自動車業界を揺るがす“トランプ関税” メーカーとユーザーはこれからどうなる?
2025.05.05 デイリーコラム今なお製造業=基幹産業
いわゆる“トランプ関税“は、言うまでもなくメチャクチャだ。超大国アメリカの大統領は『ドラえもん』のジャイアンで、自分の都合のいいように平気でウソをつくし、決めたことをすぐにひっくり返す。
しかし、正論が通じる相手じゃない。世界最大の市場を持つアメリカの言うことには、多くの国が従わざるを得ない。ドラえもんの道具を持たないのび太たちに、対抗する術(すべ)はあるのだろうか。
ヴァンス副大統領の回想録『ヒルビリー・エレジー』(副大統領になる9年前の発表)は、アメリカのラストベルト(さびついた工業地帯)に住む白人貧困層の現実を描いた、興味深い作品だった。
彼が育ったオハイオ州ミドルタウンは、製鉄業アームコ社の企業城下町で、ヴァンス氏の親世代までは、高い教育を受けていなくても「アームコに入れば中流の生活が送れる」と、なんの不安も抱いていなかったという。
そのアームコ社が経営危機に陥り、日本の川崎製鉄に買収されたが、業績は回復せず、ヴァンス氏の地元の友人の多くは、いわゆる「マックジョブ」(誰でもできる低賃金労働)を渡り歩く貧困層になっていった。
アメリカは、スマートフォンやAIなど、あらゆる革新的な技術を生み出し、未曽有の経済的繁栄を得ているが、大半の生産はコストの安い海外に委ね、自国内では行っていない。それらの開発などにかかわる、ごく一部のエリート層が多くの富を独占し、それ以外はおしなべて貧困化しつつある。まさに二極化だ。
製造業が国内に比較的残っている日本では、あまり実感できないが、製造業の衰退は中間層の没落に直結する。
トヨタ自動車の社員(約7万人)の平均年収は899万円。まさにピカピカの中間層だ。仮にトヨタがつぶれたら、社員たちはどこに行くのか。少なくとも給料が大幅に減ることは間違いないだろう。
スバリストの高野マリオ(現太田市議)は、貧窮のあまり愛車「インプレッサ」の維持が困難になった時、ダイハツの期間工として半年間働き、崖っぷちを乗り切った。自動車メーカーで働けば、期間工でもかなりの収入が得られるのだ(現在で年収400万~500万円)。
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長期的にはなんとかなる?
国民が豊かになると、製造業の経済比率は下がっていくのが自然だが、衰退が進みすぎると、アメリカのような二極化社会になる。トランプ大統領は、その流れを逆流させるべく、暴力的ともいえる関税の発動を発表し、思ったより多くの国民がそれを支持している。
で、今後どうなるのか。先は読めないが、自動車に関しては、かなり見えている。
従来の2.5%に加えて25%の追加関税(さらに24%の国別関税?)が実施されたら、日本には打撃だが、すでにかなりのメーカーが、アメリカ本土への生産の移転や拡大に向けて動いている。
かつての日米貿易摩擦時も、「これからどうなる」という不安が渦巻いたけれど、日本はそれをしのいで現地生産に乗り出し、逆に販売を大きく拡大させた。
昨2024年、アメリカ国内で販売された日本車のうち、日本からの輸出は2割程度。6割弱がアメリカ現地生産だった(残りはメキシコやカナダ等での生産)。短期的な業績の悪化は避けられないけれど、長期的にはなんとかなるんじゃないか。
ちなみに、トランプ大統領が「日本ではアメリカ車がほとんど走っていない」と文句を言った件ですが、日本では「なにをバカなことを」という反応でしたよね。でも実はアメリカって、意外と多くのクルマを輸出してるんです。
輸入が769万台に対して輸出は247万台なので、双方を比べるとだいぶ少ないけれど、これでも輸出台数世界第5位。第2位の日本の442万台と比べても、思ったほどの差はない。「アメ車ってアメリカ以外でもそんなに走ってたっけ!?」って気がするよね。
輸出先は、1位カナダ、2位UAE(アラブ首長国連邦)、3位メキシコ、4位ドイツ、5位ジョージアとなっている(2024年)。
アメリカは、腐っても自動車大国で、国内生産台数は年間1000万台を超えている(中国に次いで世界第2位)。造船業のような全滅寸前の業種と違って、自動車産業は基盤があるので伸ばすのは難しくない。なにより国内需要が巨大なので、関税で保護すれば、海外からの莫大(ばくだい)な投資が見込める。カナダは報復関税(25%)を発表したけれど、アメリカからの輸入より輸出のほうが2倍多いから、トランプはあまり痛くない。少なくとも自動車に関しては、トランプ関税が撤回される可能性は低いだろう。
ただ、われわれ日本国内の一般ユーザーにはあまり影響はない。ニュースに一喜一憂しつつも、今までどおり、ぬくぬくとしたカーライフを送れるのではないだろうか。自動車生産にかかわっている方々は別ですが……。
(文=清水草一/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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