米国に130億ドルの巨額投資! 苦境に立つステランティスはこれで再起するのか?
2025.10.31 デイリーコラム北米での不振は今に始まった話ではない
2025年10月14日、ステランティスが新たな米国市場への投資計画を発表した。今後4年間で総額130億ドル(約2兆円)を投資し、50%の生産能力向上、5車種の新型車の製造開始、新しい4気筒エンジンの開発、2029年までのパワートレインの刷新を目指すとしている。
すでに報じられているとおり、ステランティスは過去最高の売り上げ・利益を記録した2023年から一転、昨今は深刻な経営不振に陥っている。特に北米では、ラインナップの一斉廃止により、2024年には売り上げが634億5000万ユーロ(前年比-27%)、営業利益が26億6000万ユーロ(-80%)に激減。欧州を超える売り上げ・利益を稼いできた生命線で、窮地に陥った。
ステランティスの新CEOで、北米COOも兼任するアントニオ・フィローザ氏は、今回の投資計画について、「当社史上最大の規模」「今後の100年を見据え、お客さまを中心に据えた戦略を展開し、より多様な車種、より幅広い選択肢を提供する」と胸を張る。しかし、近年のクライスラーやダッジ、ラムのありさまを知る御仁は皆、「いまさらですかい?」とはなじろんでいることだろう。
一応説明すると、ステランティスは米・欧14のブランドを擁する巨大自動車グループである。発足は2021年で、北米ではクライスラー、ダッジ、ラム、ジープの4ブランドに加え、イタリア系のフィアットやアルファ・ロメオも展開している。
そんなステランティスだが、上述のとおり北米での業績は芳しくない……というか非常に悪い。加えて言うと、かの地での不振は今に始まったものでもない。例えば米国での販売台数を見ると、コロナ禍のどん底と機を同じくしてのグループ発足だったというのに、前年比増となったことは一度もナシ。2024年の年間販売台数は-15%の130万3570台で、FCA時代の最盛期(2016年に224万4357台)より、100万台近くも数を減らした格好となる。
2025年の販売台数を見ても、第1四半期が前年比-12%(29万3225台)、第2四半期が同-10%(30万9976台)と低調。第3四半期こそ同+6%(32万4825台)に転じたものの、第4四半期に打者一巡の猛攻でもなければ、同年も前年比減で終わる可能性が高い。
ディーラー協会も堪忍袋の緒が切れた
商品構成も致命的だ。高級ブランド、クライスラーのラインナップは、今やミニバンの「パシフィカ/ボイジャー」のみ。しかもこれらは姉妹車なので、実質1車種というありさまだ。ダッジも「チャージャー」と「デュランゴ」「ホーネット」の3車種だけで、うちホーネットは「アルファ・ロメオ・トナーレ」のOEM車。トラックブランドのラムにしても、ラインナップはフルサイズピックアップの「ラム」と、「フィアット・デュカト」のOEM車「プロマスター」だけで、ミドルサイズのトラックはナシ……といった具合だ。往年の陣容を知る身からすると、本当に涙が出てくる。唯一、ジープのみ6車種(ロングボディーなどの派生車種は、個別にカウントしない)と気合が入っているが、それでも屋台骨や大黒柱と表するには程遠い。
加えて各商品の陳腐化も気になるところで、クライスラーの現行パシフィカ/ボイジャーが今年でデビューから満9年、現行ダッジ・デュランゴが間もなく満15年といったご長寿っぷりだ。こうした商品群のありさまを見ると、むしろ「よく今まで持ちこたえてきたな」というのが率直な感想である。先の見えぬトンネルを耐えているディーラーや工場関係者の苦悩を思うと、涙を禁じ得ない。
……と思ったら、やっぱりディーラーは堪忍袋の緒が切れたようだ。2024年9月、ステランティスの全米ディーラー協会(Stellantis National Dealer Council)が、経営陣の責任を糾弾する公開書簡をカルロス・タバレスCEO(当時)に送ったのだ。その中身は、協会の警告を無視した短期利益の追求により、米国のブランド、ディーラー、生産拠点が看過できないダメージを被ったことを指摘したものだった。書簡では「あなたの謝罪も退任も求めない」としつつも、「この問題を起こしたのはあなた自身であり、今すぐ正しい行動を起こすよう強く求める」とつづられている。
これに対し、ステランティスは即座に反発。同年8月には販売台数が前月比で21%増え、ディーラー在庫も2カ月で4万2000台削減していると言い返した。しかし、2024年の通期、ならびに2025年上半期の米国販売台数は先に述べたとおりである。素直に「ごめんなさい」と謝っていたほうが、よっぽど建設的だったろう。
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カギを握るのはあのブランド?
この書簡スキャンダルののち、2024年12月にはタバレスCEOが任期満了を待たずに退任。後任のフィローザ氏は、ジープブランドのCEOや北米市場のCOOを務めてきた米国通であり(後者は現在も兼任)、その使命は明々白々だろう。今回発表された巨額投資については、第2期トランプ政権の関税措置に対応したもの、ととらえる向きもあるが、実際には、創立以来の北米軽視のツケがまわってきて、経営陣が青ざめた結果……と考えるほうが、事実に即していると思う。
いずれにせよ、ようやく、本当にようやく米国での立て直しに乗り出したステランティスだが、やはり冒頭で述べたとおり、ちょっと遅すぎた感は否めない。販売回復にはラインナップの強化が必須だが、プレスリリースの続きを見ると、新型ミドルサイズピックアップトラックの生産開始は2028年、レンジエクステンダー付き電気自動車と内燃機関車を擁する新しい大型SUVも、同じく2028年、先述したご長寿モデル、デュランゴの新型は2029年となっている。商品構成の立て直しには、数年の時間を要する気配だ。
そもそも、ジープを除いて長らく放置されてきた商品群や、V8エンジンの廃止・再設定に関する朝令暮改っぷりを見ると、現地にまともなマーケットリサーチや商品企画の体制が残っているのかも、ちょっとアヤシイ。「お金はあるけど、組織と人がね……」というのは、かつて再生の途上にあった某国産メーカーの関係者が漏らした弁だ。同じことが、今日のオーバーンヒルズにも言えそうな気がする。
このように、正直不安がぬぐえない米国でのステランティスの再生計画だが、もちろんいちアメリカ車好きとしては、その成功に期待せずにはいられない。カギを握るのは、ジープ、ラムと並ぶ柱の再建だろう。ブランド別の販売台数を見ると、ジープが約59万台、ラムが約44万台なのに対し、大衆車ブランドたるダッジが約14万台しか売れていない。既述のラインナップを思えば当然といえば当然だが、だからこそ、テコ入れによる伸びしろは大きいと思うのだ。個人的には、映画やモータースポーツでの活躍、長期にわたるパトカーへの採用などで、(多少は)覚えのめでたいダッジの再生に可能性を見いだしているのだが……いかがであろう? フィローザさん。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=ステランティス/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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