軽商用BEVの切り札「ダイハツe-アトレー」に試乗! 街の小さな働き者のBEVシフトを考える
2026.03.20 デイリーコラム 拡大 |
軽商用車界の大御所ダイハツから、いよいよ電気自動車(BEV)の「e-ハイゼット カーゴ/e-アトレー」が登場!(参照) スズキやトヨタにも供給される軽商用BEVの切り札は、どれほどの実力を秘めているのか? “働く軽”に慣れ親しんだ編集部員が、その可能性に触れた。
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軽キャブバンの定番車種にBEV版が登場
父の勤め先が縫製の町工場だったもので、いつも実家には軽のワンボックスがいた。記者も普段から運転していて、まぁこの手のクルマには慣れ親しんだものだ。しかしそんな当方からすると、今回試乗した「ダイハツe-アトレーRS」はほとんどUFOであった。よく知るキャブオーバー型の軽バン・軽ワゴンとは、完全に別次元のクルマだったのだ。
2026年3月某日、記者は都内某所でダイハツe-ハイゼット カーゴ/e-アトレーを試乗・取材する機会を得た。試乗時間は撮影を除くと1時間ほどで、芝公園や東京タワーの周辺をくるくる回った程度だが、もとより軽キャブバンとはそういうクルマだ。遠出に不向きなBEVとくれば、なおのことだろう。メインステージでの彼らの所作は実にあっぱれで、“〇〇としては”なんてただし書き抜きに、いいクルマと言えるものだった。
既報のとおり&車名にも表れているとおり、e-ハイゼット カーゴ/e-アトレーは、ガソリン車の「ハイゼット カーゴ/アトレー」をベースとしたBEVだ。駆動を担うのは最高出力47kW(64PS)、最大トルク126N・mの交流同期電動機で、バッテリーは容量36.6kWhのリン酸鉄リチウムイオン電池。一充電走行距離は、WLTCモードでクラストップの257kmと公称されている。
で、これまた既報&読者諸氏ならご存じのとおり、このクルマは商品企画の段階から、トヨタ、ダイハツ、スズキが協業。軽商用車界の2大巨頭(とついでにトヨタ)が、ついにBEVを揃えたわけだ。いずれも生産を担うのは、ベース車と同じくダイハツ九州 大分(中津)第1工場である。
取材会場にはe-ハイゼット カーゴとe-アトレーの両方が用意されていたが、記者が選んだのは商/乗兼用のe-アトレー。販売的にはガチ商用のハイゼットこそ主役だろうが、会社の金庫番が決済権を握るクルマの乗り心地など、批評しても一過性のエンタメにしかなるまい(涙)。せめて一般消費者のクルマ選びに資するべく、アトレーのほうを選んだ次第である。
これが軽キャブバンの乗り心地か!?
というわけで試乗である。真っ先に感じたのはパワートレインの洗練ぶりで、「荷崩れに用心して、あえて抑えた」という穏やかな出だしを過ぎると、クルマはスルスル! となめらかに加速する。定速状態でのパーシャルスロットル(厳密にはスロットルじゃないけど)や、微細なペダル操作にもギクシャクせず、減速から加速へ移行する際にもショックの類いは皆無だ。
荷物運搬車の本分である膂力(りょりょく)については……今回は積載状態を試せなかったので確かなことは言えませんが、成人男性2人を乗せて、永井坂や切通坂をスイスイいけたことは記しておく。車重が重いので(「三菱ミニキャブEV」の1100~1130kg、「ホンダN-VAN e:」の1060~1140kgに対し、こちらは1240~1300kg)、相対的にはライバルに譲る部分もあるのだろうが、単体で見れば十分以上の健脚、という印象である。
制動も、「回生ブレーキで減速→機械ブレーキで停車」の一連において違和感はなく、急にガコンとブレーキが利いたり、ペダルを緩めたら意図した以上にブレーキが抜けたり……といったことはみじんもない。加減速に関しては、ステップATを積んだ既存のエンジン車よりはるかにストレスフリーだった。
こうした印象はシャシーも同じで、軽キャブバンにあるまじき快適さ(笑)。300kg増した車重に合わせてサスペンションを引き締めたというが、不快な硬さはなく、むしろしなやかさが印象に残る。また姿勢のフラットさは床面にバッテリーを敷くBEVに共通する傾向だが、その点は背高ノッポなe-アトレーも同じだ。あえてハンドルをグイッと切っても、上屋はやすやすとはフラつかず、ちょいとガサツにアクセル/ブレーキを踏んでも、乗員(=ワタシ)の頭がガクガク振られることはない。ロールもピッチもちゃんとコントロール下にある感じで、クルマがしっかり地面に張り付いているような安心感があった。
エンジニア氏に話を聞いたところ、この辺については上述のバッテリーに加え、専用設計のリアサスペンションも効いている様子。スペックシートの「トレーリングリンク車軸式コイルスプリング」という字面はエンジン車と同じだが、その実は別物で、バウンドストッパーや3つのブッシュ類も同車向けに新開発したものだとか。若かりし頃、はじかれ感のある軽バンのアシに尻を鍛えられた記者は、「パワートレインに関係なく、リアサスはぜんぶこれにすればいいのでは」なんて思ってしまった。
