フェラーリが次世代フル電動モデルの主要技術やスペックを発表

2025.10.09 自動車ニュース 西川 淳
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フェラーリが公開した、次世代BEV「エレットリカ」(仮称)のベアシャシー。
フェラーリが公開した、次世代BEV「エレットリカ」(仮称)のベアシャシー。拡大

伊フェラーリは2025年10月9日、開発を進めているブランド初の電気自動車(BEV)「Elettrica(エレットリカ)」について、同モデルの主要なスペックや技術の概要を発表した。

前方から見た「エレットリカ」のベアシャシー。今回はBEVプラットフォームと、そこに搭載されるパワートレインおよび足まわりが披露された。
前方から見た「エレットリカ」のベアシャシー。今回はBEVプラットフォームと、そこに搭載されるパワートレインおよび足まわりが披露された。拡大
後方から見たベアシャシー。基本レイアウトは多くのBEVと同様、フロアにバッテリーを敷き詰め、その前後に駆動用モーターを配置するというかたちになる。
後方から見たベアシャシー。基本レイアウトは多くのBEVと同様、フロアにバッテリーを敷き詰め、その前後に駆動用モーターを配置するというかたちになる。拡大
「エレットリカ」のフロントアクスル周辺部。前2輪は2基のモーターで駆動される。
「エレットリカ」のフロントアクスル周辺部。前2輪は2基のモーターで駆動される。拡大
こちらはリアアクスル周辺。リアにも2基のモーターを搭載し、4輪操舵システムが組み合わされる。
こちらはリアアクスル周辺。リアにも2基のモーターを搭載し、4輪操舵システムが組み合わされる。拡大

フェラーリ初のBEVは4ドアで4人乗り

「われわれはマーケットのリーダーだ。常に限界に挑戦すべく革新的でならねばならない。求めうるすべての技術を用いてユニークなドライビングスリルを提供しつつ、環境性能など社会的な要求にも応えていく。それによってすでに存在する顧客の満足度をさらに高め、新たな顧客を獲得するのだ。それがマーケットリーダーとしての役目である。今日、2025年10月8日は、1947年の3月12日(フェラーリの創業日)に匹敵する歴史的な節目になるだろう」

フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEOは力強くそう語った。年に一度の“キャピタルマーケットデー”を翌日に控えたマラネッロ、2024年に竣工したばかりのe-ビルディングで開催された“テクノロジー&イノベーションワークショップ”において、うわさのマラネッロ製電動馬、フェラーリ・エレットリカの技術的な概要が明らかにされた。

いつものように個人デバイスのカメラというカメラを赤いステッカーでふさぐという厳重な警戒線(なんとCEOのスマホにも貼られていた!)をクリアした先で世界中のメディアを待ち受けていたのはアルミ色に輝く大きなベアシャシーだった。

フロントビームは見るからに短く、前オーバーハングの短さを物語る。サスペンションは前後とも、見た目には「プロサングエ」とよく似たアクティブシステムだろう。フロント、リアともにインバーターケースを頂くeアクスルがおさまっている。大きなフロアにはバッテリーモジュールが並び、フロア構造はリアに向かって跳ね上がっていた。この電動モデルのサブフレーム構造は“特殊”なのだ。

「60以上の特許がちりばめられ、75%はリサイクルアルミニウム製で、従来の車両に対して一台あたり6.5tものCO2を削減した」

開発部門の責任者であるジャンマリア・フルジェンツィは、そう胸を張った。

ホイールベースが3m近いベアシャシーを見てわかることは、4シーターであること。開発陣の説明では4ドアであることも後から判明した。モデルとしての位置づけは、「GTC4ルッソ」や「プロサングエ」と同じ商品性を有し、ドライビングスリルとユーザビリティーでそれらを大きく上回るというものらしい

「エレットリカ」の主要コンポーネンツは、フェラーリの新プラントであるe-ビルディングで生産される。写真はバッテリーセルを組み込んだ、同モデルのバッテリーシステム。
「エレットリカ」の主要コンポーネンツは、フェラーリの新プラントであるe-ビルディングで生産される。写真はバッテリーセルを組み込んだ、同モデルのバッテリーシステム。拡大
14個のセルをアルミニウムケースにおさめた計15個のモジュールは、写真のように工業用接着剤を使って一体化される。
14個のセルをアルミニウムケースにおさめた計15個のモジュールは、写真のように工業用接着剤を使って一体化される。拡大
組み上がったバッテリーシステムが、無人運搬機でe-ビルディング内を運ばれていく。このように、次世代フル電動フェラーリの生産は着々と進められている。
組み上がったバッテリーシステムが、無人運搬機でe-ビルディング内を運ばれていく。このように、次世代フル電動フェラーリの生産は着々と進められている。拡大
リアアクスルのカットモデル。2基のモーターはフロントとは異なるインバーターで制御され、最高出力843PS、最大トルク8000N・mを発生するという。
リアアクスルのカットモデル。2基のモーターはフロントとは異なるインバーターで制御され、最高出力843PS、最大トルク8000N・mを発生するという。拡大

ケタ違いのトルクを発生

今回のワークショップで明らかとなった技術的なポイントを順に追ってみよう。

まずはバッテリーシステムだ。韓国SK製セルを約10×20cmサイズのマザーボードに組み込み、それを14個まとめてアルミ合金のケースに並べてひとつのモジュールを構成している。さらに15個のモジュール(前から順に1+並列2×5+上下2×2)をアルミニウムケースに組み込んでシャシーを構成(つまり計210セル)するわけだが、もちろん冷却性能には気を使っており、空冷・水冷(水とグリコール半々)を駆使して温度を管理している。バッテリー総容量は122kWhだ。

