テスラ・ロードスター2.0 Sport(MR/1AT)【試乗記】
忍び足の未来 2010.09.17 試乗記 テスラ・ロードスター2.0 Sport(MR/1AT)……1481万5500円
日本での販売が始まった、電気自動車「テスラ・ロードスター」。
加速でポルシェを負かすというエコカーは、乗ったらどんな印象なのか? ミニサーキットで試した。
重々しさがひそむ
「テスラ・ロードスター」が「ロータス・エリーゼ」に似ているからといって、小気味よく機敏な走りを想像すると、ちょっと裏切られる。テスラモーターズの2シーターは、そもそも純然たる電気自動車(EV)だから当たり前だけれど、よくも悪くもEVに一般的なドライブフィールをもつ。至極スムーズな、けれども実際の動力性能とはうらはらにどこか重たい加速感。フラットななかに「重々しさ」がひそむ乗り心地。内外の、エリーゼとの類似性にだまされてテストコースのタイトなコーナーに突っ込むと、意外な重量と大きなボディロールゆえテスラはカーブの外側にふくらんで、アンダーステアを出した運転者はちょっぴり恥ずかしい。
テスラ・ロードスターは、エリーゼ同様、アルミ押し出し材を接着して構成された骨組みをもつミドシップカーである。サスペンション形式もエリーゼと同じ4輪ダブルウィッシュボーン。50mm長い2350mmのホイールベースには、軽量化のため、ぜいたくにもカーボンファイバーを多用したボディが載せられる。それでも車重は、エリーゼの約1.5倍にあたる1270kg(車検証記載値)。
キャビン後方には、コントローラー、DC-AC変換器、充電器、ACモーター(292ps/215kW)、そしてバッテリーパックが搭載される。ノートパソコンなどに使われる汎用のリチウムイオン電池を6831個も束ねたもので、総容量53kWh、重さは450kgに達する。エリーゼからの重量増加分は、ほぼバッテリーが占めるわけだ。ひきかえに得た航続距離は394km。東京から仙台、新潟、名古屋あたりまで行けるというのが、テスラモーターズの主張である。あくまで机上の地図でのハナシだが。
充電は、200Vの専用高速充電機を用いれば、3.5時間ほどで済むという。この専用充電機は19万5000円のオプション。もちろん、家庭の電源工事費用はオーナーもちだ。
新たな価値観
2010年夏、テスラ・ロードスターの日本での販売が開始された。本邦に最初に入れられるのは「2.0」と称されるモデル。いわばロードスターのバージョン2.0で、準備される台数は、わずか12台だという。グレードは「Base」(1270万円)と「Sport」(1480万円)に大別され、モーター出力が前者は370Nm(37.7kgm)、後者が400Nm(40.8kgm)となる。さらにSportのオプションフル装備版といった「Signature Sport」があり、保証が3年または6万kmまで延長され、7年後にはバッテリーを交換してもらえる。価格は1640万円。
今回の試乗車は、Sport。軽いドアを開けて運転席にペタンと座る。エリーゼの簡素な室内をテスラも引き継いでいて、テスラのそれはレザー仕様とはいえ、1000万円超のクルマとしてはあまりに素っ気ない。右手のセンターコンソールを眺めながら「せっかくシフトレバーを廃してボタンにしたのだから、もっとポップな感じにすれば……」と勝手な感想を抱くが、もちろんこのクルマの真価はそんなところにはない。
ハンドルの向こうの2連メーターは、向かって左がスピード、右が電気の瞬間使用/回収量を表す。おもしろいのは、速度表示の内側にモーターの回転数が書いてあること。テスラはシングルギアなので、モーターの回転数がそのまま速度と連動するのだ。「D」ボタンを押してサイドブレーキを下ろせば、あとはアクセルとブレーキペダルを使い分けるだけの、遊園地のカートと変わらない。高価で、楽しい電動カートだ。
ハンドルを握るドライバーが、テスラにスポーツカーを感じたくなったときは? 静止状態から迷うことなくアクセルペダルを踏みこめばいい。文字通り血の気が引くスタートダッシュを、胸のなかをギュッと握られるような感覚とともに披露してくれる。0-100km/h=3.7秒、0-400m=12.6秒というカタログデータが掛け値なしならば、油断した「ポルシェ911」を忍び足で抜き去ることも可能だ。電気自動車は静かなのだ。エンジンや排気音で祝祭的に気分を盛り上げてくれる内燃機関車と異なり、テスラ・ロードスターの場合、無機質に高まるモーター音と散文的なロードノイズ、そしてかすかな風切り音が、運転者のプライドの素である。
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アメリカの底力
ごく短い試乗時間中、テスラ・ロードスターにもっとも「21世紀」を感じたのは、センターコンソールの液晶画面だった。タッチスクリーンになったそれは、指先でタップするたび、カン、カン、カンと擬似的な金属音を発して表示を変えていく。
「Tires」「Service Info」「Energy Use History」などと遷移していくうち、「In Memory Of」という不思議な画面が現れた。ダグ、ブライアン、アンドリューと、3名の名前が並んでいる。「テスラ・ロードスターの開発中に飛行機事故で亡くなったエンジニアを悼んで」と広報の方が教えてくれた。いかにも若い、規模の小さな会社ならでは、だろう。
テスラ社は、2003年にシリコンバレーの技術者たちによって設立され、PayPal、Google、eBayといったそうそうたる先進企業の重鎮たちが、経営に参加、投資して話題になった。デトロイトの3メーカーは、すっかり昔日の輝きを失ってしまったけれど、まったく新しい分野から次世代のクルマを探る動きが出てくるのがアメリカの底力、そんな感想をもったクルマ好きも多かったのではないだろうか。
とはいえ、テスラ社の経営は順風満帆ではなく、2008年に登場したロードスターは、世界25カ国で1000台以上を販売したものの、会社の黒字化は果たせず、続くセダンタイプ「モデルS」のリリースも危ぶまれていた。そんななか、2010年、新たにトヨタが提携を申し出た。圧倒的に強いハイブリッドシステムに続き、電気自動車の分野でも存在感を示したいのだ。近い将来、カリフォルニアはNUMMIの工場を使ってテスラ車の生産をするというニュースは、時代の移り変わりを表して余りある。同工場は、20世紀には「GM-トヨタ」協調のシンボルだったのだから。
(文=青木禎之/写真=D.A.)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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