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いいクルマだけど……そのぶんお高い
こうした動的な部分と同様、e-ハイゼット カーゴ&e-アトレーは、軽キャブバンとしての機能性もしっかり吟味されている。エンジン車と同等の荷室容量や最大積載重量、荷室フロア高などは言わずもがな、荷室内の施工に便利なユースフルナットも極力継承。メーターパネルには乗員がパワートレインの状態を把握しやすいよう、バッテリーの温度計も採用された。さらに運転席&助手席には、冬季の快適性や節電に寄与するシートヒーターを全車に装備。AC100V/1500Wコンセントは、移動中にもタブレットで仕事したり、手軽に空調服(冷風扇付きのジャケット)を充電したりできるよう、インストゥルメントパネルに設置している。
最大トルク126N・m、航続距離257km(WLTCモード)というパフォーマンスも同様で、同車の開発責任者を務めたダイハツの齋藤 寛さんは、「ユーザーに、仕事で使ううえでの不安感を与えないよう配慮した」と語る。軽ターボを優に超える最大トルクは、フル積載でも35%勾配の急坂を登れる性能を担保するため。軽商用車No.1の航続距離は、暖房を使用する冬季にも約140kmを走破できることを意図した結果だそうだ。齋藤さんによると、実のところ軽ワンボックスユーザーの約8割は、一日に100kmも走らないのだとか。それでも業務中に電欠する不安を解消するべく、安心感を生む“最後のお守り”として+30kmを上乗せしたという。自宅/事業所での充電を前提としつつ、CHAdeMO規格の急速充電に対応しているのも、これが理由だそうだ。
ただ浅学の記者からすると、さすがに「ちょっとやりすぎでは?」と少し不安になってくる。なにせこのクルマ、ハイゼット版が314万6000円、アトレー版が346万5000円と、先行する三菱ミニキャブEV(243万1000円~248万6000円)やホンダN-VAN e:(269万9400円~291万9400円)より、ずいぶんとお高いのだ。無論、後発だけにライバルの商況やマーケットの反応などは存分に研究しているはずで、お試しや取りあえずではなく、「これが正解!」と確信してのコンセプト&価格設定なのだろうが……。
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ダイハツとスズキが軽商用BEVを持つことの意義
……こんな試乗会にお呼ばれしていて恐縮だけど、軽商用車のご成約の決め手となるのは、クルマの出来栄えではないと思う。少なくとも記者のまわりではそうだった。露骨な話、それは会社の車両担当がどこのクルマ屋さんと仲がいいとか、あるいは「維持費を含めて、どこまでサービスしてくれますのん?」とかいった、非常にウエットでドライな要因によるものだろう。乗り心地や操安性が入り込む余地はほとんどなく、なんなら商用車としての機能性すら考慮されないのではないか。それを思うと、前述した「高いんだけどいいクルマです」がどこまで決済担当者に訴求するか、記者にはちょっとわからない。
いっぽうで、かように殺伐とした商用車の世界だからこそ、ダイハツ&スズキの2大巨頭がBEVを手にしたことはデカいと思う。ひっきょう、このかいわいでモノをいうのは、ユーザーとの接点の総量だ。「他社のほうが安いけど、ダイハツさんとは付き合いが長いからなぁ」といった事実上の随意契約、アナタの会社でもあるでしょ(笑)。そこで軽商用車のマーケットを見ると、2025年の販売シェアはダイハツが43%でスズキが31%。ほかは軒並みひとケタ台で、もう市場での存在感が文字どおりケタ違いなのだ。
二輪のかいわいの様子を見ても、都内ではすっかり新聞&郵便の「スーパーカブ」を見なくなったが、これとて代替えの「eベンリイ」が大御所ホンダの製品だからだろう。ヤマハやスズキが電動配送バイクを出しても、こうもうまくはいかなかったはずだ。よくも悪くも、これがフリート販売なのである。先行して苦労してきた2社には申し訳ないけど、ダイハツとスズキが商品を世に問うた2026年こそが、軽商用BEVの普及元年になるのかもしれない。
ダイハツの発表によれば、e-ハイゼット カーゴ/e-アトレーの販売計画は、2台合わせて月間300台(=年間3600台)。年間8万台を売りさばくエンジン車と比べたら、なんと控えめなことよ。もっともそれも、青息吐息な軽商用BEVの市況を思えばむべなるかなって感じだ。この300台が最初の雨だれとなり、そのうち岩に穴をあけ、街の景観を変えていくことにぜひ期待したい。全軽自協の統計によると、発売初月の販売台数は171台(2026年2月2日~28日)である。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=webCG、ダイハツ工業/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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