4000年の歴史のプラスとマイナスを大いに満喫 上海モーターショー2025見聞録
2025.05.14 デイリーコラム取材を阻む高い壁
今なら、いや今だから言える。最大の失敗は中国4000年の歴史を甘くみていたことだろう。
筆者は先日「オート上海」と呼ばれる上海のモーターショーに出かけてきたわけだが、そもそも発端は「やっとビザなしで中国へ渡航できるようになったから、中国のモーターショーを見に行こう」だった。自動車ライターをなりわいとしている立場としては、世界最大の自動車マーケットである中国の事情は定期的に見ておきたいところ。しかし、ここしばらくはコロナ禍、そして要ビザと続き中国へ渡ることができなかったのだ。
そんな中国も、2024年の終わりにコロナ禍から続いていた日本人のビザなし渡航を解禁。ついに機は熟したというわけだ。目指すはオート上海2025。前回中国のモーターショーを訪れたのは2019年だから、6年ぶりとなる。長かった。
飛行機は予約した、ホテルも押さえた。あと必要なのは「プレスパス」だ。プレスパスとは取材のための開催日である「プレスデー」に入場するためのパス。取材するためには必須といえる。
ところが……そのハードルが高かった。うまく受理されない。申し込み受け付けの段階ではねられてしまうのだ。いわく「J2ビザ(短期取材ビザ)を取ってこい!」と。中国のいじわる!
筆者は正真正銘!? の自動車メディア関係者なので、これまで訪れた世界のどこのモーターショーでもプレスパス申請が却下されたことなんてない(2019年までは中国のモーターショーでもプレスパスが受け取れていたし、同業者によると2024年の北京モーターショーも問題なかったという)のだが、今回はダメ。
J2ビザさえ取れば受理はされそうだが、現実問題としてフリーランスのライターがJ2ビザを取得するのは不可能に近い。となるとプレスパスは厳しい……。のだが、現地で交渉すればなんとかなるかもしれないという淡い期待を胸に、上海へ乗り込むことにした。もう当たって砕けろ! だ。
6年ぶりに見た上海の街
というわけで上海上陸。「コロナ前とは道を走っているクルマが全然違うよ。まるで別世界」とうわさには聞いていたけれど、6年ぶりに訪れた上海は本当にそうだった。
あれだけたくさん走っていたドイツの「みんなのクルマ(Volks……)」をはじめ、海外ブランドは激減。日本車もめっきり見かけなくなった。たまに見つけるとなんだかホッとするくらいに。
逆に激増しているのが中国車。しかも中国車はサブブランドが膨大だから(筆者が不勉強すぎるせいで)車種名どころかブランド名すらよく分からないクルマが多数。しかもデザインテイストが大体一緒だから、同じようなクルマばっかりに見えて軽くドン引きしたのはここだけの内緒の話。ここ数年の間に海外ブランド信仰が薄れ、国産ブランドを求める層が大きく拡大したということなのだろう。
そして、上海市内に限っていえば緑色のライセンスプレートを付けた「新エネルギー車」の多さに驚く。ちなみに新エネルギー車とはバッテリー式EV(BEV)だけでなくプラグインハイブリッド車(PHEV)やレンジエクステンダーEV(REV)も含んだもの。それらはさまざまな優遇が受けられるのだが、昨今はPHEVやREVといったエンジン搭載車の比率が高まっているらしい。
さらにいえば、LiDAR(ライダー)を搭載したクルマを見かける頻度も全然違う。上海の街なかではライダーを搭載した車両はもう珍しいものではないが……東京や大阪、名古屋ではどうだろうか?
海外ブランドから国内ブランドへ、エンジン車から新エネルギー車へ。さらに世界の先端を行く(疑似的な)自動運転の社会。その様変わりは予想をはるかに超えていた。本当に本当にまるで別世界。筆者は生まれて初めて、陸へ戻ってきた浦島太郎の気持ちが分かったような気がした。玉手箱だけは開けないように気をつけないと。
展示内容がまともになった!
さて、肝心のオート上海は、結論からいえばプレスデーには入場できなかった。現地で(ダメモトで)交渉してみたものの、やっぱり中国4000年の歴史はそう生易しいものではなかったのだ。ギョーザもマーボー豆腐も好きなんだけど、おかしいなあ。
ただ、プレスデーの翌日に開催された「トレードデー」には潜入成功(普通にチケットを買って……)。中国のモーターショーで中国の今を感じてくるという目的は、なんとか実現することができた。
そこで感じたのは、まず展示内容がずいぶんマトモになったってこと。前回2019年は「展示しているすべての車両がモックアップ」なんてブースも結構多くて、つまりそれらは市販車を一台も送り出していない会社のもの。そんな会社がモーターショーになぜ出展するかといえば、投資を集める目的が多かったのだろう。当時はイケイケでEVメーカーへの投資でもうけようとする人(とそれを利用するためにEVメーカーを立ち上げる人)が多かったから、投資と政府の補助金で懐を太らせ、うまくいかなければ解散というわけだ。当然ながらそこにはクルマへの愛情なんてない。
いっぽうオート上海2025ではそう思えるような展示はほぼなく、市販(予定)車がほとんど。怪しい会社はかなり淘汰(とうた)されたのだろう。
一時期日本でも話題になった「コピー車」の類いはほぼ絶滅。なかには「これって……」というクルマもあるけれど、あくまでテイストが似ているといったラインに踏みとどまっている。まあ日本車もかつては通った道だ。
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走る・曲がる・止まるには誰も興味がない
というか、ここ6年の間に中国メーカーのデザイン力は大幅にアップした。もはや日本車は逆転され、“その後を追う立場”になってしまったのは日本人として悲しいけれど現実。インテリアの仕立ても同じ価格帯であれば日本車をはじめとする海外勢よりも中国車のほうがクオリティーは高いし、レベル2相当でハンドルから手放しのまま走り続けられる疑似的な自動運転も輸入ブランドは中国車に追いついていない。悲しいかな、それが現実なのだ。
理由はいろいろあるが、ひとことで言えば「中国って本気出すとすごい。侮れない」ってことだろう。筆者は火鍋も好きだからよく分かる。
そして強引にまとめるとすれば、そういった中国の大変化を感じられたことが、上海へ出かけた大きな収穫だったと思う。先日宇宙へ行ったケイティ・ペリーは、今後誰かと意見の対立が起きた場合に「宇宙へ行ったことがない人には分からないだろうから仕方ないわよね」と言えば相手を黙らせられると思うけど、宇宙じゃなくて中国の自動車事情だってやはり現地でこそ実感できることがある。ボクも、これからは誰かと意見が対立したら「中国の自動車事情すら自分の目で見たことないくせに!」と言ってマウントをとることにしよう(嫌なやつだ)。
ちなみに中国で人気車になるために大切なことは「いかに快適に移動できるか」であり、“走る・曲がる・止まる”なんかは誰も興味がないらしい。
ところで上海の街なかは中国車ばかりで新エネルギー車も多いと書いたが、後日、少しだけ郊外へ出かけたら海外ブランド車や純ガソリンエンジン車を上海の市街地よりも多く見かけた。街なかよりもちょっと落ち着けたのは、筆者にとってはより身近な光景に一種の清涼剤のような効果があったからに違いない。
それにしても、郊外のサービスエリアで食べた「卵とトマトの炒めもの」はおいしかったなあ。やっぱり中国4000年の歴史は侮れん。
(文と写真=工藤貴宏/編集=藤沢 勝)
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工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
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