ボルボ XC60 T5 SE(FF/6AT)【試乗記】
本命登場 2010.08.11 試乗記 ボルボXC60 T5 SE(FF/6AT)……586.0万円
ボルボのクロスオーバー「XC60」に、2リッター直4ターボと6段ATを組み合わせたFF車が登場。500万円を切るエントリーグレードの走りを試す。
新開発の2リッター直4ターボを搭載
ボルボといえばワゴン、とどうしても言いたくなってしまう。けれど、そういう連想はそろそろ古いようである。ボルボは2009年に全世界で約33万5000台を販売した。そのうち一番多かったのが「XC60」で、全体の18%を超える約6万2000台を占めたという。そこにワゴンの「V50」と「V70」が続く。XC60は登場からわずか2年目にして、ボルボの看板モデルに上り詰めたのだ。
日本に話を限れば、XC60はV50とV70に続く3位にとどまった。ホラやっぱりそうじゃないか、と言いたくなるが、日本とて“世代交代”は時間の問題かもしれない。というのも、V50には299万円、V70には449万円なんていう戦略的な仕様があるのに、XC60はいずれも600万円クラスと、高価な品ぞろえにとどまっていたからだ。だから今回、ざっと100万円リーズナブルな直4ターボモデル「T5 SE」が投入されれば、勢力図が変わる可能性は大いにある。
車名は「T5」でも、搭載されるエンジンは2リッター直4ターボである。吸排気にCVVT(連続可変バルブタイミング機構)を備えるだけでなく、直噴化され、鋳物ではなくステンレス鋼板製のタービンハウジングを持つユニークなターボユニット(世界初だそうだ)を持ち、さらにはブレーキエネルギー回生システムが付くという、初物づくしの新エンジンだ。駆動方式はFF。これに同社が“パワーシフト”と呼ぶ6段のDCT(デュアルクラッチトランスミッション)が組み合わされる。
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直列5気筒あやうし
V50やV70と比べるとドライバーの視線がグッと高い、俗にいう“コマンドポジション”のシートに着き、試乗会場を後にする。そこで「あれ?」とちょっと拍子抜けする。エンジンが静かなのだ。それはもちろんいいことなのだが、ボルボの、それも「T5」ということで、筆者はどうやら無意識のうちに5気筒特有のあの「ムォー」とうなるエンジン音を期待していたらしい。
新しいエンジンは低回転からとても扱いやすい。タコメーターの針を見ていると、1500rpmを超えたあたりからトルクがじわりとわいてきて、ごくごくソフトに道の流れに乗るくらいなら2000rpm台で済んでしまう。3000rpmまで回す機会はそれほどない。欧州の小排気量ガソリンターボ車に共通する味付けだ。
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面白いなと思ったのは、DCTのシフトフィールである。ドイツ車あたりだと、ごく普通の乗用車でも変速スピードの速さをうたうケースが多く、マニュアルでシフトすると、実際に「カツン、カツン、カツン……」といい調子で変速するものが少なくない。しかしXC60のDCTはトルコンぽく、いい意味でゆったりと、余裕をもって変速するのだ。それは湿式のクラッチのせいというよりも、あえてそうセッティングしているから、だそうである。
ボルボのこの判断には賛成できる。DCTをせっかちに設定したら、このクルマの持ち味である、ゆったりとした世界のバランスが崩れかねないからだ。乗用車において大事なのは、表面的なドライビングファンよりも、むしろ駆動力の伝達効率の向上、すなわち燃費であろう。通常のトルコン付きATを使用した場合と比べて、燃費は約8%改善されているとのことだ。
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主役は遅れてやってきた
そうはいってもこのクルマ、実はフットワークもかなりいい。ステアリングが正確で、ロールもよく抑えられているだけでなく、何より6気筒モデルと比べて140kgも軽いおかげで、旋回時の軽快感が際立っている。価格のハナシは抜きにしても、この軽快感は「T5 SE」を選ぶ積極的な理由になりうるだろう。
しかもそれがボルボならではの快適性と両立されているのがうれしいところである。路面の不整に対する“当たり”がソフトでありながら、大入力には余裕を持って対処するボルボ独特の乗り心地は、まったく犠牲になっていない。また、赤外線レーダーで前方のクルマを察知して自動で衝突を避ける「シティ・セーフティ」が標準で装備される点も、実際の効果はもちろん、“心理的な居心地の良さ”にも貢献している。
単に廉価な戦略モデルという位置付けではなく、このモデル、XC60シリーズで一番の売れ筋になるような気がしてならない。主役は遅れてやってきた、ようだ。
(文=竹下元太郎/写真=荒川正幸)

竹下 元太郎
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