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カワサキZ7ハイブリッド(6AT)

カワサキの本気 2025.05.12 試乗記 佐川 健太郎(ケニー佐川) カワサキからハイブリッドシステムを搭載したスポーツネイキッド「Z7ハイブリッド」が登場。エンジンとモーターが織りなす走りは、私たちにどんな感動をもたらすのか? 「Z」らしさと未来の価値を併せ持つ、カワサキ入魂のモーターサイクルに触れた。
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ハイブリッド走行はもちろんEV走行も可能

世界初、ストロングハイブリッドのモーターサイクルとして注目を浴びる「カワサキZ7ハイブリッド」。その核心は、やはり独特なパワーユニットにある。排気量451ccの水冷4ストローク並列2気筒エンジンと、水冷交流モーターの組み合わせで動力を生み出す仕組みだ。強力なリチウムイオンバッテリーによってモーターだけでも走行できるため、ストロングハイブリッドに区分される。パワーの内訳はエンジンが58PS(43kW)でモーターが12PS(9.0kW)、システム全体では最高出力69PS(51kW)を実現している。

最先端のマシンだけに機能も満載だ。ちょっと複雑なので最初に説明しておこう。駆動系は上述のハイブリッドシステムと、シフトセレクターでマニュアル操作も可能な6段オートマチックトランスミッションの組み合わせとなっており、走行モードは3種類から選ぶことができる。最も強力なのがエンジンとモーターが協調して最大パワーを発揮する「SPORTハイブリッドモード」、次にモーターで静かにスタートし、その後エンジンの動力が加わる「ECOハイブリッドモード」、そしてモーターだけで走れる「EVモード」だ。

ECOハイブリッドでは250ccクラスのバイクと同等レベルに燃費を節約でき、SPORTハイブリッドでは「eブースト」機能によりリッターバイク並みの発進加速が味わえるという。さらにモーターならではの、リバース機能付きの「ウオークモード」も搭載するなど、まさに新世代のモーターサイクルを体現している。

カワサキ独自のハイブリッドシステムを搭載した「Z7ハイブリッド」。姉妹車の「ニンジャ7ハイブリッド」とともに、2025年2月に発売された。
カワサキ独自のハイブリッドシステムを搭載した「Z7ハイブリッド」。姉妹車の「ニンジャ7ハイブリッド」とともに、2025年2月に発売された。拡大
パワーユニットは451cc並列2気筒エンジンと電動モーターの組み合わせ。モーターの駆動力はチェーンを介し、エンジンと6段の電子制御トランスミッションとの間でドライブトレインに伝達。EV走行時にも4段の自動変速が行われる。
パワーユニットは451cc並列2気筒エンジンと電動モーターの組み合わせ。モーターの駆動力はチェーンを介し、エンジンと6段の電子制御トランスミッションとの間でドライブトレインに伝達。EV走行時にも4段の自動変速が行われる。拡大
パワートレインの各種操作は左のスイッチボックスで行う。「SPORT」「ECO」「HEV/EV」の各ボタンを長押しすると走行モードが切り替わり、「WALK」ボタンを長押しするとウオークモードが作動。「ECOハイブリッド」モードでは「AT/MT」ボタンをプッシュすると自動変速/手動変速が切り替わり、「SPORTハイブリッド」および「ECOハイブリッド」の手動変速選択時に「AT/MT」を長押しすると、停車前に自動でギアが1速まで落ちる「ALPF」機能のオン/オフが切り替わる。……オーナーの皆さん、まずは頑張って操作方法を覚えよう。
パワートレインの各種操作は左のスイッチボックスで行う。「SPORT」「ECO」「HEV/EV」の各ボタンを長押しすると走行モードが切り替わり、「WALK」ボタンを長押しするとウオークモードが作動。「ECOハイブリッド」モードでは「AT/MT」ボタンをプッシュすると自動変速/手動変速が切り替わり、「SPORTハイブリッド」および「ECOハイブリッド」の手動変速選択時に「AT/MT」を長押しすると、停車前に自動でギアが1速まで落ちる「ALPF」機能のオン/オフが切り替わる。……オーナーの皆さん、まずは頑張って操作方法を覚えよう。拡大

