クルマ好きなら毎日みてる webCG 新車情報・新型情報・カーグラフィック

ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)

かけがえのない場所 2025.11.11 試乗記 渡辺 敏史 ボルボの小型電気自動車(BEV)「EX30」にファン待望の「クロスカントリー」が登場。車高を上げてSUVっぽいデザインにという手法自体はおなじみながら、小さなボディーに大パワーを秘めているのがBEVならではのポイントといえるだろう。果たしてその乗り味は?
【webCG】クルマを高く手軽に売りたいですか? 車一括査定サービスのおすすめランキングを紹介!

北欧ならではの勘どころ

その昔、わが家にしばしサーブがいたことがある。ゼネラルモーターズと提携後の最初につくられたその「9-3」は、当時の「オペル・ベクトラ」と共通のアーキテクチャーではあったものの、ふんわりしゃなりと路面をなでるように捉える乗り味が、過酷な自然環境での御しやすさにつながっているんだろうなと、かの地への妄想が膨らんだ。そういえば空調の吹き出し口ひとつとっても、凸凹を設けてそこに風を当てることにより、冷暖房が間接照明のようにふんわりと室内を包みこんでくれるのに感心させられたこともある。

言葉にすればコージーとかチルなどという形容になるのか、そういうほっこり感は北欧のクリエーションにおいての核たるところに据えられているのだろう。逆にいえばどんなに優れた技巧であっても、人当たりが悪いものはよしとされない。その昔、欧州の空港に降り立てばノキアの携帯電話の柔らかな着信音に旅情をくすぐられたものだが「ノキアチューン」と呼ばれるそれが実装されたのは、日本の携帯電話が街角でピピピと殺風景な音を鳴らしていた1994年のことだったという。

ボルボもまたプロダクトにご当地ならではのアイデンティティーを明確に織り込んできたメーカーだ。手袋をはめていても使える大ぶりなボタンやノブ……というのは昔からのクルマ好きには有名だろう。昨今はさすがにそうはいかないが、そのぶん内装の色やオーナメントの素材などに、ナチュラルやオーガニックといった今日的なテーマを意識したものを多用している。そうやって、華やぎよりも安らぎを揺るぎない個性としてみせる術(すべ)には感心するばかりだ。それこそ北欧の風土が育んだセンスということなのだろう。

「ボルボEX30クロスカントリー」が国内で発売されたのは2025年8月21日のこと。EX30のマイナーチェンジのタイミングでラインナップに追加された。
「ボルボEX30クロスカントリー」が国内で発売されたのは2025年8月21日のこと。EX30のマイナーチェンジのタイミングでラインナップに追加された。拡大
フロントマスクの大部分は樹脂パネルでカバーされる。バットマンのようでカッコいい。
フロントマスクの大部分は樹脂パネルでカバーされる。バットマンのようでカッコいい。拡大
ブラックのパネルに近寄ってみる。スウェーデン北部、北極圏にあるケブネカイセ山脈の地形図にインスピレーションを得たというグラフィックが刻まれている。
ブラックのパネルに近寄ってみる。スウェーデン北部、北極圏にあるケブネカイセ山脈の地形図にインスピレーションを得たというグラフィックが刻まれている。拡大
左右のリアコンビランプ間にもブラックの大型パネルを装備。黒地に銀の「VOLVO」ロゴがクラシカルな雰囲気だ。
左右のリアコンビランプ間にもブラックの大型パネルを装備。黒地に銀の「VOLVO」ロゴがクラシカルな雰囲気だ。拡大
ボルボ の中古車webCG中古車検索

最低地上高も20mm拡大

これがBEV専用車ともなると、サステイナブルというキーワードがメカニズムにも行き渡る。ハーネス類の削減や銅使用量の軽減を図るべく、ドアのスイッチ類やスピーカーなどを車内側に集約する……などと聞くと、それはコスト削減のためだろうとツッコみたくなるのは僕も同じだ。が、仮にビンゴだったとしても、北欧組としてそれを美化・正当化する背景と技巧にたけていることは間違いない。「センチュリー」のブランド化ではないが、欧米が抱くオリエンタリズムを日本が逆手に取るうえで、ボルボの表現方法というのは参考にできるところがあると思う。

