フォルクスワーゲンID. Buzzプロ ロングホイールベース(RWD)
早食いの大食い 2025.07.28 試乗記 “ワーゲンバス”として長く親しまれたフォルクスワーゲン(VW)の「タイプ2」が電気自動車(BEV)「ID. Buzz」として現代に復活! ついに日本の道を走り始めた。見た目はバスとしてバッチリだが、果たしてドライバビリティーはどんなものか。ロングホイールベース版を試した。欧州から3年遅れての導入
21世紀に入り、折につけてVWは「バス」や「ブリー」の俗称で親しまれてきたタイプ2の新しいあり方をコンセプトカーを通して模索してきた。2001年の「マイクロバスコンセプト」に端を発し、2011年の「ニューブリーコンセプト」はMQBプラットフォームをベースとして300kmの航続距離を達成するとされており、早くもBEVの道を目指し始めていたことになる。
そして2017年、MEBプラットフォームをベースとした「I.D.BUZZコンセプト」がデトロイトショーで発表された。前後に150kW出力のモーターを搭載し、出力150kWの急速充電に対応。600kmの航続距離を目標とする……というのが、その際に発表されたアウトラインだ。
それから5年後の2022年に欧州で販売を開始し、2025年にいよいよ日本にも上陸したID. Buzz。導入に時間がかかった理由は、まず車両の開発や製造を担うのがVWのコマーシャルカー部門という点が挙げられる。ご存じのとおり、日本にはVWの商用車型は導入されていないため、インポーターとしては直接的な窓口を持たない。ゆえにローカライズにしても仕様決定にしても仕切り値にしても乗用車の交渉とは異なるチャンネルでの対応になっていたという。その昔は「マルチバン」の導入検討も検討されたと聞くが、同様のハードルに悩まされたそうだ。
ロングとショートではドアが違う
もうひとつはまさに価格だ。商用車と聞けば廉価を想像するが、VWのそれは決して安くはない。ちなみにドイツの税抜き価格ではID. Buzzのロングホイールベースが5万2860ユーロ。日本の仕様に近づけるにはここに3列目シートや大径タイヤ&ホイール、グラスルーフなど加えるべきオプションはたくさんある。
「いろいろシミュレーションしても、どうしても4桁超えちゃうんですよね……」とは、当時日本導入を検証していたインポーターのスタッフの声だ。あれからほぼ2年を経る間に、ユーロはさらに高くなり、170円オーバーと当時のポンドのようなレートになってしまっている。もちろん安いクルマではないが、これらの事情に鑑みればID. Buzzの値づけは相当頑張ったものであることが伝わるだろう。
ID. Buzzは2990mmのショートと3240mmのロングと、2つのホイールベースがある。ボディーの中央部が引き伸ばされているがゆえ、スライドドアの長さがそれを表すことになる。となると、ロングホイールベースはスライドドアを全開にすると右後端にある充電ポートにドア端が干渉してしまうのではないかと思うわけだが、ポートの開閉状態に応じてスライド量はきちんと管理されている。抜かりのなさはさすがドイツものだ。
バッテリーの搭載容量はショートが84kWh、ロングは91kWhと若干多い。一方で一充電走行距離はWLTCモードで前者が524km、後者が554kmと著しい差はないが、これは170kgの重量差によるものと思われる。いずれにせよ2.5tオーバーと、相当な重量級であることは間違いない。これを後軸に置かれた最高出力286PS/最大トルク560N・mの駆動用モーターで走らせるという算段だ。それにしても「アルファード」超えの車格も成立させるMEBプラットフォームの拡張性の高さにはちょっと驚かされる。
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とにかく広い
試乗車はロングホイールベース版ゆえ、中央列は3人掛けのベンチタイプで7人乗りとなるが、ショートホイールベース版は中央列がキャプテンシートの6人乗りとなる。シートアレンジ面では7人乗りのほうが2~3列目のシートがツライチで畳めるため荷室の使い勝手が抜群に高い。ご丁寧に荷室部も面一化できるボードも備わるため、車中泊などのニーズにも応えることができそうだ。
オリジナルのタイプ2は同じ後軸に動力源を置くレイアウトでもエンジンが熱くてかさばるため、そもそもリアゲート側からの荷物のアクセスさえ想定されていなかった。ID. Buzzはモータードライブがゆえの利を空間構成にも生かしている。
最初は乗せられるニーズに鑑みてロングにこそキャプテンシートを設定するべきではないかといぶかしがったが、この空間を生かし切る使い勝手のよさを推してベンチシートにしたのかと納得させられた。それに足元がやたらと広い各席の着座感を知るに、ショートでも2列目の賓客に窮屈な思いをさせることはなさそうだ。むしろ重厚な高級感を志向する日本のミニバン群とはまるで一線を画する、ライトな色使いでミニマムにしつらえられた内装が好き嫌いの分かれるところだろうか。
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巨体でも軽やかに曲がる
乗っての印象は想像以上に快適な印象だった。ドイツのこの手のクルマは往々にして商用兼用・高負荷前提でつくられるがゆえ、飛ばすとビタッと走りが定まる一方で、低速域ではゴワゴワと渋い乗り心地に感じられるものが多いが、ID. Buzzは乗用車も用いるMEBプラットフォームゆえ、低速域から路面アタリは丸く、後軸側の路面追従性も高い。が、速度レンジが上がって負荷が増したり、わだちや波状的な凹凸のようなところでは後ろ側のピッチが大きく感じられることもあった。おそらくはサスのデキというよりも、大径幅広タイヤを履くバネ下のマスに引っ張られているかという印象だ。ちなみにID. Buzzのタイヤ設定は前後異寸になるため、ローテーションが利かないことには留意すべきだろう。
そのぶんのよさというのもあって、ID. Buzzは巨体や重量の割には交差点や山坂道などで意外と軽やかに曲がってくれる感がある。後輪駆動の美点ということだろう。BEVはアーキテクチャーの共用や生産設備等の関係もあって前輪駆動を選ぶモデルも多いが、専用設計がかなうのなら、やはり後輪駆動前提で考えるべきものかと思う。このクルマは動きでそれを示してくれている。
ちなみにID. Buzzの受電能力は出力150kWまでだが、赤マルチと呼ばれる最新の150kW出力の急速充電器に始終単独でコネクトした際にはピークで137kWのアウトプットを示していた。30分後には24%から83%まで回復していた、その数字から算出すれば50kWh程度の充電ができたことになる。一方で、電費に関してはさすがにこの巨体ゆえ、実質5km/kWhを狙うのも厳しそうというのが偽らざる印象だ。入りも速いが減りも速い。長距離ドライブではそれを念頭に付き合うことになるだろう。
(文=渡辺敏史/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝/車両協力=フォルクスワーゲン ジャパン)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲンID. Buzzプロ ロングホイールベース
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4965×1985×1925mm
ホイールベース:3240mm
車重:2730kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:286PS(210kW)/3581-6500rpm
最大トルク:560N・m(57.1kgf・m)/0-3581rpm
タイヤ:(前)235/50R20 104T XL/(後)265/45R20 108T XL(コンチネンタル・エココンタクト6Q)
交流電力量消費率:173Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:554km(WLTCモード)
価格:997万9000円/テスト車=1051万8000円
オプション装備:オプションカラー<キャンディーホワイト×ライムイエローメタリック>(24万2000円)/ラグジュアリーパッケージ(29万7000円)
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:1047km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:239.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:4.1km/kWh(車載電費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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