BMW523iツーリング(FR/8AT)【試乗記】
戻って正解 2010.09.29 試乗記 BMW523iツーリング(FR/8AT)……714万3000円
セダンに続いて日本で販売が始まった、新型「BMW5シリーズツーリング」。最も新しいワゴンの実力は、どれほどのものなのか? エントリーグレード「523iツーリング」で試した。
一発で、コロリ
「恋に落ちるまで、わずか3秒。あとの4分57秒は、深い絆(きずな)でむすばれるために必要な時間です。」
そんな歯が浮くような(失礼!)フレーズが太字で記載されるのが、新しいBMW5シリーズの立派なカタログである。「ニューBMW5シリーズセダンを初めて体験する、5分間。」と題して、「0分07秒 ドアハンドルに手をかける」から深い絆で結ばれるまでが経過時間とともに解説される。
どこかむずがゆい気持ちを逆手にとって(?)、「では、ワゴンと恋に落ちるのはどれくらいか」と思いながら「5シリーズツーリング」のプレス試乗会に参加した。3秒でした。……というのはウソだが、なるほど、スターターボタンを押してエンジンをかけ、ハンドルを握って走りはじめたとたん、いや、遅くとも駐車場から公道に出る段差を越えるときまでには「BMW5シリーズツーリング」と恋に落ちていた。「シルキースムーズ」というあまりに月並みな、皆が感じるからこそ月並みになるのだが、いまや珍しい形式となったストレート6の粒がそろったエンジン音と、「これぞ高級車」といわんばかりの重厚な乗り心地、そして豪華な内装にあっけなくノックアウトされた。
セダンに遅れること約半年。「523i/528i/535iツーリング」の3グレードで構成されるワゴンボディのラインナップのうち、まずは2.5リッターNAを搭載した「523iツーリング」が日本に入れられた。希望小売価格は、先代「525iツーリング」の675万円よりわずかに安い640万円。とはいえ、恋に落ちたからといってすぐには結びつけない、高嶺(たかね)の花であることに変わりはない。
ステキに「高そう」
「メルセデスは型落ちになると味が出てよくなるけど、BMWの古いのはちょっとね……」というのが、クルマ好きの率直なところではないか。よくも悪くもトレンドセッターで、一目散に前へ進んで振り返らない存在がBMWで、だからこそヤンエグ(死語)や世の成功者が好むブランドなわけだが、新しい「5シリーズ」はずいぶんと保守的な印象だ。専門家の目をもって深読みすれば、スターデザイナーだったクリス・バングルの流れや、アグレッシブなラインを読み取ることもできようが、一般的な感覚からすると「振り子が戻ってきた」といったところ。それでおおよそ正解だと思う。
先代「7シリーズ」以来、ニューモデルが出るたびに度肝を抜かれてきたセールスマン諸氏は、ニュー「5シリーズ」に大いに期待しているらしい。「ディーラーに引っ張ってくるのはダンナさまですが、実際に買うときにOKを出すのは奥さまですから」というわけだ。ストレートに高級車然としている「5シリーズ」、それも家族(奥さま)サービスにも使えるワゴンボディとなれば、クルマ好きのダンナにも、奥さまを説得する余地が出るのではないか。
もっぱらビーエムの名に恥じない走りと豊かなイメージを積むことに注力している、ようにも見えたこれまでと異なり、今度の「5シリーズツーリング」は、リアシートを3分割して倒して見せたり、同じことを荷室のレバーを引いてやってみたり、はたまた大きなリアゲートではなくリアガラスだけを手軽に開けて、「近所のお買い物もスマートに」と日常への配慮をにじませることもできる。その際、荷室を隠すパーテーションが自動に開閉するさまも、「さすがは高級車」と納得させる小さな要因になりうる。
走りもエコも抜かりなし
とはいえ、ひとたび運転席に座ってしまえば、「5シリーズツーリング」はまごうかたなきドライバーズカーである。センターコンソールは、これまで通り角度がついてドライバー側に向けられている。
最新「5シリーズ」は「やや小ぶりな7シリーズ」とでもいうべき成り立ちをもつが、「プアマンズ7とは決して言わせない」といわんばかりに室内は豪華だ。試乗車はダコタレザー仕様。まずは10.2インチの大きなディスプレイが目に飛び込んでくる。アルミの飾りがついた手の込んだウッドパネル。クールなデザインのシフトレバーとiDrive用のダイヤル。灰皿のかわりにカップホルダーとなった場所に、キーを差すくぼみが設けられたのはご愛敬(あいきょう)。ディスプレイの奥底に潜り込まされた空調・オーディオ関係のボタン類が物理的にコンソールに戻ってきたのは、IT原理主義者以外には大歓迎だろう。
フロントの2.5リッター直列6気筒は、204ps/6300rpmの最高出力と25.5kgm/2750-3000rpmの最大トルクを発生する。欧州ではリーンバーン仕様も用意されるが、日本ではNOxを嫌って直噴タイプがカタログに載る。10・15モード燃費は10.4km/リッターと、先代525iツーリングから2割強燃費が向上した。エコカー減税対象モデルである。
組み合わされるトランスミッションは、8段AT。空荷で走っているかぎり、自然吸気の2.5リッターで何ら不満はない。個人的な嗜好(しこう)に照らすと足まわりが少々ヤワだなと感じたので、iDriveをいじってドライブトレインはそのままに、シャシーのみをスポーツにすると、こちらの不満もなくなった。
すっかり「523iツーリング」が気に入って、くだんのカタログページを思い出した。そういえば、最後のフレーズはこうだった。
「4分55秒 ……そして、ひとたび走り出したら、二度と止まりたくなくなることも、すでに気づいてしまっているのです」。
4分55秒 ……。もうすこしかかったかな。
(文=細川 進/写真=峰昌宏)
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細川 進
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