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BMW 523d xDriveツーリングMスポーツ(4WD/8AT)

軽快にして重厚 2024.09.03 試乗記 渡辺 慎太郎 ドイツプレミアムブランドの中核モデルにおいてセダンとワゴンはクルマの両輪。新しい「BMW 5シリーズ」にも晴れて「ツーリング」が追加設定された。2リッターディーゼルターボエンジン搭載の「523d xDriveツーリングMスポーツ」の仕上がりをリポートする。
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欲しい人がいる限り

お客さまの要望を何よりも最重要視して、マイナーチェンジやフルモデルチェンジの際にはひとつでも多くのお客さまの声を反映させたクルマづくりを心がける。つい最近試乗したホンダの新型「フリード」なんかを見ると、それが微に入り細をうがつほど徹底されていて、これこそが日本車の本分なのだなあと感心する。

いっぽうでお客さまの声を真摯(しんし)に受け止めるということは、お客さまが望まないことはしないということでもある。つまりお客さまが欲しない商品はつくらない。日本の自動車メーカーはついでにこっちもずいぶん重視しているようで、お客さまが欲しない商品=売れない商品はつくらない。クーペ、コンバーチブル、そしてワゴンが日本車のラインナップにほとんど見られないことがそれを証明している。ビジネスの観点からすれば、売れない商品をつくらないのは鉄則ではあるけれど、厳密に言えばクーペやコンバーチブルやワゴンが欲しいと願う人はゼロではないわけで、でも数が少ない=もうからないからつくらないというのは、ちょっと冷淡なやり方だとも思ったりする。

メルセデスやBMWのエンジニアとワゴンの存在意義について以前話したことがある。両者とも異口同音に「SUVをつくったほうが利益が出ることが分かっているけれど、それでもワゴンが欲しいというお客さまがわずかとはいえ一定数はいる以上、その要望に応えるのもメーカーとしての責任だと考えています」と正直に話してくださった。そしてその言葉どおり、メルセデスの「Cクラス」と「Eクラス」、BMWの「3シリーズ」にはワゴンが用意されていて、この度5シリーズにもワゴンが追加された。

「セダン」から7カ月遅れの2024年2月に国内導入が発表された新型「BMW 5シリーズ ツーリング」。5シリーズとしては第8世代、ツーリングとしては第5世代ということになる。
「セダン」から7カ月遅れの2024年2月に国内導入が発表された新型「BMW 5シリーズ ツーリング」。5シリーズとしては第8世代、ツーリングとしては第5世代ということになる。拡大
ボディーサイズは「セダン」と同寸の全長×全幅×全高=5060×1900×1515mm。先代モデル比で110mmも長くなった。
ボディーサイズは「セダン」と同寸の全長×全幅×全高=5060×1900×1515mm。先代モデル比で110mmも長くなった。拡大
フロントマスクは上(ボンネット側)が前方に飛び出たシャークノーズデザイン。左右が融合したキドニーグリルは外周部がライトアップされる仕掛け。
フロントマスクは上(ボンネット側)が前方に飛び出たシャークノーズデザイン。左右が融合したキドニーグリルは外周部がライトアップされる仕掛け。拡大
リアコンビランプを低い位置に搭載することでワイド感とスポーティー感を強調。ランプの形状は「セダン」と同じのようだが、サイドに回り込む部分のパターンが少し違う。
リアコンビランプを低い位置に搭載することでワイド感とスポーティー感を強調。ランプの形状は「セダン」と同じのようだが、サイドに回り込む部分のパターンが少し違う。拡大
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BEVもMもラインナップ

日本仕様の5シリーズ ツーリングは、ディーゼルエンジンを積む「523d xDriveツーリング」と電気自動車(BEV)の「i5 eDrive40ツーリング」「i5 M60 xDriveツーリング」、そしてつい最近「M5ツーリング」まで加わった。「M5セダン」と同じプラグインハイブリッドのパワートレインを搭載し、最高出力727PS/最大トルク1000N・mを発生するというとてつもない代物である。

日本のメーカーからしてみれば、売れないワゴンにディーゼルはともかく、さらに売り上げの見込めないBEVを2種類も用意して、しかもさらに数の出ないハイパフォーマンス仕様のM5まで取りそろえるなんて、「グアムに住んでる人にサイパン旅行を薦める」くらい理解に苦しむ戦略に映っているかもしれない。ただよく見ると、かなり割り切った商品構成にもなっている。いわゆるノーマルの内燃機仕様はディーゼルの一択で、どうしてもガソリンがいいというのであれば自動的に1000N・mとなる。いっぽうで、内燃機でもBEVでもノーマルとMの両方をそろえているあたり、BMWのこだわりが見てとれたりもする。

