カンナム・スパイダーRTシートゥースカイ(6AT)
360°パノラマドライブを楽しもう 2025.06.22 試乗記 フロント2輪、リア1輪の独創マシン「カンナム・スパイダー」に試乗。そのライドフィールはどのようなもので、どんなファン・トゥ・ライドを持ち合わせているのか? カナダ発の三輪モビリティーが備える、バイクとも、クルマとも違う魅力をリポートする。操作方法の違いに戸惑う
カンナム(CAN-AM)のモデルに乗るのは初めてだ。
「一応、練習しときます?」とスタッフの方。
「ぜひお願いします」
試乗するのは同ブランドのツーリングモデルというべき「スパイダー RT SEA-TO-SKY(シートゥースカイ)」(469万3600円)。前2輪、後1輪のレイアウトを持つことから、漠然と三輪バイクのイメージを抱いていたが、実際にシートにまたがると、想像していたのとずいぶん違う。車両のボリュームにたじろぐ感じだ。
カンナム・スパイダーの車両寸法は、全幅×全幅×全高=2833×1554×1464mm。ライバルとして比べるものではないが、初見で「デカッ!」と驚いた、同じく前2輪、後1輪の「ヤマハ・ナイケンGT」が全長×全幅×全高=2150×875×1395mm。スパイダーの恰幅(かっぷく)のよさがわかろうというものだ。
エンジンをかけて走り始めれば、右手グリップでスロットルを操作、左手のシフトボタンでギアチェンジを行う。シフトアップは手動だが、ダウンは自動でも行われる。ブレーキに関して、事前に「バイク乗りの人は右手でブレーキをかけようとしますが、スパイダーのブレーキは右下、足もとのペダルですから」と念押しされていたにもかかわらず、バイクを普段の足としている自分は、何度も幻のブレーキレバーを操作しようとして苦笑いする。
それでもクローズドスペースで完熟走行しているうちに、「これまでにない運転感覚だなァ」とすっかり楽しくなる。ステアリングはクイックで、操作に対する車両の挙動は大きめ。視覚的にフロントフェンダーの動きが見えるのも面白い。当たり前だが、止まってもコケないし、曲がるときに内側に傾くこともない。カンナム・スパイダーは、本質的には「バイクではなくクルマだ」と実感してから公道に出た。
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起源はスノーモービル
カンナムブランドで三輪モデルを世界中に展開するのは、カナダに本拠を置くBRP社。スノーモービルや水上バイクも手がけるメーカーで、「Bombardier Recreational Products」の社名からわかるように、以前は小型ジェット機で知られるボンバルディア社の一部門だった。
ボンバルディアがそもそもスノーモービルの製造からスタートしたことは、カンナムオーナーの間ではよく知られているらしく、なるほど、スノーモービルのスキーとクローラー(キャタピラ)をそれぞれタイヤに置き換えれば、2+1のレイアウトを持つカンナムモデルになる。そう考えるのは間違ってはいないが、しかし初期のスノーモービルである1930年代の「ボンバルディアB7」は、ハーフトラック(後輪がクローラーになったトラック)の前輪をスキー板にしたようなモデルだった。昨今、スノーモービルという単語から思い浮かべる軽量コンパクトな雪上バイク「Ski-Doo(スキードゥー)」の登場は、1957~1958年シーズンまで待たねばならなかった。ボンバルディア豆知識。
日本市場でのカンナムラインナップは、シンプルでスポーティーな「ライカー」(181万7600円~265万3600円)と、ツーリング向けの豪華なスパイダー(451万8900円~469万3600円)の2系統で構成される。
前者は、600cc直列2気筒、または900cc直列3気筒とCVTの組み合わせ。後者は1330cc直列3気筒(最高出力115HP、最大トルク130.1Nm)を搭載し、電子制御のアクチュエーターを用いた6段セミオートマチックトランスミッションを介して後輪を駆動する。発動機はいずれもBRPロータックス製で、両者ともリバースギアを持つ。
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バイクともクルマとも違う運転感覚
試乗車となったスパイダーRTシートゥースカイは、「ダスクメタリック」こと深紫にペイントされていた。中性的なカラーが今っぽい。バーハンドル前方のセンターコンソールには10.25インチのタッチスクリーンが埋め込まれ、スマートフォンと連携してナビとして使えるほか、ギアをリバースに入れるとバックカメラに対応して自車の後方を映し出す。電動で上下するフロントスクリーンや、前後左右に設けられた実用的なラゲッジスペースが乗り手を旅に誘う。
しかし、カンナム初心者が一般道を行った最初の印象は「ちょっぴりコワい」だった。たとえば舗装が悪い場所でのスパイダーの挙動は、マイクロカーのそれに近い。通常のクルマと比べて相対的に狭いトレッドや短いホイールベースゆえ、ときに激しく左右に揺すられ、「むき出しの自分」をいやでも意識させられる。乗員を守ってくれる外殻がないのが心細い。
カーブでは、人馬一体となって内側に傾くバイクとは異なり、遠心力との戦いになる。速度によってはカーブの外側に放り出されないよう、どうしてもバーハンドルにしがみつくカタチになって、われながらブザマだ。スパイダーは、フロントに165/55R15、リアに225/60R15という太くむっちりしたタイヤを履くが、四輪車ではタイヤ2本分の役割を果たす後輪が、どの程度まで踏ん張るのか。それを測りかねるのも潜在的な不安を増幅させる。
……などと書くと、いかにもスパイダーにネガティブな感想を抱いたようだが、全然そんなことはない。バイク乗りの筆者の場合、本来まったく別物であるはずの三輪バイクとカンナムの動きを無意識のうちに比較する段階を脱すると、にわかに「ファン」の要素が強まってきた。当初の緊張が解けて、「まあ、初心者だしな」と割り切ってノンビリ走り始めると、360°周囲の景色を見まわせることもあって、すっかり明るい気持ちになる。
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ぜひヘルメットとグローブの着用を
ロータックス3気筒の115HPのピークパワーは7520rpmで得られるが、回してもさして劇的なことは起こらないエンジンなので、早め早めにシフトアップしていく。448kg(乾燥重量)に対して1.3リッターだから、それでも動力面で不満はない。フットブレーキは、慣れないとカックンブレーキになって、独り恥ずかしい思いをする。
限られた試乗時間ながら、カンナムエキスパートになれば、あたかも水上バイクを海上で振りまわすように、リア1輪をスライドさせて自在に操れるようになるのだろうか。なろうことなら、未舗装路を激走(!?)してみたいと、ビギナーならではの夢は広がるばかり。
言及するのが遅くなったが、カンナムのモデルは、スパイダー、ライカーとも、普通自動車免許で運転可能だ(いわゆるAT免許でもOK)。法規上はヘルメットをかぶらずに運転しても違反にはならないが、「ヘルメットとグローブの着用を強く推奨します」とスタッフの方。それはそうでしょう、安全第一。それに、ヘルメットとグローブを装着していても、四輪のオープンカーやバイクのそれとはまた違った自然との一体感を満喫できるから、心配は無用だ。
(文=青木禎之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2833×1554×1464mm
ホイールベース:1714mm
シート高:755mm
重量:464kg(乾燥重量)
エンジン:1330cc 水冷4ストローク直列3気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:115HP(85.8kW)/7250rpm
最大トルク:130.1N・m(13.3kgf・m)/5000rpm
トランスミッション:6段セミAT
燃費:--km/リッター
価格:469万3600円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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