まるで3台のバイクを乗り換えているかのよう

見た目はカワサキらしいZ系の顔をしたミドルネイキッドといった感じだ。ちょっとボディーが長めに見えたのでスペックを確認してみると、ホイールベースは1535mmとビッグネイキッド並みである。車重も226kgとリッタークラス並みで、つまり排気量からすると大柄である。

キーをONにすると、静かに液晶パネルが起動してスタンバイ状態になる。あまりの無音ぶりに、一瞬「本当に始動しているのか?」と疑ってしまうが、これでOKなのだ。まずはEVモードからチェック。スロットルをわずかにひねると滑るように動き出す。ヒューンというモーター音だけで交通量の多い都市部を抜けていく感覚はまさに近未来。EVにしか味わえない静寂のなかの疾走感だ。最高速はメーター読みで60km/hを超える程度だが、電動モーターならではの初速の立ち上がりがあるので、街乗りでは十分だろう。

Z7ハイブリッドの真価が発揮されるのはここからだ。幹線道路に出てECOハイブリッドに切り替えると、内燃機関が自然に起動しトルクが力強くなる。スロットル操作に対するレスポンスは素直で、モーターのトルクアシストが“割り込む”感覚は一切なく、ただただスムーズ。CVTのようなタイムラグもなく、エンジンの回転数と加速感が自然にリンクしている。

そして、高速道路では満を持してSPORTハイブリッドに切り替えてみる。アクセルをグッと開けて「eブースト」ボタンを押した途端、カチッとスイッチが入ったように電動モーターが加勢し、背中からド突かれたように急加速する。スーパーチャージャー付きの「Z H2」とまではいかないものの、「Z900」を瞬間的にはしのぐレベルかも。ただしブーストが効くのは5秒間だけなので、映画『ワイルド・スピード』のニトロ噴射よろしく、大型車両の追い越しなど、ここぞという場面で使うのがおすすめだ。視認性に優れたフルカラーTFTメーターは、ライディングモードの切り替えやeブースト作動時の視覚的演出もあって刺激的。まるでコックピットにいるかのような近未来感は、ガジェット好きにも刺さることだろう。

フロントにはスーパーチャージドエンジンを搭載したカワサキの最上級モデル「H2」シリーズと同じく、川崎重工の丸い“リバーマーク”が貼られる。
フロントにはスーパーチャージドエンジンを搭載したカワサキの最上級モデル「H2」シリーズと同じく、川崎重工の丸い“リバーマーク”が貼られる。拡大
モーターの出力を一時的に高める「eブースト」機能のボタンは、右スイッチボックスに配置。使用するとメーター内のeブーストゲージが徐々に減っていき、ゲージがゼロになると残量が回復するまで機能が使えなくなる。
モーターの出力を一時的に高める「eブースト」機能のボタンは、右スイッチボックスに配置。使用するとメーター内のeブーストゲージが徐々に減っていき、ゲージがゼロになると残量が回復するまで機能が使えなくなる。拡大
4.3インチのTFTディスプレイ。車速やエンジン回転数などの走行情報に加え、走行モードやトランスミッションの手動/自動モードのセレクト状態、バッテリー残量、EV走行可能距離など、さまざまな情報が表示される。
4.3インチのTFTディスプレイ。車速やエンジン回転数などの走行情報に加え、走行モードやトランスミッションの手動/自動モードのセレクト状態、バッテリー残量、EV走行可能距離など、さまざまな情報が表示される。拡大
カワサキの説明では、走行中に「eブースト」を作動させると「全域での出力を650ccクラスのマシン並みに向上」するとのことだが、モーター特有のトルクレスポンスもあって、体感的にはそれ以上の力感だ。また発進時に同機能を使うと、状況によっては「ニンジャZX-10R」をも超える発進加速を実現するという。
カワサキの説明では、走行中に「eブースト」を作動させると「全域での出力を650ccクラスのマシン並みに向上」するとのことだが、モーター特有のトルクレスポンスもあって、体感的にはそれ以上の力感だ。また発進時に同機能を使うと、状況によっては「ニンジャZX-10R」をも超える発進加速を実現するという。拡大
市街地で重宝するEV走行の航続距離は、バッテリーが満タンの状態で10km程度。バッテリー残量が減っても自動でハイブリッドモードには切り替わらないので要注意だ。また、走行中はスロットルを戻せば回生システムが働くので、走っていればすぐにバッテリー残量は回復する。
市街地で重宝するEV走行の航続距離は、バッテリーが満タンの状態で10km程度。バッテリー残量が減っても自動でハイブリッドモードには切り替わらないので要注意だ。また、走行中はスロットルを戻せば回生システムが働くので、走っていればすぐにバッテリー残量は回復する。拡大
モーターを駆動する48Vのリチウムイオンバッテリーパックは、ライダーシートの下に搭載。車体にはバッテリーに冷却用の空気を送るダクトが設けられている。
モーターを駆動する48Vのリチウムイオンバッテリーパックは、ライダーシートの下に搭載。車体にはバッテリーに冷却用の空気を送るダクトが設けられている。拡大
省燃費性はもちろんのこと、バイクを操る喜び、複雑なメカを操作する満足感が印象的だった「Z7ハイブリッド」。電動化の時代にあってもバイクの魅力をあきらめないという、カワサキの本気がうかがえるマシンに仕上がっていた。
省燃費性はもちろんのこと、バイクを操る喜び、複雑なメカを操作する満足感が印象的だった「Z7ハイブリッド」。電動化の時代にあってもバイクの魅力をあきらめないという、カワサキの本気がうかがえるマシンに仕上がっていた。拡大