試乗車は523d xDriveツーリングMスポーツで、197PS/400N・mを発生する2リッターの直列4気筒ディーゼルターボを搭載し、8段ATを介して前後輪を駆動する。アダプティブサスペンション(電子制御式ダンパー)とインテグレイテッドアクティブステアリング(後輪操舵)を含む「コンフォートドライビングパッケージ」(33万9000円)やパノラマガラスサンルーフなどを含む「セレクトパッケージ」(30万4000円)、さらに「エクスクルーシブメリノレザーパッケージ」(36万2000円)など、総額130万4000円のオプションが960万円の車両本体価格に上乗せされた、1000万円超の高級仕様だった。ひと昔前だったら、乗り出し金額でせいぜい600万円くらいだっただろう。いつの間にか、輸入車皆高級車みたいな時代に突入してしまった。

新型「5シリーズ」にはBEV版の「i5」もラインナップされる。同じシャシーで内燃機関車とBEVをつくり分けるのが最新のBMWのやり方だ(BEV専用モデルもあるが)。
新型「5シリーズ」にはBEV版の「i5」もラインナップされる。同じシャシーで内燃機関車とBEVをつくり分けるのが最新のBMWのやり方だ(BEV専用モデルもあるが)。拡大
インテリアの仕立ては少し簡素な「7シリーズ」といった趣で、ラグジュアリーさとBMWらしいスポーティーさを高度に両立。アンビエントライト内蔵のきらびやかなクリスタルバーが目を引く。
インテリアの仕立ては少し簡素な「7シリーズ」といった趣で、ラグジュアリーさとBMWらしいスポーティーさを高度に両立。アンビエントライト内蔵のきらびやかなクリスタルバーが目を引く。拡大
センターコンソールはピアノブラックのスイッチパネルにクリスタルのダイヤル&シフトセレクターをレイアウトしている。
センターコンソールはピアノブラックのスイッチパネルにクリスタルのダイヤル&シフトセレクターをレイアウトしている。拡大
メーター用の液晶スクリーンは12.3インチ。フロントのカメラ映像を映し出せるのが実用的にして面白い。
メーター用の液晶スクリーンは12.3インチ。フロントのカメラ映像を映し出せるのが実用的にして面白い。拡大

さすがBMWのパワートレイン

集合場所に到着したら、編集者とカメラマンはすでに撮影を始めていて、エンジンを始動する度にディーゼル特有のカラカラ音があたりに鳴り響いていた。この音をいまだ快く感じない日本人は少なくないようで、ディーゼル車購入の足かせのひとつにもなっているらしい。ところが、例えばアイドリング状態で外でカラカラ音を聞きながらクルマに乗り込んでドアをパタンと閉めると、エンストしたのかと思うくらい一瞬にして室内は静寂に包まれる。

エンジンについては一家言あるBMWは、あえてエンジン音を聞かせる確信犯的騒音対策がうかがえたころもあったけれど、いまではこのクルマに限らず本格的な遮音/吸音をやってきている。特にアイドリング時の音・振動対策は徹底していて、エンジン音のみならず振動もほとんど気にならない。エンジンルームの中身を知らずにスタートボタンを押したら、目の前でチョクヨンのディーゼルがせっせとクランクシャフトを回している様なんか到底想像できないだろう。

走りだしてエンジン回転数を上げればもちろんエンジン音は耳まで届くようになるけれど、実際よりも遠くにあるような音量だし、ディーゼルらしい音色でもない。自分も普段はディーゼル車をアシに使っているが、最近のディーゼルは本当によくできていて、車外騒音と高回転まで回らないことを除けば、ガソリンエンジンと比べてほとんど遜色ないどころか、特に燃費に関しては圧倒的に優位である。ガソリンスタンドでちゅうちょなく「満タン」を選ぶことがちょっとはばかられる燃料代の高騰が続く昨今では、ことさらディーゼルのありがたみを痛感させられる。

このパワートレインは、エンジンとトランスミッションの間にモーターを挟んだマイルドハイブリッドなのだけれど、1500rpmで最大トルクに達するBMW製のディーゼルエンジンはそもそもレスポンスが悪くなかったので、モーターによるサポートは常用域だとあまり感じられない。1500rpmに達するまでの時間がわずかに短縮されて瞬発力が少しよくなった程度。トランスミッションとのマッチングも完璧で、加速力や動的質感なども含めてパワートレインは全般に申し分なかった。

フロントに積まれる2リッター4気筒ディーゼルターボのB47Dエンジンは最高出力197PS、最大トルク400N・mを発生する。
フロントに積まれる2リッター4気筒ディーゼルターボのB47Dエンジンは最高出力197PS、最大トルク400N・mを発生する。拡大
今回の試乗車「Mスポーツ」はステアリングホイールがレザー巻きなのに対し、同じ「523d xDrive」でも「エクスクルーシブ」グレードの場合はビーガンレザーの「ヴェガンザ」巻きとなる。
今回の試乗車「Mスポーツ」はステアリングホイールがレザー巻きなのに対し、同じ「523d xDrive」でも「エクスクルーシブ」グレードの場合はビーガンレザーの「ヴェガンザ」巻きとなる。拡大
巨大なパノラマガラスルーフはHarman Kardonのオーディオ(205W/12スピーカー)などとセットで「セレクトパッケージ」としてオプション設定されている。
巨大なパノラマガラスルーフはHarman Kardonのオーディオ(205W/12スピーカー)などとセットで「セレクトパッケージ」としてオプション設定されている。拡大
この試乗車はBowers & Wilkinsサラウンドサウンドシステム(655W/17スピーカー/9チャンネルサラウンド)をチョイス。「セレクトパッケージ」を装着したうえでアップグレードできる。
この試乗車はBowers & Wilkinsサラウンドサウンドシステム(655W/17スピーカー/9チャンネルサラウンド)をチョイス。「セレクトパッケージ」を装着したうえでアップグレードできる。拡大

