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最高出力1360PSのスーパー4ドアクーペ! 「メルセデスAMG GT XX」のメカニズムを読み解く

2025.07.09 デイリーコラム 渡辺 慎太郎
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従業員2500人が参加したお披露目会

メルセデスAMGの本拠地は、シュトゥットガルトからクルマで30分くらいの“Affalterbach(アファルターバッハ)”という小さな町にある。ここで「コンセプトAMG GT XX」の発表会があったのだけれど、前泊したホテルの部屋には招待状が置いてあって、そこには“Affasterbach(アファスターバッハ)”と書かれていた。“falter”を“faster”に変えてAMG GT XXのパフォーマンスをアピールしようというおやじギャグの類いである。

いっぽうで、AMG生誕の地を前面に押し出す理由もある。AMG GT XXは電気自動車(BEV)専用の新規プラットフォームをはじめ、そのほとんどがAMGの独自開発によるものだからだ。メルセデスAMGのCEOであるミハエル・シーベ氏によれば、今後はさらにメルセデス・ベンツとメルセデスAMGとの差別化を図っていくという。AMG GT XXはメルセデスAMGの技術のショーケースのようなモデルであり、だからこそシュトゥットガルトではなくアファルターバッハにこだわったのだろう。

それにしても盛大な発表会だった。特にコロナ禍以降、各自動車メーカーは発表会をオンラインにしたり、規模を縮小したりする傾向にあった。ところが今回は、メルセデスAMGの従業員だけでも2500人、さらに世界中からメディアやインフルエンサーを招き、ステージにはオーストリアGPを直前に控えたF1ドライバーのジョージ・ラッセルとアンドレア・キミ・アントネッリが現れるわ、アリシア・キーズのライブがあるわ、スティーブ・アオキによるDJパフォーマンスがあるわと、人ごとながら「いったいどれくらいのお金がかかっているんだろう」と下世話な妄想をしてしまうほどだった。同時に、メルセデスAMGのAMG GT XXに対する意気込みというか、士気の高さがうかがえた。

メルセデスAMG生誕の地であるドイツ・アファルターバッハでお披露目された「コンセプトAMG GT XX」。
メルセデスAMG生誕の地であるドイツ・アファルターバッハでお披露目された「コンセプトAMG GT XX」。拡大
2500人ものメルセデスAMGの従業員や世界各国のメディア、インフルエンサーなどが参加。自動車のお披露目会というよりは祭りや野外ライブの雰囲気だ。
2500人ものメルセデスAMGの従業員や世界各国のメディア、インフルエンサーなどが参加。自動車のお披露目会というよりは祭りや野外ライブの雰囲気だ。拡大
メルセデスAMGのF1ドライバーであるアンドレア・キミ・アントネッリ(写真)やジョージ・ラッセルも参加した。
メルセデスAMGのF1ドライバーであるアンドレア・キミ・アントネッリ(写真)やジョージ・ラッセルも参加した。拡大
招待状だけでなく駐車場の案内看板も“AFFASTERBACH(アファスターバッハ)”だ。
招待状だけでなく駐車場の案内看板も“AFFASTERBACH(アファスターバッハ)”だ。拡大
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N・mではなくkWだった

AMG GT XXは、「AMG.EA」と呼ばれるAMGが開発したBEV専用のアーキテクチャーを使用する。以前、メルセデス・ベンツのデザインワークショップ(参照)のリポートをしたが、そこでお披露目された「Vision 111(ビジョンワンイレブン)」と今回登場したAMG GT XXはいろいろとつながっている。エクステリアデザインでは、フロントの低いところに横長の形状で配置されるフロントグリル、インテリアでは角型のステアリングや液晶パネルの後ろに置かれた細長いダッシュパネル、そして駆動モーターにはYASA製のアキシャルフラックスモーターが使われている点も同じである。

一般的なBEVのモーターはラジアルフラックスモーターと呼ばれ、モーター軸に対して放射状に磁束が流れるが、アキシャルフラックスモーターはモーターの軸方向に磁束が流れる特性を持っている。ラジアルフラックスモーターの永久磁石は円筒状だが、アキシャルフラックスモーターの永久磁石は円盤状に配置されるので、同等の出力だと約3分の1のサイズと重量に収めることができるのである。AMG GT XXではこれをフロントに1つ、リアに2つ置き、最高出力は1000kW(1360PS)にも及ぶという。この数値を最初に見たときは“N・m”に見えて「へー」くらいにしか思わなかったが“kW”だと気がついて、その非現実的な数値に唖然(あぜん)とした。なお、リアモーターはひとつのハウジング内に収まってはいるものの機械的にはつながっていないので、左右独立制御となる。

