スバル・レガシィB4 2.5GT tS(4WD/6MT)【試乗記】
いつも、スポーツ 2010.08.12 試乗記 スバル・レガシィB4 2.5GT tS(4WD/6MT)……448万1400円
STIが手がけた、特別な「レガシィB4」に試乗。開発コンセプトの「Sport, Always!」をMTモデルで味わった。
中身で勝負
「レガシィ2.5GT tS」は、「レガシィツーリングワゴン/B4」の最上級グレード「2.5GT Sパッケージ」をベースに、STI(スバルテクニカインターナショナル)が手がけたコンプリートカーだ。エンジンはノーマルのまま、シャシーのチューニングと装備の充実を図ったのが特徴で、BMWの「Mスポーツ」やアウディの「Sライン」に似た位置づけである。
ただし、tSのシャシーチューニングは、単にスプリングとダンパーを変えるのではなく、「フレキシブルドロースティフナー(フロント)」「フレキシブルサポート(リア)」「フレキシブルタワーバー(フロント)」といったパーツにより、タフなボディに仕上げたところが大きく違う。つまり、MスポーツやSラインよりも手が込んでいるのだ。こうした装備によって、ハンドリング性能を一段と向上させようというのがtSの狙いである。
エクステリアの変更が少ないのも特徴のひとつだろう。専用のフロントアンダースポイラーやルーフスポイラー(ツーリングワゴン)/トランクスポイラー(B4)、そしてエンブレムだけの違いだから、これでベースモデルより70万1400円も高い限定車とは、ほとんどの人は気づかないはずだ。
通好みの味付け
一見地味なtSだが、運転席からの眺めはいつものレガシィとはまるで別の印象だ。センターパネルが明るいシルバーからブラックに変更されたのが効いている。ルーフライニングもダークカラーに。アルカンターラと本革のコンビシートや、やはりアルカンターラのドアトリム、各所に施された赤いステッチなどのおかげで、実にスポーティな雰囲気に仕上げられている。
背中をやさしく包み込む専用シートに身を委ね、レッドのスターターボタンを押してエンジンを始動。STI製スポーツマフラーがノーマルよりも少し勇ましいサウンドを発している。さっそく走り出すと、すぐに足腰の違いが伝わってきた。ベースモデルでも高いボディ剛性を誇るレガシィB4だが、tSはさらにシャキッとした印象を受けるのだ。サスペンションは少し硬めに味付けられているが、快適さが損なわれていないどころか、ノーマルモデルよりもむしろ快適なほど。さらに、重厚でフラットな身のこなしが、グランドツアラーとしての資質を大いに高めている。
一番のうま味は、レーンチェンジやコーナリングの動きに無駄がないこと。スパッと切れ込むような鋭さこそないものの、ステアリング操作に遅れることなく、クルマが向きを変えていく。この一体感こそがSTIが主張する「気持ちのいいハンドリング」なのだろう。なかなか通好みの味付けである。
大人のスポーティ
クルマとの一体感が高まったところで、さらに対話を楽しみたいなら、やはりマニュアルトランスミッションを選びたい。いまさらいうまでもないが、マニュアルならトルクコンバーターを介さないぶん、ドライバーのアクセル操作がダイレクトにクルマの動きとなって表れるし、ギアの選択も自由自在だ。手足を総動員してクルマを操る行為は、それだけでもファンである。
先に触れたように、2.5リッター水平対向4気筒ターボと6段マニュアルはノーマルのままだ。排気量に余裕があるから、1500rpm以下でも十分実用的なトルクを発生するし、2000rpmに達する前にシフトアップのサインが表示されるほどである。それに従い、こまめにシフト操作を繰り返すだけでも楽しくなってくる。当然、エコドライブにも貢献するはずだ。一方、回転を上げれば、3000rpmを超えたころから、スポーツモデルにふさわしい強力なトルクがわき出す。さらに回転を増すと、水平対向エンジンらしい目の詰まったフィーリングがスポーツ心をかきたてる。これほどの実力なら、あえてパワートレインに手を入れなくても、気持ちのいい走りが存分に味わえるのだ。高いシャシー性能のおかげで、285psと35.7kgmの性能を持て余すことなく使えるのも、クルマとの対話を深めるうえでは重要なポイントである。
走りにもデザインにも、大人のスポーティさが光るレガシィB4 2.5GT tS。この好バランスに70万円強のエクストラを払う価値は十分あると思う。いまは600台の限定生産だが、レギュラーモデルへの昇格をぜひ検討してほしい。
(文=生方聡/写真=高橋信宏)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
-
ランボルギーニ・ウルスSE(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.3 ランボルギーニのスーパーSUV「ウルス」が「ウルスSE」へと進化。お化粧直しされたボディーの内部には、新設計のプラグインハイブリッドパワートレインが積まれているのだ。システム最高出力800PSの一端を味わってみた。
-
ダイハツ・ムーヴX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.2 ダイハツ伝統の軽ハイトワゴン「ムーヴ」が、およそ10年ぶりにフルモデルチェンジ。スライドドアの採用が話題となっている新型だが、魅力はそれだけではなかった。約2年の空白期間を経て、全く新しいコンセプトのもとに登場した7代目の仕上がりを報告する。
-
BMW M5ツーリング(4WD/8AT)【試乗記】 2025.9.1 プラグインハイブリッド車に生まれ変わってスーパーカーもかくやのパワーを手にした新型「BMW M5」には、ステーションワゴン版の「M5ツーリング」もラインナップされている。やはりアウトバーンを擁する国はひと味違う。日本の公道で能力の一端を味わってみた。
-
ホンダ・シビック タイプRレーシングブラックパッケージ(FF/6MT)【試乗記】 2025.8.30 いまだ根強い人気を誇る「ホンダ・シビック タイプR」に追加された、「レーシングブラックパッケージ」。待望の黒内装の登場に、かつてタイプRを買いかけたという筆者は何を思うのか? ホンダが誇る、今や希少な“ピュアスポーツ”への複雑な思いを吐露する。
-
BMW 120d Mスポーツ(FF/7AT)【試乗記】 2025.8.29 「BMW 1シリーズ」のラインナップに追加設定された48Vマイルドハイブリッドシステム搭載の「120d Mスポーツ」に試乗。電動化技術をプラスしたディーゼルエンジンと最新のBMWデザインによって、1シリーズはいかなる進化を遂げたのか。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。