第971回:パンダの姉貴はヒグマ 「フィアット・グリズリー/グリズリー ファストバック」登場
2026.07.23 マッキナ あらモーダ!SUVとファストバック
フィアットは2026年7月11日、Cセグメントの新型車「グリズリー/グリズリー ファストバック」を公式動画で発表した。
Grizzlyとは北米に生息するヒグマの一種である、ハイイログマ(灰色熊)を意味する。既存車種である「パンダ」「グランデパンダ」の姉貴分にふさわしい名前といえよう。
ブランドによる説明を要約すれば、グリズリーは広さと快適さを求める家族ユーザーのためのSUV。そのファストバックはスタイル、機能性そして個性的なキャラクターのバランスを求めるユーザーのためのモデルである。
プラットフォームには「ステランティス・スマートカー(STLAスマート)」を採用。これはグランデパンダやシトロエンの「C3」および「C3エアクロス」「オペル・フロンテラ」と共通である。全長はグリズリーが4.4m、同ファストバックが4.5mで、後者のラゲッジルーム容量は最大600リッターが確保されている。
パワーユニットはガソリンエンジン、マイルドハイブリッド、電気の3種が用意される。そのうちのどれに関してかは明らかにされていないが、最高出力は145PSだという。変速機は仕向け地に応じてマニュアルトランスミッションまたはオートマチックトランスミッションが設定される。
生産は「フィアット・トポリーノ」と同じモロッコの工場が担当する。2タイプとも同じという、珍しい価格設定で市場に臨む。
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CEOが熱演
発表までの経緯を振り返ってみよう。グリズリーおよびグリズリー ファストバックは、事実上2代目「ティーポ(本欄第959回参照)」の後継車である。
2024年2月、フィアットは、のちにグランデパンダとなる新型車のコンセプト映像を公開。その際、ブランドにおける今後の展開として、「SUV」「ファストバック」の名で2台のコンセプトモデルを画像で公開した。今回のグリズリー姉妹の予告であった。
そして2026年5月21日、米国オーバーンヒルズで開催されたステランティスの投資家向け説明会で、グリズリーの名前とともに、特に欧州・中東・アフリカ・南米地域において、ブランドが最も得意としてきた手ごろで適切なモビリティーとして投入することをアナウンスしている。
そしてフィアット創立127周年の記念日である7月11日に、グリズリーとグリズリー ファストバックは発表された。当日公開された公式動画では、フィアットのブランドCEO兼ステランティスのグローバルCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)を務めるオリヴィエ・フランソワ氏が熱演している。やぼを承知で先にストーリーを説明しておくと、フランソワ氏が市役所の戸籍住民課に赴く。そして“出生届”として、姓は「フィアット」、生まれた双子の名前はグリズリー、グリズリー ファストバックで、先に生まれた兄弟にパンダ、グランデパンダがいることを告げる。筆者の調べによれば、撮影はローマの北西にある人口1万人の自治体カンパニャーノ・ディ・ローマで行われている。走行シーンも収録されているので、興味のある読者諸氏には一見の価値があるだろう(参照)。
2026年7月15日にはモロッコ工場でプラットフォームの生産開始式典が行われた。本稿執筆時点で確認できた実車の公開は、この式典での現地ジャーナリストへのもののみである。欧州ではまだ公開されていない。今後の予定としては、同年10月のパリモーターショーで一般公開され、第4四半期に発売される見通しだ。
あの伝統的フィアット需要も?
イタリアのフィアットブランド公式サイトでは、関心のあるユーザー向けに連絡先記入ページが立ち上げられている。
欧州の自動車メディアは、グリズリーの姉妹がルノーのサブブランド、ダチアの「ダスター」「ビッグスター」と競合すると予想している。またプラットフォームを共有するシトロエンC3エアクロスとも争うのではないか、といった記述もみられる。
一方、フィアットブランドの故郷トリノにおける有力販売店の責任者は、BセグメントのクロスオーバーSUV「フィアット600」より全長が大きいことを挙げ、「真のファミリー向けフィアットが戻ってくる。これは、多くのユーザーから期待されていたものだ」とグリズリー/グリズリー ファストバックに期待を寄せた。
販売の立ち上がりに関して私見を記せば、2025年秋に投入されたフィアット・グランデパンダの販売が、2026年に入ってから軌道に乗ったように、グリズリー姉妹もランキング上位に現れるには若干の時間を要するだろう。あの“ヌオーヴァ500”こと2代目「フィアット500」(1957年)でさえ、最初の2年間は――エンジンの非力さが原因だったのだが――販売不振だったのだから。
参考までにCセグメントのフィアットといえば、伝統的にイタリアでは憲兵隊を含む警察車両としても入札を通じて一定の納入実績があった。グリズリー ファストバックでもそれが実現すれば、世界を見渡してもかなりスタイリッシュなポリスカー誕生ではないか、と今から想像している。
(文、イラスト=大矢アキオ ロレンツォ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢麻里<Mari OYA>、Akio Lorenzo OYA、ステランティス、ルノー/編集=堀田剛資)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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