大きなワゴンボディーでも気持ちよく曲がる

新型の5シリーズが発表されて最も驚かされたのは、全長が5mを超え、ホイールベースが3mに届こうとするそのボディーサイズだった。全長とホイールベースが長くなってしまうのは、バッテリーを少しでも多く積みたいBEVと内燃機車がプラットフォームを共有するクルマの運命でもある。エンジンのみならず曲がることにも一家言あるBMWは、このネガを後輪操舵という飛び道具で相殺した。

後輪操舵の機構自体はそんなに難しいものではなく、ポイントは制御の介入のあんばいにある。ドライバーに介入を悟られないよう、できるだけ自然に旋回させるべく角度やタイミングを緻密に制御する必要があり、メルセデスよりも早くから後輪操舵を積極的に採用してきたBMWはいまやすっかり自分たちのものにしている。セダンと比べてもほとんど変わらない操縦性をワゴンボディーでも成立させていて、ワインディングロードでも気持ちよく右に左に向きを変えることができた。強いて言えば、セダンよりも70kg重くなった質量は感じるものの、重ったるいというよりは重厚感のような乗り心地の質感向上にひと役買っていた。

市場のニッチな声にも耳を傾けて商品化するBMWの企業姿勢には大いに共感する。いっぽうで、新型のツーリングにはひとつだけ、ニッチな声が反映されなかった部分があった。それがガラスハッチである。荷物の出し入れをする際に、開けても全長を超えないガラスハッチは、駐車スペースによっては大変重宝した。5mを超えた全長になってしまったいまこそ、その利便性が際立ったのではないかと個人的には思っている。

(文=渡辺慎太郎/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

後輪操舵のインテグレイテッドアクティブステアリングはアクティブサスペンションなどとセットの「コンフォートドライビングパック」に含まれている。
後輪操舵のインテグレイテッドアクティブステアリングはアクティブサスペンションなどとセットの「コンフォートドライビングパック」に含まれている。拡大
荷室の容量はゆとりの570リッターを誇る。歴代モデルに搭載されてきたガラス部分だけを開けられる機構がなくなったのがちょっと残念。
荷室の容量はゆとりの570リッターを誇る。歴代モデルに搭載されてきたガラス部分だけを開けられる機構がなくなったのがちょっと残念。拡大
後席の背もたれを全部倒した場合の荷室容量は1700リッター。床から天井までの高さは415mmが確保されており、単身者であれば引っ越しにも使えそうだ。
後席の背もたれを全部倒した場合の荷室容量は1700リッター。床から天井までの高さは415mmが確保されており、単身者であれば引っ越しにも使えそうだ。拡大
荷室の床下にはドッグネットやトノカバーなどが固定して収納できる。床板がダンパーで固定できるようになっているところなど、まるで日本車のようだ。
荷室の床下にはドッグネットやトノカバーなどが固定して収納できる。床板がダンパーで固定できるようになっているところなど、まるで日本車のようだ。拡大

テスト車のデータ

BMW 523d xDriveツーリングMスポーツ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5060×1900×1515mm
ホイールベース:2995mm
車重:1940kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:197PS(145kW)/4000rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1500-2750rpm
モーター最高出力:7PS(5kW)/6000rpm
モーター最大トルク:25N・m(2.5kgf・m)/500rpm
タイヤ:(前)245/45R19 102Y XL/(後)245/45R19 102Y XL(ピレリPゼロ)
燃費:15.7km/リッター(WLTCモード)
価格:960万円/テスト車=1090万4000円
オプション装備:ボディーカラー<ケープヨークグリーン>(0円)/BMWインディビジュアルレザーメリノ<シルバーストーンII×アトラスグレー>(0円)/エクスクルーシブメリノレザーパッケージ(36万2000円)/セレクトパッケージ(30万4000円)/コンフォートドライビングパッケージ(33万9000円)/Mスポーツパッケージ(0円)/ステアリングホイールヒーティング(4万4000円)/Mスポーツパッケージプロ(14万6000円)/Bowers & Wilkinsサラウンドサウンドシステム(10万9000円)

テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:3106km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:343.7km
使用燃料:27.3リッター(軽油)
参考燃費:12.6km/リッター(満タン法)/13.8km/リッター(車載燃費計計測値)

BMW 523d xDriveツーリングMスポーツ
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