これがスバルの生存戦略! 最新BEV「トレイルシーカー」の工場にみる日本メーカーの生きる道
2026.06.19 デイリーコラム矢島工場で実践される次世代の生産技術
今回はスバルの工場見学……というより生存戦略についてのお話である。
2026年6月某日、記者はスバルの群馬県・矢島工場を見学する機会を得た。「フォレスター」など既存のエンジン車とともに、同社最新の電気自動車(BEV)「トレイルシーカー」と、その姉妹車「トヨタbZ4Xツーリング」を製造する工場である。今回の取材会は、本年2月に稼働したばかりの、そのラインを見るのがイベントの目玉だった。
年産100万台の規模を誇るスバルだが、その完成車の生産拠点は大きく分けて2つある。ひとつが、言わずと知れた群馬県太田市。もうひとつが米インディアナ州ラファイエットで、こちらでは現地法人のSubaru of Indiana Automotive, Inc.(SIA)が工場を動かしている。で、前者をさらに細分化すると、スバル町の本社工場と庄屋町の矢島工場がある……といった具合だ。また現在は近隣の大泉町にも完成車工場を建設中で、トレイルシーカーなどが流れる矢島の最新ラインの技術が、同工場や、ひいては米SIAにも展開されることになるという。
では、矢島工場の新ラインは何がそんなにスゴいのか? それはひとえに、高度な混流生産の実現にある。実はこのラインでは、先述のBEVに加えて、エンジン搭載車であるフォレスターの製造も想定しており、間もなく同車の組み立ても開始されるという。スバル車もトヨタ車も、エンジン車もBEVもどんと来いというわけだ。実際、見学中にもそのラインでは、異なるエンブレムを鼻先に付けたモデルが混ざって流れ、またラインの端や折り返しの箇所には、マフラーや燃料タンクなど、エンジン車の装備を組み付ける工程が挟み込まれていた。ライン上で車両を動かすハンガーも、ホイールベースの異なる車種に対応するべく、フックの位置を調整できるようになっているという。
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未来が見通せないなかでもBEVを続けるために
スバルが混流生産にこだわる理由は、変動の著しいマーケットの様相に対応するためだ。人気の車種はすぐに変わるし、しかもそれはマーケットごとにまちまち。加えて昨今の、世界的なBEV騒動だ。少し前まで「未来の自動車はBEVしかない。乗り遅れたメーカーは滅亡する」という風潮だったが、いざフタを開けたら顧客はついてこず、政府の気まぐれで需要は乱高下。BEVに(表向きだけでも)全振りした日米欧のメーカーは、どこもかしこも青息吐息……といった具合である。スバルにしても、先日、独自のBEVの開発延期を発表したばかりだ。
とはいえ、不安定ながらもBEVシフトの潮流は今も続いているわけで、なにかを契機に世相が一気に傾くとも限らない。力の入れようを調整することはあっても、BEVから手を引くというのはあり得ない選択なのだ。先が見通せず、需要が安定しないなかで、年産100万台規模のスバルがBEV事業を継続するためには何が必要か? その要件のひとつが、高度に柔軟な生産体制の構築だったというわけだ。
そもそも自動車メーカーとしては規模の大きいほうではないスバルは、歴史的に「変種変量短生産」を得意としてきた。他社の製品をラインで流していた実績もあり、1970~1980年代には「日産サニー」を本社工場で、1990年代には同じく日産の「パルサー」を矢島工場で生産。海の向こうのSIAでは、いすゞやトヨタの製品も手がけてきた(そもそもSIAは、もとはスバルといすゞの合弁工場だった)。そこで得たノウハウが、今日でも役立てられているのだ。
この矢島の新ラインにしても、トヨタとの共作であり、既存のスバル車とは構造の異なるトレイルシーカー/bZ4Xツーリングを生産するべく、旧来より工程設計を刷新。車体基準の違いに柔軟に対応し、トヨタ方式の工程順序の導入も可能なラインを構築した。部品調達に関しても、トヨタと付き合いのある中京圏のサプライヤーからの納入に対応するべく、西濃運輸と効率的な物流網を構築。集約倉庫を開設して長距離混載輸送を実現し、トラック搬送を想定の半分に削減したという。
こうして矢島で磨かれたノウハウの集大成となるのが、大泉の新工場というわけだ。
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環境の変化をチャンスに変える
太田の本社工場、矢島工場からの距離は、それぞれ4km。もともとスバルは大泉町にパワーユニット工場を持っていたが、新工場はその中身を入れ替えたものではない。隣接するさら地に、イチからつくり上げるホントの新工場なのだ。広げた風呂敷をしまうのに必死な同業他社の様子を思うに、このご時世に豪胆な……と感心せざるを得ない。その中身もかなり煮詰められていて、ラインについては混流生産による部品や工程の変化に対応するべく、それらを吸収するサブラインを設けてメインの工程を短縮&効率化。車種の違いによる工程のアンバランスを抑制するべく、仕様差の検査や各工程の自動化も推し進めるとしている。
もうひとつ力説されたのがAIの活用で、外部の状況を認知するセンサーと、実際の行動を可能とする“ロボットの体(この場合は自律走行搬送車か)”を併せ持つフィジカルAIの導入により、構内物流を知能化。いずれは物流に割く人員を50%減らしたいとのことだった。さらに将来的には各検査工程など、物流以外の領域にもフィジカルAIを導入。大仰なラインのつくり替えなどなしに、生産される製品の変化に柔軟に対応するSDF(ソフトウエア・デファインド・ファクトリー)を目指すとのことだった。仮にそのSDFが顕現し、AIが生産される各車の仕様まで管理するようになると、もはや工場からはラインという概念がなくなり、自動車の製造もマトリクス生産みたいなかたちになるのでは……なんてことをふと思った。
いずれにせよ、スバルは本稿で述べた高度な混流生産と、需要の変動を吸収する「ブリッジ生産」(同一の車種を複数の工場でつくれる体制のこと)により、高度に柔軟な生産体制をグローバルで構築。他社が「ピンチ!」と青ざめる環境の変化を、逆にチャンスにできる仕組みを整えていくつもりのようだ。
浅学ながら、こうしたフレキシブルな製造現場の施策は、母国市場の規模を頼れない日系メーカーならではの改革とも感じられた。欧米中の巨大メーカーでもアイデアとしては出るのだろうが、生存戦略の一環として、リソースを割いてまで取り組むことはないのではないか? そしてそこに、数の暴力で迫る列強を向こうに、日本メーカーのモノづくりが生き残る活路があるのではないか……なんて大仰なことを、帰路のバス内で考えてしまった。
(文=webCG堀田剛資<webCG”Happy”Hotta>/写真=スバル、webCG/編集=堀田剛資)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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