15年ぐらいを見ると、キャラクターラインをシッカリ、ピシっと出そうという方向にいっていたじゃないですか。ラインの上下で面をちょっとへこませて、ボディーをつまんで尖(とが)らせたようにしたり。
でも、そういう造作は、「形態は機能に従う」っていうテーマに比べると、ぐっとちっちゃいスケールの話なんですよ。例えばTTの、タイヤの円がそのまんま全体のプロポーションに波及したっていうのはすごく端的な例ですけど、そういうデザインを打ち出していた頃に比べると、妙にちっちゃいところにこだわるようになっていったんです。
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アウディが陥ったプレスライン中毒
清水:でも、あのバキっとしたプレスラインも、出てきたときは衝撃でしたよ。ビッと立ったラインがすっごくカッコよくて、高級に見えたなぁ。
ほった:さいですか?
渕野:すいません、自分は全然衝撃的じゃなかったです(笑)。後々、フォルクスワーゲンなんかもそうなっていきましたよね。
ほった:ボディーサイドのキャラクターラインを、こねくりまわしてましたっけ。
清水:私はあの高級感にメロメロになりましたよ! 当時はああいうシャープなラインって、よそはやってなかったじゃないですか。あれは熱間プレス技術を使うことで実現したわけですよね。フォルクスワーゲン・グループがそれをいち早く導入して、とりわけアウディが積極的にデザインに取り入れたことで、世界を席巻するトレンドになった。
確かに、一時期カーデザインがあまりにもそっちに流れて、「ダイハツ・ミラ イース」にまで使われて陳腐化しちゃった。それでも今のミラ イース、前より断然カッコいいと思いますけど。アウディみたいで(笑)。
ほった:いや、それはナイです。
渕野:前のA5も、プロポーションはすごく端正だったんですけどねぇ。つまんで尖らせたような表現のキャラクターラインがすごく目について、せっかくプロポーションがいいのに、残念無念でした。
清水:確かに、プレスラインを多用しすぎて、だんだん残念になっていった部分はありますね。
ほった:プレスラインが自慢だってんなら、1本を前後にシュっと通すだけのほうが効果的だった気がしますね。同じような場所に2本も3本もラインを通して、自分で格を下げていった気がする。
渕野:ですね。要はメリハリなんですよ。シンプルななかにそこだけシュッと走ってればよかったんだけど。
ほった:一時期のアウディはすごかったですからねぇ。ボンネットに2本も3本も筋が入ってて、ショルダーを見ても、A6なんかリアフェンダーの上に何本ラインが引かれているのか、数え切れなかった(笑)。
清水:なにかの中毒患者だよね。
渕野:残念でしたね。どれもすごくかっこいいプロポーションだったのに、そういうところが目につくせいで、それまでのアウディのメッセージが見えなくなっていったんです。
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シンプルにしつつ、主張は残しつつ
清水:で、最新のA5は、そういうのとはかなり決別したと。ただ、やっぱりまだ残ってる部分はあるなとも感じます。ボディーサイドの下側に、シャープな直線があるじゃないですか。あそこだけ旧来っぽく見える。
渕野:いや、これは別に普通じゃないかな。先代A5のキャラクターラインみたいに、上下をつまんで尖らせてもいないし。普通に、ただの面と面の相関なのではないかと。
ほった:プレスラインというより、面の折れ目ですね。
渕野:で、それをそのままリアにまわして、リアバンパーにつなげているわけです。それで、ボディー下部の上向きの面、光を受ける部分を、すごく広く見せている。これはアウディの常とう手段で、だから変えなかったんでしょう。ここが崩れると、多分、全然アウディっぽくなくなる。
清水:確かに、これがなくなってツルンと滑らかになったら、今のメルセデスっぽくなっちゃうかな。
渕野:そうそう。
清水:だからこれは残さないといかんと。
渕野:今の「A3」なんかも、ここだけはすごくしっかり見せてるんです。それによってロアの安定感を出してるんです。
清水:でもなんか、ここだけ中途半端に以前のイメージが残ったように見えるなぁ。乗り越えて完全に新しい世界を見せてほしかったね。
ほった:ワタシはこれぐらいがちょうどいいですけどね。プロポーションもいいし。
渕野:新型A5を見ると、リアのシルエットとスタンスがすごいんです。タイヤがグワっと踏ん張って見えるでしょう? 前のA4はもっとツルっとしてたけど、A5はリアフェンダーがポンって張り出しているんです。
でも全幅を見ると、前のA4が1840mm(後期型は1845mm)で、A5スポーツバックが1845mm。新型A5は1860mmなので、あんまり変わってないことにびっくりしました。実際見たら、これ1900mmくらいあるんじゃないのって思ったので。最近のプレミアムブランドとしてみれば、1860mmってそこまで広くないでしょう。お、この車幅でこの表現ができるんだ、素直にかっこいいな、欲しいなと思っちゃいましたよ。顔まわりはちょっとアレですけど、全体的なプロポーションで。
清水:顔はアレですか(笑)。
ほった:アレについては、また次回(笑)。
(後編へ続く)
(語り=渕野健太郎/文=清水草一/写真=アウディ、ダイハツ工業、webCG/編集=堀田剛資)
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渕野 健太郎
プロダクトデザイナー兼カーデザインジャーナリスト。福岡県出身。日本大学芸術学部卒業後、富士重工業株式会社(現、株式会社SUBARU)にカーデザイナーとして入社。約20年の間にさまざまなクルマをデザインするなかで、クルマと社会との関わりをより意識するようになる。主観的になりがちなカーデザインを分かりやすく解説、時には問題定義、さらにはデザイン提案まで行うマルチプレイヤーを目指している。

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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