シトロエンC4 THP155(FF/6AT)【海外試乗記】
「ゴルフ」とは全く違う 2010.10.18 試乗記 シトロエンC4 THP155(FF/6AT)シトロエンの看板モデル「C4」が2世代目に進化。日本導入を前にスウェーデンで試乗した、新型の印象は?
新型は5ドアモデルのみに
2004年にそれまでの「クサラ」を受け継ぐブランニューモデルとして誕生した「C4」が、初のフルモデルチェンジを受けてリリースされた。そんな新しいC4は、基本骨格を従来型から受け継ぎつつも、ボディサイズは少しだけ大きくなり、加えてこれまで存在していた3ドアの「クーペ」がカタログから脱落。5ドアハッチバックボディのみのラインナップとなったのが、まずは大きな特徴だ。
ただし、そんな成り行きを「バリエーションの縮小」と見るのは必ずしも適当ではないだろう。なぜならシトロエンは、既存のモデルではカバーできない、よりアクティブな顧客にアピールする目的で、新たなモデルライン「DSシリーズ」を提案。すでに発売済みの「DS3」に続く第二弾として、先日開催されたばかりのパリサロンの舞台で「DS4」の姿も披露しているからだ。
このDS4も、C4と同じデザインチームの作品。同じタイミングでデザイン開発を進めてきた両車は、担当デザイナー氏によれば、「自分の頭の中では“ひとつのクルマ”」と表現される。すなわち、これまでのクーペが担当してきた「より個性的なC4」というポジションを、新たな文法を用いて再度カタチにしたのがDS4であるはず。3ドア版C4はこのタイミングで、DS4へと“発展的解消”をしたと言ってもいいだろう。
中も外も普通になった
さて、新型を前にしてまず感じるのは、サイドのプロポーションがよりロングルーフタイプの“ミニワゴン風”へと変わったことだ。これまでの5ドアモデルはAピラーからCピラーまでを滑らかな一筆書き風ラインで描いた、全般的に丸味を帯びたサイドのプロポーションが大きな特徴だった。ところが、新型ではそうした雰囲気が、まさにフルチェンジ。ルーフラインはより長く、水平に近いまま後方へと延びると同時に、テールゲート周りのリアセクションが、よりスクエアな基調の造形へと変化を遂げている。
実は乗り込んでみるとホイールベースが変わっていないこともあり、大人4人がリラックスして長時間を過ごせるポテンシャルは備えるものの、キャビン空間が極端に拡大された印象を受けることはない。一方で、一目で明らかなのはラゲッジスペースが広くなったことで、こちらはもはや「広大」という言葉を使いたくなるほどだ。従来型のラゲッジスペース容量はこのクラス最小ともいえるもので、実際にユーザーから不満の声が上がることもあったという。そんな反省に基づいた新型では、今度は“クラス最大”をうたうボリュームを実現。どうやら新型の、見方によっては「ちょっとコンサバなハッチバック車風」になったエクステリアデザインは、そんな使い勝手の良さ、実用性の高さを外観上でも表現するという意図を含むものでもありそうだ。
まるで小型のUFOがダッシュボード上に降り立ったかのようなメータークラスターが特徴だった従来型のインテリアに比して、新型は3眼式メーターの採用を筆頭に「普通になった」と感じる人は少なくないだろう。一方で、各部の質感向上は目を見張るばかりで、それはこの項目では定評ある「フォルクスワーゲン・ゴルフ」の仕上がりに匹敵するといっても過言ではない印象だ。
しなやかなフットワーク
インテリアに見られた質感の高さは、実は走り出しても即座に感じることができる。なんとなればその静粛性が、もはやフランス車とは思えないくらい(?)に高いのである。
今回国際試乗会の場でテストドライブを行ったのは、いずれ日本への導入が予想される1.6リッターの156psガソリンターボエンジン+6段2ペダルMTという組み合わせに加え、フランスでは主流のディーゼルモデル。どちらも静粛性の高さは文句のつけようのないもの。ただし、MTのクラッチ操作を”ロボット”が肩代わりする「EGS」を名乗る2ペダルトランスミッションは、加速力がシームレスに続くトルコンATもしくはCVTなどに慣れた人には、やはり違和感が大きいと評されるとは思う。それゆえに、今回試乗はならなかったが日本導入の折には主流になると思われるのが、最高120psを発する1.6リッター自然吸気ガソリンエンジンにトルコンATを組み合わせた仕様。ただし、その難点はこのATがこの期に及んで4段仕様であること。「需要の割にコストが……」というのは担当エンジニア氏の弁だが、返す返すもここは残念だ。
ところで、そんな新型C4の走りで最も好感が持てたのは、路面を問わずどんなシーンでもとことんしなやかで、なんとも優しい乗り味を提供してくれるフットワークの仕上がりだった。それももちろん、ただフンワリとソフトというだけではない。実は侮れないハンドリング性能の高さと両立をさせてのことというのが、なんともシトロエン車らしい美点として輝くのだ。
“回らないステアリングパッド”も“ほのかな香水のかおり”も“外光が透けるスピードメーター”もなくなってしまったが、それでもやっぱり「シトロエン」というブランドの作品。ゴルフとはまさに「同床異夢」のフランス車なのである。
(文=河村康彦/写真=プジョー・シトロエン・ジャポン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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