覚えておくべきポイントは容量のほかに2つ。重心高がプロサングエに比べて80mm下がり、前後重量バランスも47:53と理想の数値を達成したこと。さらに、一つひとつのモジュールはアクセスも容易で交換可能であることだ。

それはつまり、将来的にセルメーカーが変わっても対応できるということ。セルこそサプライヤーから供給されるものの、その設計をe-ビルディングで行い、セルのアッセンブリー以降をすべて自社で賄うがゆえそれが可能なわけだ。電動モデルの将来的な価値低下を食い止める唯一の方法であるといっていい。

同様にそれぞれに2基の電気モーターを持つ前後のeアクスルシステムもまた、高出力モーターやトランスミッション、インバーターといったすべての構成部品の設計・開発・生産をフェラーリが自社で行っている(ここでもすべての鋳造部品はリサイクルアルミ合金だ)。

フロントアクスルに積まれた同期型永久磁石モーター(最高回転数3万rpm、「F80」にも使用された)は2基合計で210kW(286PS)の最高出力を発生。最大3500N・mものトルクを供給することができる。最高速310km/hに至るまで任意の速度で瞬時に車輪から切り離すこともできるから、効率的にAWDとRWDの運用が可能になったというわけだ。

リアアクスルの出力はさらに強大で、2基のモーター(同2万5500rpm)合わせて620kW(843PS)、路面に伝達可能な最大トルクは実に8000N・mという。ちなみにフロントeアクスルではモーター2基をひとつのインバーターで、リアはそれぞれに専用のインバーター(つまり計2つ)で制御する。第5世代となったインバーターの設計・生産・開発も、もちろんインハウスだ。

フェラーリ初となる、リアの独立型サブフレーム。低圧鋳造の中空リサイクルアルミ合金フレームに、リアアクスルとリアサスペンションが連結される(写真は車体後方から見た様子)。
フェラーリ初となる、リアの独立型サブフレーム。低圧鋳造の中空リサイクルアルミ合金フレームに、リアアクスルとリアサスペンションが連結される(写真は車体後方から見た様子)。拡大
前方から見たリアのサスペンションシステム。進化したアクティブサスペンションは、シャシーに伝わる慣性力を抑え、縦方向の入力を効果的に吸収できるという。
前方から見たリアのサスペンションシステム。進化したアクティブサスペンションは、シャシーに伝わる慣性力を抑え、縦方向の入力を効果的に吸収できるという。拡大
こちらはフロントのサスペンション。展示用コンポーネンツには、カーボンセラミックのブレーキディスクが組み合わされていた。
こちらはフロントのサスペンション。展示用コンポーネンツには、カーボンセラミックのブレーキディスクが組み合わされていた。拡大
「フェラーリ・エレットリカ」について説明する、フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEO。壇上、今回の発表の機会を「フェラーリの創業日に匹敵する歴史的な節目」と評した。
「フェラーリ・エレットリカ」について説明する、フェラーリのベネデット・ヴィーニャCEO。壇上、今回の発表の機会を「フェラーリの創業日に匹敵する歴史的な節目」と評した。拡大
「フェラーリ・エレットリカ」(仮称)は、2026年春の正式デビューが予定されている。
「フェラーリ・エレットリカ」(仮称)は、2026年春の正式デビューが予定されている。拡大

4輪の制御は自由自在

次にフェラーリとしては初となる独立型リアサブフレームの採用だ。これは低圧鋳造の中空リサイクルアルミ合金フレームにリアアクスルとリアサスペンションを搭載し、エラストマー製ブッシュによってシャシーと4カ所で結合するという構造で、これによりスポーツカーとしてのパフォーマンスはもちろん、eアクスルからのNVH(騒音/振動/ハーシュネス)を抑えるという重要な役割を担っている。

そして低重心を実現した電動パワートレインの恩恵を受けたアクティブサスペンションシステムもプロサングエやF80のものに比べて大幅な進化を果たしている。

最も重要な改良ポイントは電動モーターとつながったリサーキュレーティングボールスクリューのピッチが20%延長されたこと。シャシーに伝わる慣性力を抑え、縦方向の入力を効果的に吸収する。またアクティブシステムによりフェラーリとしては初めて、4つのモーターと4輪操舵を組み合わせすべての動的条件における縦・前後・横方向の力をアクチュエーターで制御できるモデルが登場することになった。

最後に気になるサウンドについて。もちろんBEVであり、独立リアサブフレームを採用するなど静粛性にこだわったモデルではあるが、“電動車としての本物の音”も追求した。内燃機関の音をまねたり、宇宙船のようなサウンドをシンセサイズしてつくったりするのではなく、メカニカルコンポーネンツやパワートレインの発する実際の振動を拾い上げ、ドライバーにとって動的な状況を把握するために有効なサウンドだけをエレキギターのように増幅するという手法を取り入れた。前出のジャンマリアによれば「完全にユニークなサウンド経験ができる」らしく、その音質は純粋に構造や設計からもたらせるもので、誰にもまねできないという。そう、Vエンジンフェラーリのサウンドのように!

あまりに多くの技術的ポイントがあるため、まずはベアシャシーのみの公開となったフェラーリ・エレットリカ。来週早々に次はインテリア、そしてしばらくたってエクステリアが順次公開されるという。ちなみにエレットリカという呼称は全貌が明らかになるまでの“仮名”である。

システム総出力1000PS以上(ブーストモード)、車重2.3t(BEVとしては軽い!)、0-100km/h加速2.5秒、一充電走行距離530km以上というマラネッロ初のフル電動モデルは限定ではなくシリーズモデルとなる予定だ。

(文=西川 淳)

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