これならまだ日本のほうが走りやすい? 渡仏でわかったパリの最新道路事情
2025.05.15 デイリーコラムクルマで走りにくくなったパリ
この2025年3月、取材でフランスのパリを訪れる機会があった。目的が某ルノー車の取材ということもあり、滞在中の移動は基本的にすべてクルマだったのだが、そこでいや応なく気づかされたのは「パリは、めっぽうクルマで走りにくくなった」ということだ。
理由はハッキリしている。パリ市内のいたるところで(電動キックボードなども含む)自転車専用レーンが激増しているからだ。しかも、そのレーンは幅もつくりも、日本人が想像するような簡便なものではない。あのシャンゼリゼ通りにも、縁石できっちり区切られた自転車専用レーンが出現している。
もっとも、路肩に自転車専用レーンが追加されただけなら、ドライバーとしても「ちょっと道がせまくなったなあ」だけで済む。しかし、今のパリはそうではない。以前は普通にクルマが走っていたレーンが、まるまる自転車専用に切り替えられているケースも多い。交互通行だった路地がいつしか一方通行になっていたり、また片側2車線あるいは3車線あったはずの幹線道路が、事実上の1車線や2車線になってしまったり……と、そもそもクルマで走ることができる動線そのものが明らかに減っている。パリも昔から渋滞は多かったが、今はいかにも目詰まりしたように、交通の流れがとどこおってしまうシーンが増えた。
ちなみに、今回より前に筆者がパリを訪れたのは、2013年5月と2023年1月だ。今から12年前の2013年のパリでは、自転車専用レーンなどほとんど見かけず、大都市特有の渋滞や(新参者を戸惑わせる)パリ特有の交通マナーはあっても、クルマ自体が走りにくいと感じたことはなかった。しかし、思い返すと、前回の2023年1月の訪問時には、すでに今にいたる兆候は如実だった。ただ、通りすがりの外国人にすぎない筆者は、それも1年半後のパリ五輪に向けた一過性のものと思っていた。
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パリが目指すのは“脱クルマ”
で、パリ五輪も無事に終わった2025年3月にあらためてパリを訪れたわけだが、自転車専用レーンや、クルマ=自家用車が入れない道は、2023年1月当時より明らかに増えていた。しかも、パリの大動脈である環状高速道路の制限速度が、ついに50km/hにまで(以前は70km/h)引き下げられていたことには驚いた。さらに、その環状高速道路の左車線(=追い越し車線)には、見慣れないロザンジュ(ひし形)の標識が掲げられていた。
調べてみると、環状高速道路の制限速度の引き下げは、パリ五輪後の2024年10月に実施された。ちなみに同制限速度は、1993年に90km/hから80km/hに、そして2014年に70km/hへと引き下げられてきたが、今回の引き下げ幅はとくに大きい。ちなみに環状高速道路だけでなく、パリ市内の一般道路も2021年8月末に(シャンゼリゼ通りなどを除いて)全域が30km/h制限となった。
環状高速道路の一部区間に導入されたロザンジュ標識は、平日の7時~10時30分および16時~20時に、ライドシェア専用レーンになることを表している。この時間帯に同レーンを通行できるのは、2人以上乗っているクルマ、バスやタクシー、消防車・救急車などに限られる。レーン自体はこの2025年3月3日から導入されたが、同年5月1日からは違反車には135ユーロ(約2万2000円)の罰金が科されるようになった。その目的は、パリを通行するクルマの8割を占めるという1人乗車のクルマを減らして、CO2排出を抑制することだ。
こうした一連の政策からみてもわかるように、パリは明確に“脱クルマ”にカジを切っている。それもそのはずで、2014年3月に「環境に優しいパリ」を訴えて当選したアンヌ・イダルゴ現パリ市長はクルマ嫌いで有名なのだ。そんなイダルゴ市長は、2020年には「クルマを使わず、徒歩や自転車で日常生活に必要な施設に15分でアクセスできる街=15分シティー」や「パリを緑いっぱいの歩行者・自転車天国にする」を公約に掲げて、再選を果たしている。
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東京の自転車レーンに感じる恐怖と不安
イダルゴ市長は、2026年の次期市長選で3期目をねらわないとしており、パリ五輪後は自身の公約の総仕上げとばかりに「120の歩行者天国と緑化プロジェクトを完了させる」という目標を発表。任期終了までにプロジェクト実現にまい進すると公言している。来年、2026年のパリは、さらにクルマにとって肩身のせまい街になっている可能性が高い。
イダルゴ市政は、当然ながらドライバーには悪評を買っている。筆者も「できることなら、いつまでもクルマに自由に乗っていたい」と考えるカーマニアのひとりにして、約20年間ルノーを乗り継ぐフランス車依存症でもある。それゆえ、憧れのパリの現状を体感するに「ナニやっちゃってくれてんのよ、イダルゴ市長さんよ!」と毒づきたくなるのが正直なところだ。
しかし、あえて一歩引いてサイクリスト目線で見ると、パリはじつに住みやすくなっているんだろうとも思う。賛否はともかく、やらんとしていることは明確でわかりやすく、そのための手法も理にかなっている。これと比較するとわが東京を中心にある日突然(?)出現した自転車レーンが、いかにも場当たり的でチンケなものに見えてきて悲しくなる。
最近の東京で目立ちはじめた(路肩をペイントしただけの)自転車レーンは、歩道をわが物顔で走る自転車が増えたことを受けてつくられた。しかし、そもそも自転車が自然発生的に歩道を走りはじめたのは、日本の道路設計が自転車通行を想定しておらず、とくに都市部の車道を自転車で走ると、恐怖を感じるからだ。なのに、道路設計を見直すこともなく、いきなり「自転車は車道」と大義名分を振りかざして、自転車を車道に放り出した。これでは、サイクリストとドライバーともに、危険とストレスが増すだけだ。
……とかいいつつ、みんなが少しずつ譲りあう東京は、昔と比較すれば違法駐車も減ったし、(無法者の自転車や電動キックボードにさえ気をつければ)今のパリよりはドライバーにとって生活しやすい街と思う。あくまでひとりのカーマニアとしての自分勝手な意見を申し上げると、小池都知事にパリのマネはしてほしくないものである。
(文=佐野弘宗/写真=佐野弘宗、webCG/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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