イタリアの跳ね馬はiPhoneになる!? フェラーリはなぜ初BEVのデザインを“社外の組織”に任せたか?
2026.02.16 デイリーコラム衝撃のコラボレーション
2025年10月、マラネッロは今後のビジネス戦略を語る重要な日に大きな発表を行った。ブランド初となるフルバッテリー駆動電動モデル(BEV)の、パワートレインを含む主要コンポーネンツを公開したのだ(関連記事)。
4シーターで4ドア、そして4モーターのBEV。ホイールベース3mというからマラネッロのポートフォリオにあってかつての「GTC4ルッソ」や現行型の「プロサングエ」と同じ位置づけ。けれどもドライビングスリルとユーザビリティーで過去の4シーターカーを上回っているという。電気自動車をつくったのではなく、電気フェラーリを生み出した。それが彼らの主張だ。
なるほど、総出力1000PS以上(ブーストモード)、車重2.3t、0-100km/h加速2.5秒、航続レンジ530km以上、最高速310km/h、というスペックを見ればそのパフォーマンスには大いに期待できそうだ。
その際、もう一つ重要なアナウンスがあった。それは跳ね馬初のBEVのデザインにおいて外部組織とコラボレーションするというもの。そう、昔のピニンファリーナのように。コラボの相手はLoveFrom(ラブフロム)。アップルの元デザイン最高責任者と元上級副社長が19年に設立したクリエイティブカンパニーである。サー・ジョニー・アイブとマーク・ニューソンといえば、現代の工業デザインかいわいにおいて最も名の通った2人だろう。そしてインテリアに関しては2026年2月に公開する、とも……。
マラネッロからその約束を果たす案内がきたのは正月明けのことだった。サンフランシスコで見せるという。なるほどサンフランシスコはラブフロムの本拠地である。メディアへの披露は、かの地のランドマークとして有名なトランスアメリカ・ピラミッドで行われた。ラブフロムのスタジオも徒歩圏内だ。
見晴らしのいい27階のミーティングルーム。20人ほどのメディアが車座になった。対するプレゼンターは5人。ラブフロムからの上記2人はもちろん、フェラーリ側からはジョン・エルカン会長にベネデット・ヴィーニャ社長、そしてもちろんチェントロスティーレのフラビオ・マンツォーニである。臨席するほうがかえって緊張しそうな顔ぶれだ。
スマホ化からの原点回帰
まずはジョンが車名を発表した。「ルーチェ」。「おいおい、マツダじゃないか」という日本人としての反応はともかく、ある意味、電気自動車らしい名前だし、新たな分野で先を照らす存在という意味にもとれる。
ラブフロムとのコラボはジョンからの提案だった。ベネディットは最初その名を聞いたときピンとこなかったらしいが、ジョニーとマークの会社と聞いて納得したらしい。いつもとは違ってベースボールキャップにスタジアムジャンパーというカジュアルないでたちで現れたフラビオはあとでこっそり私にこう言った。
「『SF90』以降のインテリアは、デザインはともかく、操作性に問題があった。故マルキオンネ主導で開発が進んだもので、とにかく、すべてに新しく先進的に見せる必要があったんだ」
ジョニーは「スマホとクルマとでは何を操作するにしても使い方がまるで違う。クルマは運転しながらいろんなことを行わなければならない。スマホは一つの画面でタイプからシャッターまでいろんなことができなければいけないけれど、クルマにはドライブ中に操作するにあたって適切な場所と方法があった。だからタッチパネル式は避けなければならないと思った」と、クルマ運転好きが常々主張してきたことを当たり前に言う。
Apple Watchを手がけたマークはクルマ好きだ。クラシックカーもよくたしなんでミッレミリアにもずっと出場していた。かつては東京で活動したこともあり、イギリスに移ってからはフォードのコンセプトカーを描いたこともある。
そんなわけで、エレットリカ改めルーチェの主要なインテリアデザイン(念のため言っておくけれど、背の低いスポーツカー用ではない!)は、なるほど一見iPhoneライク(例えば角の丸いアルミパネル)だけれども、その実、クルマ好きの心をくすぐる要素に満ちていた。
