第974回:「民生用」と「軍用」をまたぐクルマたち――ルノーの最新戦術車両に思う
2026.08.13 マッキナ あらモーダ!ルノー4トゥループ
ルノー・グループは2026年6月16日、パリで開催された防衛・安全保障分野の国際展示会「ユーロサトリ」で、多目的戦術車両「ルノー4トゥループ プロトタイプ」を発表した。
4トゥループ プロトタイプは市販SUV「ラファール」のハイブリッド4WD仕様を基に改造を施した車両である。フランス国防省の要請を受けて、防衛機器メーカーのタレスと共同開発した。
偵察から兵站まで広範な任務をこなすとともに、移動指揮所としても機能する。電力供給システムにより、活動現場における機器のパワーバンク役も果たす。既存車両を使用することで費用を低減できるとともに、ルノーのサービス網も活用できるのが特長だ。
ルノー・グループとタレスは2025年にパリ消防局のための車両「ヴィジョン4レスキュー」で協業を行っている。一方今回のユーロサトリで、両社は遠隔操作式徘徊型兵器「トゥータティス」ドローンの開発・生産でも協力関係を構築することを発表した。ルノー・グループはすでに設計変更を通じ、ドローンの部品点数を20%、締め付け部品を40%削減することで貢献したという。
ルノー・グループの報道資料内に設けられたQ&Aコーナーの「グループは防衛産業になりつつあるのか」という設問に対しては「(防衛関連企業になることを)目指していません」と否定。「しかし現在の地政学的状況を踏まえ、国防省からの要請を受けて、グループは明確に定義された枠組みのなかで、今日の能力開発と軍事変革の課題に対処するための協業を開始しました」と説明している。さらに「支援するプロジェクトにおいて、自社の専門分野の範囲内でのみ活動しています」と続けている。
防衛産業としてのルノー
この協業は昨今のルノー・グループにとって、自社ブランドのバッテリー電気自動車(BEV)の普及が当初計画ほど進まないなか、工場の余剰設備や人材を活用できる好機であることは明らかだろう。
一方歴史的観点から眺めれば、ルノーと軍事・防衛との関係は決して驚くべきものではない。最も有名なのは、第1次世界大戦が始まった1914年、フランス政府が1300台のルノー製タクシーを徴用した逸話だろう。それらを用いて6000人の兵士をパリ郊外のマルヌ川沿いへと運び、ドイツ軍の侵攻から首都を守った。この作戦はフランス人の間で今日でも「マルヌのタクシー」として語り継がれている。また同大戦中には、画期的な軽戦車「FT-17」を開発し、フランス軍に納入した。
第2次世界大戦中のドイツによる占領下では、同国の要請のもと工場を稼働させた。そのため、創業者のルイ・ルノーはパリ解放後に逮捕されている。戦後のルノーは公団となったことから、フランスの憲兵隊(ジェンダムリ)に長年にわたり車両を納入してきた。また、1955年にスピンオフが行われた重商用車部門にまで範囲を広げれば、同社も数多くの車両を軍に納めている。
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移り気の狭間で
今回のルノー4トゥループ プロトタイプのように、世界には民需用と軍用をまたいだクルマが数々ある。
民生用から軍用が誕生した例としては、1930年代末のドイツにおける「フォルクスワーゲン(VW)タイプ1」を基に誕生した軍用車「キューベルワーゲン」と「シュビムワーゲン」がある。第2次世界大戦後の1968年「タイプ181」は、キューベルワーゲンに着想を得たものと考えるのが正しい。
対して、防衛用から民生用へ転換した代表例は、言うまでもなく米国のジープである。「メルセデス・ベンツGクラス」も、1970年代初頭に当時ダイムラー・ベンツの筆頭株主でもあったイランのパフラヴィー国王が提案した、軍用オフロードカーが発端だった。
米国に戻れば、AMゼネラルが1980年代中盤に生産を開始した多目的軍用車両「ハンヴィー」からは、民生用のハマーが生まれた。今日ではGMCがバッテリーBEVとして生産している。
こうした民生用バージョン誕生の背景を、「ミリタリーアイテムへの憧憬」として片付けるのは簡単だ。しかし陰には、ユーザーの内なる心情が隠れていると筆者は信じている。過剰なガーニッシュ、機能とは関係ないクロームパーツ、メンテナンスに手がかかる多層コート塗装といったものへの反感だ。
ルノー4トゥループは、元が市販車ゆえ、民生用が発売される確率は低いだろう。だが筆者のように、そのシンプルな容姿に心躍らされる人は多いのではないか。
もうひとつ付け加えておけば、そうした類のモデルは年を追うごとに加飾され、装備が充実し、気がつけばオリジナルのミリタリーユースから遠くかけ離れる。こうしたユーザーの移り気による変化も、これまた自動車史で繰り返されてきた事実である。
(文=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA、ルノー、GMC/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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