スバル・インプレッサWRX STI 4ドア(4WD/6MT)【試乗記】
4ドアSTIは終わらない 2010.09.03 試乗記 スバル・インプレッサWRX STI 4ドア(4WD/6MT)……373万8000円
「インプレッサWRX STI」に4ドアモデルが復活。大型リアスポイラーを備えた日本のスポーツカーに試乗して感じたこととは。
みんな歓迎してます
いよいよ2010年9月9日に北海道でWRCラリージャパンが始まる。2年ぶりの開催だからそれなりに騒がれるのかと思っていたら、今のところ、いつもと変わらずという感じだ。これから盛り上がるのだろうか? 開催までもう1週間を切っているし、チケットぴあを見てみたら、札幌ドームで行われるスーパーSSは全日程で空席アリになっていたし……。ラリー好きとして、正直ちょっと心配だ。
PWRC(プロダクションカー世界ラリー選手権)では、新井敏弘選手が「インプレッサWRX STI 5ドア」を駆って頑張っている。ラリー界でインプレッサは現役だ。しかし潮の満ち引きという意味では、スバルがラリー競技のひのき舞台であるWRCから撤退したことで“潮目”が変わってしまったらしい。筆者自身、WRCがシトロエンとフォードの一騎打ちになってしまってから、CS放送のWRC中継を見逃しがちになってしまっている。
「インプレッサWRX STI」の4ドア版がまず今年4月のニューヨークモーターショーで登場し、「日本では売るかどうかは未定です」というつれないコメントがスバルから出てきたときも、大局において、何となくこれと同じにおいがした。何かが引いていくにおい、とでも言おうか。
「インプレッサWRX」といえば4ドア、やはりこれがないと日本のスポーツカーは始まらない。今までとは違って競技を前提としたモデルではないが、いろいろなことが終わっていくこのご時世において、終わらなかったことは、それだけで感慨深い。それが証拠に、このクルマで走っていると、まあ最近めずらしいくらいにアオられる。みんな再登場を歓迎しているとしかいいようがない。
自己責任の308ps
「WRX STI」4ドアに搭載される2リッターのボクサー4はツインスクロールターボを装着し、308psと43.0kgmを発生する。この数値は5ドア版と同じ。6段マニュアルトランスミッションのギア比も、ファイナルを含めて5ドアと同じである。タイヤサイズも同様で、いずれも245/40R18のブリヂストン・ポテンザRE050Aを履く。車重は4ドアの方が10kg重く、1490kgとなる。
タービンへ排気ガスを導く流路をふたつに分けたツインスクロールターボは、低回転域でのレスポンスとパワーを向上させる効果があるとされ、実際、過去に試乗したどのWRXよりも街中で扱いやすく感じた。
しかしそれでも低回転のドライバビリティは相対的に“期待値”(WRXに期待するものは相当大きいのだ)を超えているとは言えず、エンジンの出力特性を変更できる「SI-DRIVE」のスイッチを燃費重視の「I」モードにしているとき、あるいはややスポーティな「S」モードを選択時ですら、低速トルクの細さを感じた。
いや、2リッターのクルマとしては、絶対的には十分以上のトルクが出ているのだ。でも、このオーバーフェンダーにリアスポイラーなんだから、もっとドンッと派手にやっちゃってほしいのである。
そこで「SI-DRIVE」を一番スポーティな「S#」モードにしてみる。そこでやっとWRXらしいレスポンスとトルクを発揮するにいたった。特に3500rpmを超えてからのレスポンスは素晴らしく、8000rpmのリミットまでターボユニットらしからぬ勢いで回る。
つまりは常に「S#」で走っていれば文句なく速く、気持ちいい。しかし、それでは共生共存が求められるこの“環境時代”を生きていけない。なるほど、そこでハイパワーは自制心あるドライバーの自己責任でどうぞ、ということのようだ。
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過渡期を耐え抜け!
スパルタンという言葉が、かつてスポーツカーに対するリスペクトを表現した時代があった。大昔の話ではない。1992年発表の「ポルシェ911(964)カレラRS」にはエアコンもオーディオもなく、こちらもそれを当然のこととして見ていたから、まだ20年もたっていないことになる。その尺度からすると、スポーツカーにはオーディオもエアコンも重量面でも精神面でもない方が理想的であり、乗り心地が硬くたってじっと耐えなくてはならなかったわけである。
「WRX STI」は現在の日本車でおそらく最もスパルタンな部類に入るだろう。ステアリングはしっとりと重く、クラッチはずしっと踏み応えがあり、シフトレバーの操作感はゴリゴリっと重い。手あかのついた表現を使えば、運転席はオトコの仕事場的だ。しかし絶対的には快適性を損なうほどの重さではなく、操作系が持つ重さの質感がそろえられているので、スポーツカーを操っている手応えがあり、むしろ心地良いぐらいだ。
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あるいはそれは、作り込まれたモノが持つ“いいもの感”と根っこの部分でつながっているのかもしれない。たとえば乗り心地がそうだ。足まわりはぐっと締め上げられていて、そのぶん軽快な回頭性を誇るが、乗り心地は非常に洗練されていて、こういうクルマに理解がある家族なら、ファミリーカーとしても使えそうなぐらいのマイルドさを備えている。この外観からはちょっと想像しづらい一面である。
「WRX STI」は性能だけを楽しむスポーツカーから、その存在をも楽しむスポーツカーに脱皮しつつあるように感じた。ここを耐え抜かないと文化にはなれない。
(文=竹下元太郎/写真=菊池貴之)

竹下 元太郎
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