例えばフィジカルな針(メーターと時計)の復活や、アルマイト加工の再生アルミパーツとコーニング社製特殊ガラスの多用だ。アルミ3本スポークの革巻きステアリングホイールなどは涙ものだろう。ちなみにトグルスイッチのまわりをよく見てほしい。必ずU字型のアルミバーが備わっている。これは操作性に寄与することはもちろん、衝突時の安全性を確保する役割も担っている。
ジョニーとマークのこだわりはプラスチックをできるだけ使わないことだ。パッセンジャーが触れるすべてのパーツがアルミとガラスに置き換えられている。
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大きな狙いは「再構築」
韓国サムソン製の有機ELを使ったディスプレイも凝りに凝っていた。特にステアリングコラムと一体となったドライバーピナクルだ。2種類のパネルの間に機械的なパーツを挟み込み、多様なデジタルグラフィックとアナログ表現を両立する。
そのほか、ルーフに配されたヘリコプターのようなローンチコントロールスイッチや、エンブレムカラーが“消える”デジタルキーなど、面白い仕掛けも散見された。
なぜマラネッロが再びインハウスデザイン(チェントロスティーレ)からかつてのカロッツェリア(ピニンファリーナ)のように外部のデザイン会社を頼ったのか。
一つにはフェラーリもまたトヨタと同じく“マルチパスウェイ”な商品開発を続けている(純エンジン、プラグインハイブリッド、そしてフルバッテリー)ため、商品展開が急で数も多く、インハウスでは賄いきれなくなったこともあるのだろう。事実、ベネデットによれば「フェラーリは2030年までに、年間平均4台の新型モデルを発表し、内燃機関40%+ハイブリッド40%+フル電動20%という構成比となる」らしい。
それからもう一つ。フラビオがこっそり漏らしたように、先進性を高めるために複雑になる一方だったコックピット操作系の再整理が必要だったに違いない。車両制御やインフォテインメントなど提供する情報が劇的に増えた一方で、それらをドライバーに提供するためのデジタル化がうまくかみ合っていなかった事実も挙げていい。
長く続く自動車メーカーの弱点をあえていえば、常に“発展進化系”であること。実績をベースとした改良の積み重ねは確かに機械製品の進化には有用だったが、日進月歩のデジタル技術の扱いに関していえば、時に過去の実績が邪魔になる。ここらで一度、すべてを白紙に戻し、要素を整理してコックピットを再構築したい。マラネッロはそう考えたのではなかったか。同時にBEV投入を機にユーザーの属性や地域性も刷新、あるいは更新したかったのだと考える。もちろん、電気自動車界においても”フェラーリ”としてのポジションを確立しながら……。
門外漢(事実、ジョニーは製品に対する考え方のあまりの違いに当初はかなり面食らったらしい。そりゃそうだ、スマホはユーザーが画面を割ってしまうことなど気にもかけていないけれど、今やクルマはできるだけ壊さないようにつくられている)に任せた結果、おそらくは思いのほか、昔ながらのクルマらしいイクイップメントやインターフェイスができあがってきた。驚いたのはクルマ屋のほうだったに違いない。
実際に触った印象で締めくくろう。ガラスのシフトノブは、ほおずりしたくなるほど触り心地が良かったし、そこらじゅうに見えるアルミニウムパーツもしかり。アルミパドルシフターのクリック感も最高だった。
アルミスポークのハンドルや物理的な針、もうベタベタは怖くないアルミとガラスの多用。エンジンモデルにもぜひ展開してほしいとベネデットにお願いしておいた。
(文=西川 淳/写真=フェラーリ/編集=関 顕也)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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