と、そんなこんなのEX30に、初めてのマイナーチェンジが加わった。といっても、意匠面での変化は無に等しく、バッテリーを三元系ではなくLFPに置き換えて479万円の価格を実現したグレードを加える一方で、ツインモーターのAWD仕様をベースにオフロードでの適性を高めたクロスカントリーがシリーズ初のグレードとして追加されている。ノーズやテールのガーニッシュ、フェンダーアーチなどをブラックアウトした外観はほどよくラギッドだが、中身的なところではサスまわりもキャラクターに合わせて再チューニングされており、最低地上高も20mm高い195mmとなっている。その違いが動的にどのような差をもたらしているのかも興味深いところだ。

そもそもトリム表皮やフロアマットにリサイクル材を用いるなどしてアニマルフリー化を図りつつ、ライフサイクルアセスメントでのCO2排出量もボルボ車で最も少ないとされてきたEX30だが、自然に溶け込むことを趣旨とするクロスカントリーは当然ながらその流れを継承している。再生ポリエステルを70%用いるざっくりした風合いのファブリックを主役としながら汚れやすいところには掃除しやすいビーガンレザーをあしらったシートの柔らかい掛け心地は、まんまとカタにハメられていると知りながらも、ついスカンジナビア的な癒やしを感じてしまうことだろう。

最低地上高は「EX30」よりも20mm高い195mm。ただ上げただけでなく、ダンパーやスタビ&バネレートにまで手が入っている。
最低地上高は「EX30」よりも20mm高い195mm。ただ上げただけでなく、ダンパーやスタビ&バネレートにまで手が入っている。拡大
インテリアカラーはスカンジナビアの常緑林にインスパイアされたという「パイン(松)」のみの設定。目につくところにボタンなどのスイッチはほとんど見当たらない。
インテリアカラーはスカンジナビアの常緑林にインスパイアされたという「パイン(松)」のみの設定。目につくところにボタンなどのスイッチはほとんど見当たらない。拡大
シート表皮はウール(30%)と再生ポリエステル(70%)を使ったファブリックと、リサイクル素材とバイオ由来素材をブレンドした合皮の組み合わせ。色合いのよさもボルボならではだ。
シート表皮はウール(30%)と再生ポリエステル(70%)を使ったファブリックと、リサイクル素材とバイオ由来素材をブレンドした合皮の組み合わせ。色合いのよさもボルボならではだ。拡大
後席の広さはボディーサイズなりというところ。大人が乗っても特に不満のない空間だ。
後席の広さはボディーサイズなりというところ。大人が乗っても特に不満のない空間だ。拡大

サイズはBセグでも加速はスーパースポーツ

おそらくはテスラの影響も受けただろう、縦型液晶パネルの中にあらかたの操作系を詰め込んだインターフェイスは意匠性とコストのバランスという点では理解できるが、操作しやすさという点では疑問が残る。自分仕様に設定が定まれば気にならないのかもしれないが一見さんにはなんとも厳しい。人への優しさが売りのボルボにあって、この点ばかりは再考願いたいと思うのは、高齢者の多い日本市場のオッさんだけだろうか。

ベースとなるEX30の「ツインモーター」と同じアウトプットを有するがゆえ、クロスカントリーの動力性能はハンパではない、最高速は180km/hだが0-100km/h加速は3.7秒と、スーパースポーツの域に迫っている。EX30全般にいえることだが、Bセグメント級の車格だし……とナメてかかると食らいついて離れないカミツキガメのような猛加速の持ち主ゆえ、見かけても用心するに越したことはない。

