BMW iX3 50 xDrive Mスポーツ(4WD)

一世一代の大勝負 2025.12.12 試乗記 渡辺 敏史 「ノイエクラッセ」とはBMWの変革を示す旗印である。その第1弾である新型「iX3」からは、内外装の新しさとともに、乗り味やドライバビリティーさえも刷新しようとしていることが伝わってくる。スペインでドライブした第一報をお届けする。
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BMWにとっての大名跡

第2次世界大戦前は「328」に代表される高性能車が多数輩出しながらも、戦後復興の波に乗り遅れたBMWが、四輪車メーカーとしてようやくその足がかりをつかんだのは、1950年代後半の「700」シリーズだったという。「フィアット600」や「ルノー・ドーフィン」といった当時の大衆車と同様のRRレイアウトでつくられたミケロッティデザインの軽便なサルーンで、このヒットがあるクルマの開発の追い風となったわけだ。

と、その2年後に生まれたのが「1500」シリーズである。当時の大衆車としては若干大きめな車格と排気量からも伝わるとおり、上か下かの選択肢しかなかった乗用車に「中」の価値軸を提唱した1500は、当時先進的なOHCの4気筒エンジンを縦積みしたFRレイアウトで、エンジニアリング的にも従前のBMWとは一線を画していた。デザイン面ではアウトラインはミケロッティながら、随所にインハウスのヴィルヘルム・ホフマイスターが関与し、この代から復活した「キドニーグリル」やCピラーの「ホフマイスターキンク」など、現在にもつながるディテールが盛り込まれている。

BMWはこの1500シリーズで四輪市場での存在感を再び確かなものとし、排気量やバリエーションを拡大しながら1972年まで販売を継続した。その過程では後の「5シリーズ」や「6シリーズ」につながるモデルも登場している。1500シリーズ自体は最終的に「3シリーズ」の源流に収束することになるわけだが、この一連の体験は「ノイエクラッセ」、つまり新しいクラスの構築と成功として、社内でもシンボリックなものとされているようだ。

ちょっと長い前説となったのは、このiX3を皮切りとしたBMWの大変革を自らノイエクラッセと称する背景に、彼ら自身のこういう過去があるということを知っていただきたかったからだ。自分が知る限り、彼らがここまでガチの総力戦を仕掛けるという展開に記憶はない。その規模は世界の自動車デザインの地殻を揺るがしたクリス・バングルの猛攻も、原材料やサプライチェーン、生産技術にも踏み込んでの高効率化を掲げた「i」ブランドの展開もおよばないと思う。BMWにとっても半世紀かそれ以上に一度という大勝負。その意気込みは機会あるごとに端から眺めていてもじわじわと伝わってきた。

iX3のプラットフォームはゼロスタートで開発された新規モノで「Gen6」、すなわち第6世代と命名されている。ちなみにその文脈に沿えば、2008年にリース専用として投入された「MINI E」がGen1に位置づけられており、2013年に発売された「i3」はGen3、直近ではCLARプラットフォームをベースとした「i4」に代表されるBEVがGen5ということだ。

ドイツ国際モーターショーでのお披露目前は「ノイエクラッセX」と呼称されていた新型「BMW iX3」。この後には「ノイエクラッセ」=新型「i3」のデビューも控えている。
ドイツ国際モーターショーでのお披露目前は「ノイエクラッセX」と呼称されていた新型「BMW iX3」。この後には「ノイエクラッセ」=新型「i3」のデビューも控えている。拡大
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4782×1895×1635mmで、ホイールベースは2897mm。全長と全幅は先代モデルとほとんど同じながら、全高は35mmも低下。SUVとしては極めて良好な0.24のCd値を実現している。
ボディーサイズは全長×全幅×全高=4782×1895×1635mmで、ホイールベースは2897mm。全長と全幅は先代モデルとほとんど同じながら、全高は35mmも低下。SUVとしては極めて良好な0.24のCd値を実現している。拡大
BMWによるところの第6世代の電動車用プラットフォームを新規開発して採用。800Vの電気システムを使っている。
BMWによるところの第6世代の電動車用プラットフォームを新規開発して採用。800Vの電気システムを使っている。拡大
フロントマスクはほかのどのクルマにも似ておらず、新しさを存分に感じさせる。中央に寄った縦長のキドニーグリル(プレート)は「ノイエクラッセ」こと「BMW 1500」がモチーフだ。
フロントマスクはほかのどのクルマにも似ておらず、新しさを存分に感じさせる。中央に寄った縦長のキドニーグリル(プレート)は「ノイエクラッセ」こと「BMW 1500」がモチーフだ。拡大