ポルシェ911 GT2 RS(RR/6MT)【海外試乗記】
究極の911 2010.08.25 試乗記 ポルシェ911 GT2 RS(RR/6MT)軽量化とパワーアップを突きつめたポルシェの限定車「911 GT2 RS」に試乗。そのパフォーマンスは「RS」の名にふさわしいものなのか?
王者の地位
3.7秒という0-100km/h加速タイム、329km/hという最高速――そんな現実離れしたスピード性能で「911史上で最強・最速!」というタイトルを手中に収めたのが、2007年秋にリリースされた997型の「GT2」だった。「911ターボ」をベースとしながら前輪駆動系を省略し、チタン製エキゾーストシステムや「PCCB」(セラミックコンポジットブレーキ)の採用などで145kgの減量を達成。一方、最高出力を50ps上乗せし、「GT3」系を含む他の911シリーズとは別格の動力性能を実現。それが、このGT2というモデルだった。
しかし、王者にもいつかその地位を譲る時がやってくる。997型GT2にはまさに今、そんな瞬間が訪れたのだ。「ポルシェのロードゴーイングモデルとして最強・最速の一台」――あらためて、そんなタイトルを手にするのがここに紹介するモデル。1972年に登場の「911カレラRS」に端を発する、飛び切りスポーティなポルシェ車に与えられる「RS」の二文字が加えられた、「911 GT2 RS」がそれである。
世界限定500台のみが販売されるというこのモデルは、実は「出場可能なレースカテゴリーが存在しない」という珍しい911でもある。しからば、そんな飛び切りスペシャルなモデルを戦う目的もなくポルシェが送り出した理由は一体何だろう? 私見ではあるが、それは「ポルシェ開発陣の夢の具現」であろうと自分は読んでいる。言い換えれば「いかなる手段を講じてでも創りたかった“究極の911”」。それこそが、このGT2 RSというモデルであろうとボクは想像するのだ。
6速でもホイールスピン!
GT2を超えるGT2を生み出すために講じられた第一の手段。それは、前述のように軽量化を図ったベース車両を、さらにシェイプアップすることだった。アイキャッチャー的役割を果たすポイントは、アルミからカーボンファイバーへと変更されたフロントフード。さらに、樹脂製リア/リアサイドウィンドウやシングルマス化されたエンジンフライホイール、アルミ製とされたリアのダイアゴナルバーや軽量スプリングといったサスペンションパーツ等々の採用でトータル70kgのさらなる減量に成功。DIN計測法ではわずかに1370kg。つまり、“素の911カレラ”よりも45kgも軽いのが、GT2 RSの車両重量だ。
一方、ポルシェはそんなこのモデルに、GT2用を90psも上回る、新たにチューニングされた心臓を積み込んだ。100mmというビッグボアシリンダーを採用の可変ジオメトリーターボを2基搭載した3.6リッターユニットといった基本スペックに変わりはないものの、15%の効率アップを果たしたインタークーラーを新たに採用し、最大過給圧を0.2bar上乗せの1.6barへと設定。これにより最高出力620ps、最大トルク71.4kgmと、かのスーパーポルシェ「カレラGT」に積まれた10気筒エンジンを、はるかにしのぐ強靭(きょうじん)なアウトプットを発生する。
ハードコア中のハードコアであるそんなGT2 RSの、本国ドイツで開催された国際試乗会は、あろうことか雨降りに見舞われた。軽量ボディにあり余るターボパワー。そのうえ、ドライ路面に照準を合わせた浅溝タイヤという組み合わせは、案の定ブースト圧が高まるとたちまちホイールスピンを誘発。ウェット路面で「強力な加速」を楽しめるのは、せいぜい0.4bar程度のブースト圧までで、それ以上にターボの効きが強まると、なんとアウトバーンで6速ホイールスピンという驚きの現象までが発生した!
緊張感を強いる
そんなパワフル極まりない心臓のポテンシャルを受け止めるべく、前後のアクスルがよりワイド化されるなど、さらに強化された足まわりを備えるGT2 RSの乗り味は、当然ハードだ。しかし本来の後席部分にジャングルジムのごとく張り巡らされたロールケージの効用もあってか、ボディの振動減衰性能がすこぶる高く、思ったほどの不快感は抱かない。もっとも、軽量化を目的とした例のシングルマスフライホイールが、特に低回転域でガラガラと盛大なノイズを発することもあり、総合的な走りのテイストは、やはり常にワイルドそのものだ。もっとも、こうした怪物マシンに乗る人には、終始その程度の緊張感を強いるべきであろう。こんなモデルで雨降りの中を気持ち良くアクセルを踏まれたりした日には、いかにスタビリティコントロールが標準装備であろうとも、痛い目に遭う人が本当に続出しそうだからだ。
あいにくの路面で試すことができたGT2 RSの走りは、本来秘めたポテンシャルの数分の1にも満たないものであったはず。あわよくば、もう一度ドライ路面を走る機会が欲しいとも思うが、一方ではこのまま真の実力は知らずに、封印をしてしまった方が身のためなのかもしれないとも思う。
デビュー早々にして、すでに神格化されたかのようなオーラを感じさせる911――GT2 RSとは、そんなスーパーポルシェなのである。
(文=河村康彦/写真=ポルシェジャパン)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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