と、それが果たしてオフロード側に寄せた足まわりとどのように同調しているのかというのがこのクルマの最大のポイントとなるわけだが、こちらの心配をよそに、乗り味はぐっとソフトに振れていた。チューニングは前後バネレートやリアのスタビレート、ダンパーにまでおよび、電動パワーステアリングもそれに合わせてパラメーターを調整しているという。結果、得られたほっこりな乗り心地はオッさん的には大歓迎だが、果たしてこれで爆速を受け止めることができるのだろうか。

モーターの最高出力はフロントが156PSでリアが272PS。0-100km/h加速のタイムは3.7秒を誇る。
モーターの最高出力はフロントが156PSでリアが272PS。0-100km/h加速のタイムは3.7秒を誇る。拡大
センターコンソールは前後に長いトレイのような形状。床板を左右にはね上げると……
センターコンソールは前後に長いトレイのような形状。床板を左右にはね上げると……拡大
2つのUSBタイプCポートが姿を現す。床板にはケーブルホールが備わっているのでスマートに取り回せる。
2つのUSBタイプCポートが姿を現す。床板にはケーブルホールが備わっているのでスマートに取り回せる。拡大
ウィンドウオープナーはセンターアームレストの前端にある。カップホルダーはアームレスト内に格納されており、押し込むと飛び出してくる仕掛けだ。
ウィンドウオープナーはセンターアームレストの前端にある。カップホルダーはアームレスト内に格納されており、押し込むと飛び出してくる仕掛けだ。拡大

過ごす時間がより濃密に

ころ合いを見計らってドンと加速してみると、さすがに前後のピッチングは大きい。テールがぐっと沈み込んでノーズが持ち上がる姿勢の変化は乗り手にも伝わってくる。が、前輪の接地感はしっかり確保されていて想像以上に危うさは感じなかった。減速時や旋回時の姿勢変化はベースモデルよりひと回り大きいが、駆動力がしっかり路面に伝わっている実感があるぶん、アクセルを踏むにも安心感がある。さすがに高重心のため、コーナーの立ち上がりなどで舵角が入ればトルクステアやプッシュアンダーの兆候も早めに表れるが、そもそもクローズドコースや山坂道をギチギチに走り込むような銘柄じゃないし……と割り切れる大人なら問題はないだろう。

後席も普通に使えるものの、パッケージ的には大人2人の生活にゆとりをもって応える。EX30はそんなクルマだと思う。そこにクロスカントリーというアクセントが加わることで、過ごす時間がより豊かになる。向き合う側もそういう邪念のないスタンスでいられるなら、ボルボというブランドはほかに代わりのない居心地のいいところとなるはずだ。

(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝/車両協力=ボルボ・カー・ジャパン)

駆動用バッテリーの総電力量は69kWhでWLTCモードの一充電走行距離は500km。今回の試乗を通じての電費は5.4km/kWhと、コンパクトカーとしてはソコソコ、大パワー車としては優秀な数値だった。
駆動用バッテリーの総電力量は69kWhでWLTCモードの一充電走行距離は500km。今回の試乗を通じての電費は5.4km/kWhと、コンパクトカーとしてはソコソコ、大パワー車としては優秀な数値だった。拡大
大きな縦型センターディスプレイは各種セッティングをつかさどるだけでなく、メーターパネルも兼ねる。ナビゲーションやボイスアシスタントにはGoogleのシステムを使っている。
大きな縦型センターディスプレイは各種セッティングをつかさどるだけでなく、メーターパネルも兼ねる。ナビゲーションやボイスアシスタントにはGoogleのシステムを使っている。拡大
アンビエントライトのカラーリングは色ではなく、イメージでチョイスする。これは「アーキペラゴ(群島)」と呼ばれるモードで、ほかに「オーロラ」等もある。
アンビエントライトのカラーリングは色ではなく、イメージでチョイスする。これは「アーキペラゴ(群島)」と呼ばれるモードで、ほかに「オーロラ」等もある。拡大
荷室の容量は318リッター。ボンネットの下にも普通充電ケーブルなどを収納できるスペースが備わっている。
荷室の容量は318リッター。ボンネットの下にも普通充電ケーブルなどを収納できるスペースが備わっている。拡大