シャシーはメルセデスAMGが新開発した電気自動車専用アーキテクチャーの「AMG.EA」を使う。
シャシーはメルセデスAMGが新開発した電気自動車専用アーキテクチャーの「AMG.EA」を使う。拡大
センタートンネルにあたる部分に電気回路の接続点となるバスバーを設置し、駆動用電池はそれを囲むようにU字型にレイアウト。総電力量は未公表ながら、850kWまでの充電出力に対応している。
センタートンネルにあたる部分に電気回路の接続点となるバスバーを設置し、駆動用電池はそれを囲むようにU字型にレイアウト。総電力量は未公表ながら、850kWまでの充電出力に対応している。拡大
ボディーの全長は5204mmにも達する。「メルセデスAMG GT 4ドア」の次期型、もしくはその後継モデルになるのだろうか。
ボディーの全長は5204mmにも達する。「メルセデスAMG GT 4ドア」の次期型、もしくはその後継モデルになるのだろうか。拡大

すでに量産型が完成している?

バッテリーは、円筒セル型を専用のオイルで冷却する直冷式である点が特徴だ。これにより、バッテリーは常に最適な温度に保たれるため、例えば高速走行直後でも急速充電に対応できるという。850kW以上の充電出力に対応し、もしそういう充電器があれば約5分で航続距離400km相当の充電が可能とのこと。電気の出し入れがスムーズで、サーキット走行をしても発熱は少ないそうだ。

ボディーは4ドアクーペの形状で、サイズは全長×全幅×全高=5204×1945××1317mm。そして何より驚いたのは空力である。Cd値は0.198。ついに0.20を切ってしまった。メルセデスのCd値に対するこだわりは相変わらずすさまじい。左右3灯ずつのテールランプはどこかで見たようなデザインだが、これはBEVなのでなくなってしまったエキゾーストパイプをモチーフにしているという。ホイールは、ホイールキャップ部がブレーキ冷却時には外側へ浮いて空気を取り込み、高速巡航時にはそれが閉じる仕組み。電動式だが、そのための電力はそれぞれの車輪に設けられたダイナモ(自転車のライトのような構造)によって発電される。このほかにも、サイドステップ下に発光する塗料を用いて、例えば「充電中」であることを表示したり、ヘッドライトに内蔵されるスピーカーから外部へ向けた走行音を演出したりする機能も備えている。

どうやら量産型はほぼ完成しているようで、当初はいきなりそちらを発表する予定だったらしい。どうしてそれをやめたのかは定かではないけれど、1360PSの最高出力はともかく、スタイリングはほぼこのままの状態で登場するそうだ。なお、メルセデスAMGは今後しばらく、エンジン仕様も(電動化したうえで)継続するが、プラグインハイブリッドの「Eパフォーマンス」はなくなる可能性があるといわれている。いずれにせよ、他メーカーとのパワースペック競争に興じるのではなく、ユーザーのほうを向いた現実的で扱いやすいスポーツカーを今後も世に送り出してもらいたいものである。

(文=渡辺慎太郎/写真=メルセデス・ベンツ/編集=藤沢 勝)

フロントに1基、リアに2基の駆動用アキシャルフラックスモーターを搭載し、システムトータルで最高出力1360PSを発生。最高速は360km/hとされている。
フロントに1基、リアに2基の駆動用アキシャルフラックスモーターを搭載し、システムトータルで最高出力1360PSを発生。最高速は360km/hとされている。拡大
レースカーのようなステアリングホイールが印象的なインテリア。横2本スポークはメルセデスAMGの市販モデルに通ずるポイントだ。
レースカーのようなステアリングホイールが印象的なインテリア。横2本スポークはメルセデスAMGの市販モデルに通ずるポイントだ。拡大
シートはカーボンシェルをベースに、各部のパッドを3Dプリンターを使ったテーラーメイドで仕立てるという。
シートはカーボンシェルをベースに、各部のパッドを3Dプリンターを使ったテーラーメイドで仕立てるという。拡大
ホイールはキャップが外にせり出してブレーキの冷却効率を高める仕掛け。展開・格納は電動式となっており、そのための電気を生み出すダイナモがホイール内に備わっている。
ホイールはキャップが外にせり出してブレーキの冷却効率を高める仕掛け。展開・格納は電動式となっており、そのための電気を生み出すダイナモがホイール内に備わっている。拡大
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