“次の100年”を見据えた一台

ハンドリングは期待どおりに軽快。特にフロントが軽い感じでヒラヒラと切り返すが、シビアに言うと、通常のバイクに比べてやや後ろが重い感じがした。これは、エンジンの後ろにモーターと大きなバッテリーを積む、車体の構造が影響しているものと思われる。ホイールベースの長さもこれに起因するのだろう。ただし、普通に乗っていて気になるレベルではなく、慣れてしまえば一般的なバイクとなんら変わらない、スポーティーな走りが楽しめる。

また、電子制御ATのシフト操作も直感的に指一本でできるため(厳密にはアップ:人さし指、ダウン:親指の2本だが)、コーナー手前でのギア選択でもストレスはなかった。変速時のギクシャク感もなく、手動変速の楽しみを残しながらも快適さを失わない優れたシステムだと思う。唯一、バッテリー残量が少なくなってEVモードが制限される場面では、人の頭でエネルギーマネジメントをする必要もあるが、それすらも一種の“ゲーム性”として楽しめるかも。

最後にひとつリクエストするとすれば、足まわりにもう少しグレード感が欲しい気がする。新技術満載とはいえ、180万円を超えるプライスに見合った装備に期待したいところだ。

総じてZ7ハイブリッドは、電気とガソリンの美点を高次元で融合させた、全く新しいスポーツネイキッドである。新技術という言葉に不安を感じるライダーもいるかもしれないが、試乗すればその懸念は一蹴されるはずだ。これは単なる“実験車両”ではない。間違いなくカワサキが本気で世に問う、“次の100年”を見据えた一台だと思った。

(文=佐川健太郎/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資/車両協力=カワサキモータースジャパン)

カワサキZ7ハイブリッド
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カワサキZ7ハイブリッド(6AT)【レビュー】の画像拡大
 
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【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2145×805×1080mm
ホイールベース:1535mm
シート高:795mm
重量:226kg
エンジン:451cc 水冷4ストローク直列2気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
モーター:水冷交流同期電動機
エンジン最高出力:58PS(43kW)/1万0500rpm
エンジン最大トルク:43N・m(4.4kgf・m)/7500rpm
モーター最高出力:12PS(9.0kW)/2600-4000rpm
モーター最大トルク:36N・m(3.7kgf・m)/0-2400rpm
システム最高出力:69PS(51kW)/1万0500rpm
システム最大トルク:60N・m(6.1kgf・m)/2800rpm
トランスミッション:6段AT
燃費:23.6km/リッター(「SPORTハイブリッド」モード走行時、WMTCモード)
価格:184万8000円

佐川 健太郎(ケニー佐川)

佐川 健太郎(ケニー佐川)

モーターサイクルジャーナリスト。広告出版会社、雑誌編集者を経て現在は二輪専門誌やウェブメディアで活躍。そのかたわら、ライディングスクールの講師を務めるなど安全運転普及にも注力する。国内外でのニューモデル試乗のほか、メーカーやディーラーのアドバイザーとしても活動中。(株)モト・マニアックス代表。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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