テスト車のデータ

ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4235×1850×1565mm
ホイールベース:2650mm
車重:1880kg
駆動方式:4WD
モーター:永久磁石同期電動機
フロントモーター最高出力:156PS(115kW)/6000-6500rpm
フロントモーター最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/5000rpm
リアモーター最高出力:272PS(200kW)/6500-8000rpm
リアモーター最大トルク:343N・m(35.0kgf・m)/5345rpm
タイヤ:(前)235/50R19 99V/(後)235/50R19 99V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンスSUV)
一充電走行距離:500km(WLTCモード)
交流電力量消費率:161Wh/km(WLTCモード)
価格:649万円/テスト車=671万2750円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ボルボ・ドライブレコーダー<スタンダード>(17万3250円)/UV&IRカットフィルム(4万9500円)

テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:2557km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:295.9km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.4km/kWh(車載電費計計測値)

ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス拡大
 
ボルボEX30クロスカントリー ウルトラ ツインモーター パフォーマンス(4WD)【試乗記】の画像拡大
渡辺 敏史

渡辺 敏史

自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。

試乗記の新着記事
  • トヨタ・アクアZ(FF/CVT)【試乗記】 2025.12.6 マイナーチェンジした「トヨタ・アクア」はフロントデザインがガラリと変わり、“小さなプリウス風”に生まれ変わった。機能や装備面も強化され、まさにトヨタらしいかゆいところに手が届く進化を遂げている。最上級グレード「Z」の仕上がりをリポートする。
  • 日産エクストレイルNISMOアドバンストパッケージe-4ORCE(4WD)【試乗記】 2025.12.3 「日産エクストレイル」に追加設定された「NISMO」は、専用のアイテムでコーディネートしたスポーティーな内外装と、レース由来の技術を用いて磨きをかけたホットな走りがセリングポイント。モータースポーツ直系ブランドが手がけた走りの印象を報告する。
  • アウディA6アバントe-tronパフォーマンス(RWD)【試乗記】 2025.12.2 「アウディA6アバントe-tron」は最新の電気自動車専用プラットフォームに大容量の駆動用バッテリーを搭載し、700km超の航続可能距離をうたう新時代のステーションワゴンだ。300km余りをドライブし、最新の充電設備を利用した印象をリポートする。
  • ドゥカティXディアベルV4(6MT)【レビュー】 2025.12.1 ドゥカティから新型クルーザー「XディアベルV4」が登場。スーパースポーツ由来のV4エンジンを得たボローニャの“悪魔(DIAVEL)”は、いかなるマシンに仕上がっているのか? スポーティーで優雅でフレンドリーな、多面的な魅力をリポートする。
  • ランボルギーニ・テメラリオ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.11.29 「ランボルギーニ・テメラリオ」に試乗。建て付けとしては「ウラカン」の後継ということになるが、アクセルを踏み込んでみれば、そういう枠組みを大きく超えた存在であることが即座に分かる。ランボルギーニが切り開いた未来は、これまで誰も見たことのない世界だ。
試乗記の記事をもっとみる
ボルボ の中古車webCG中古車検索
関連キーワード
関連サービス(価格.com)
新着記事
新着記事をもっとみる
車買取・中古車査定 - 価格.com

メルマガでしか読めないコラムや更新情報、次週の予告などを受け取る。

ご登録いただいた情報は、メールマガジン配信のほか、『webCG』のサービス向上やプロモーション活動などに使い、その他の利用は行いません。

ご登録ありがとうございました。

webCGの最新記事の通知を受け取りませんか?

詳しくはこちら

表示されたお知らせの「許可」または「はい」ボタンを押してください。