気づけば増えた軽のBEV 多くのメーカーがそこに商機をみるわけは?
2026.06.29 デイリーコラム軽規格のBEVが続々登場
軽自動車規格の電気自動車(BEV)の発売や投入計画発表が相次いでいる。軽BEVの分野で先鞭(せんべん)をつけたのは日産と三菱で、日産は「サクラ」を2022年6月に発売。姉妹車の三菱「eKクロスEV」も同じタイミングで発売されている。ホンダは2024年10月に軽商用BEVの「N-VAN e:」を発売。2025年9月には軽乗用BEVの「N-ONE e:」を発売した。2028年にはN-BOXのBEV版を投入すると発表している(関連記事)。
スズキは2026年3月に軽商用BEVの「eエブリイ」を発売。2025年のジャパンモビリティショー(JMS 2025)で軽ハイトワゴンタイプのBEVコンセプトカー「ビジョンeスカイ」を参考出品した。同社は、「日々の通勤や買い物、休日のちょっとした遠出など、軽自動車を『生活の足』として愛用されるお客さまの毎日に寄り添うEVとして、2026年度内の量産化を目指す」としている。
さらにスズキは、軽トラックの「キャリイ」をベースにしたBEV軽トラックの実証実験を実施中。テスト車両を6軒の農家に1年間使ってもらい、BEVトラックの潜在需要などについて検証し、実用的で使いやすいBEV軽トラックの開発や関連サービスの提供に結びつけようとしている。
ダイハツは「カーボンニュートラル社会の実現に向け、物流のラストワンマイルや各産業を支える軽商用車にも電動化の期待が高まっている」とし、このニーズに応えるため軽商用BEVの「e-ハイゼット カーゴ」と、ハイゼット カーゴと同じ商用車扱い(4ナンバー)ながら、レジャーを含め日常使いも視野に入れて仕立てた「e-アトレー」を2026年2月に発売した(関連記事)。生産はダイハツ九州の大分第1工場で行い、BEV専用設備を導入せず、ガソリン車と混流生産する。
海外メーカーも引き寄せられる
軽BEVを投入するのは国産自動車メーカーだけではない。中国のBYDは、スズキがビジョンeスカイを参考出品したJMS 2025で、スーパーハイトワゴンタイプの軽BEV「RACCO(ラッコ)」を出展。2026年夏に発売する。BYDはラッコについて、「お子さまがいるファミリーにも、子離れしたご夫婦にも、若いカップルの方にもフィットするよう開発した」と説明する。
新興BEVメーカーのEMTは2026年5月27日、日本市場向け新自動車ブランド「EMTA(エムタ)」の立ち上げを発表。2027年に軽自動車規格のBEVを第1弾として投入し、2029年までに登録車を含めて4車種の展開を目指すとしている。
EMTは中国の奇瑞汽車(Chery:チェリー)を中心とする中国企業3社に、日本のオートバックス、アネスト岩田を加えた5社が設立した合弁会社である。中国の自動車メーカーがつくる軽BEVをオートバックスの販売網を使って売る構図のようだが、企画は日本の事業所発であり、コンポーネントや生産設備面で中国のリソースを活用するのが実態にみえる。
第1弾モデルに軽BEVを選択したのは、「日本では新車販売の約3台に1台が軽自動車であり、平均月間走行距離は約400kmと、軽自動車は遠出のためのクルマというより、買い物、送迎、通勤など毎日の暮らしに最も深く根ざした存在だから」だと説明した。エムタが導入する予定の軽BEVもリアにスライドドアを持つスーパーハイト系に見える。ラッコと同じで、BYDが軽BEVを投入するにあたり、軽市場で最も売れているカテゴリーに狙いを定めたのは当然のことだろう(そう考えると、先行者利益が得られたはずのホンダは出遅れたように思えてしまう……)。
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ハードもソフトも機は熟した
量産BEVの先駆けとなった「日産リーフ」が登場したのは2010年のこと。発売当初のリーフが搭載していたバッテリーの総電力量は24kWhだった。2009年に法人を中心に三菱が販売を始めた「i-MiEV」のバッテリー容量は16kWh。のちにi-MiEVのパワートレインを商用車に展開した軽商用BEVの「ミニキャブMiEV」も発売された。どちらも、実質的な航続距離は100kmに満たなかった。
N-ONE e:は29.6kWhのバッテリーを積み、WLTCモードの一充電走行距離は295kmである。ファーストカーであれセカンドカーであれ、初めてBEVを所有する人にとって第一印象は大事だ。音や航続距離や使い勝手などでがまんを強いられる点があると「これはダメ」との烙印を押してしまいがちだし、その手の話がひとり歩きして軽BEV全体の評判を落としかねない。
量産BEVの開発から10年以上が経過し、バッテリーやeアクスルなど、BEVを構成するハードウエアの小型化や高効率化が進み、軽自動車の特徴であるユーティリティーを損なうことなく、小さな車体でパッケージングを成立させることができるようになった。
そのうえ、静粛性の面でも、ドライバビリティーの面でも技術進化があり、ユーザーの期待に応えられる商品性を担保できる自信がついてきた。登録車に比べると軽BEVを対象とする国の補助金は見劣りがするが、それでも、コスト低減の努力が実を結んで購入を後押しするような価格帯で提供できるようになってきた。
ハード、ソフト両面の進化があり、軽BEVを本格的に提供できる環境が整ってきた。ようやく機は熟してきたということだろう。BEVはいまの生活にマッチしないと考える現行軽自動車ユーザーももちろんいるに違いないが、その一方で、軽BEVのほうがマッチすると感じるユーザーも一定数存在するはず。国土交通省のデータによると、令和8年3月末現在の国内の自動車保有車両数は8277万5321台(貨物車や二輪車も含む)で、このうち軽自動車は3425万4945台。構成比は41.38%であり、道路を走るすべての自動車のうち10台に4台が軽自動車だ。
全国軽自動車協会連合会によると、令和7年度(2025年度)の軽四輪車新車販売台数は168万8466台だった(貨物車を含む)。母数の大きなこのマーケットに狙いを定めない手はない。マーケティング的な観点からは攻めに転じない理由はないようにみえる。海外勢からも注目を集めているとは意外だが、生活にフィットする、あるいはフィットする可能性がありそうな軽BEVは今後、続々と登場するに違いない。
(文=世良耕太<Kota Sera>/写真=本田技研工業、ダイハツ工業、三菱自動車、webCG/編集=関 顕也)

世良 耕太
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