スズキ・ジムニー ノマドFC(4WD/5MT)【試乗記】
境界線を越えていけ 2026.09.14 試乗記 「スズキ・ジムニー ノマド」でロングドライブ。本格クロカンとして悪路での走りに定評ある「ジムニー」の5ドア・ロングボディー版は、カジュアルなSUVとしても使えるのか。多くの人が多くの時間を過ごすであろうオンロードにおける日常的シーンで、その実力を確かめた。自家用車としての選択肢
2025年1月30日に注文受け付けをスタート。5万台のオーダーが殺到し、4日後の2月3日に受注停止。ジムニー ノマドのすさまじい人気を物語るエピソードだ。インドでの生産体制を整え、受注を再開したのは1年後の2026年1月30日。混乱を招かないように、今回は先着順ではなく抽選で納期が決まる方式になった。発売日は同年7月1日に設定され、現在は順次デリバリーが行われている。
2018年に登場した現行型ジムニーはもともと高い人気を誇り、納車までの待機期間が長いことが知られていた。ラダーフレームにリジッドサスペンションを組み合わせ、パートタイム4WD機構を採用する本格オフローダーである。直接的なライバルは見当たらない。抜群の悪路走破性は世界から高く評価され、1970年にデビューした初代からの世界累計販売台数は350万台を超える。軽自動車規格から始まったジムニーは小型車の「ジムニーシエラ」へと発展し、ラインナップを広げていく。簡素なしつらえの初代モデルからすれば、はるかに乗用車的な資質を備えるようになってきた。
それでも自家用車として購入するのをためらってしまうのは、3ドアがひとつの理由だったのだと思う。だから、5ドアのノマドは福音となった。切実に待ち望まれていたモデルである。「ジムニーは欲しいけど、子供を後ろに乗せるのに3ドアはちょっと……」という人に、初めて現実的な選択肢ができたのだ。コンパクトSUVが売れ筋になっているなかで、ほかのモデルとは一線を画す強烈な個性を備えている。「普通のSUVとして使えるジムニー」ならば買ってみたい。そう考えたのは自然なことだ。
受注再開にともなって仕様変更が行われ、安全機能や快適装備がさらに充実した。衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱抑制機能などが標準装備とされたのは朗報である。足まわりやパワーユニットはシエラと基本的に共通であり、悪路走破性は折り紙付きだ。すでにオフロードコースでの試乗会が行われており、タフな走行性能が報告されている(参照)。よって今回は、一般道路でのテストをメインとした。乾燥した平坦な舗装路を走るので、副変速機は「2H」に固定して4WD機構は使わない。カジュアルなSUVとしての性能や日常使いを検証することになる。
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アドバンテージは荷室の広さ
5ドア化にあたって、ホイールベースが340mm延長されている。後席と荷室に十分なスペースを確保するための変更だ。パッと見てジムニーだと分かる外観だが、フロントドアも含めて大きく変えられている。全長も長くなって間延びした印象を与えてしまいかねないところを、うまくまとめて破綻をみせない匠の技だ。統一感を演出したデザイナーの仕事に敬意を表したい。
コックピットはオフローダーらしい機能優先のデザインが好ましい。メーター内のマルチインフォメーションディスプレイがカラー化されたものの、大型パネルでダッシュボードが占領される今どきの流行とはずいぶん違う。センターにはエアコンの操作ダイヤルやパワーウィンドウ、ヒルディセントコントロールなどの物理スイッチが並ぶ。いずれも大型で、使いやすさが最優先されている。
1.5リッター直4エンジンは、最高出力101PS、最大トルク130N・m。パワフルとはいえないが、日常使いには十分な数値だ。試乗車はMT仕様だったので、回転数を上げてからシフトアップすることで加速力を高めることができる。ホイールベース延長の恩恵なのか、せわしないピッチングに悩まされることはなかった。最小回転半径はシエラの4.9mに対し5.7mとなっているが、不便を感じるほどではない。
ノマドの大きなアドバンテージは、荷室の広さだと言っていい。これもホイールベースを延ばしたことによるメリットで、シエラの59リッターを大きく上回る211リッターを確保している。4人乗車で旅行に出かけることが可能になっているのは大きく、ファミリーカー用途もみえてくる。
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やはり出自は隠せない
ノマドの登場でジムニーユーザーの裾野が広がったのは間違いない。マニア向けのニッチなモデルと考えられていたのが、アウトドアでの高い性能を合わせ持つSUVへと進化し、そこで多くの人の目に留まった。だからこその人気なのだろう。これまでになかったタイプのクルマなのだが、誰にでも勧められるかと問われると困ってしまう。ノマドはやっぱりジムニーであり、普通の乗用車ではない。甘い考えでは、あとでしっぺ返しを食うことになる。
コンパクトSUVでは「ホンダ・ヴェゼル」や「トヨタ・ヤリスクロス」などが売れ筋になっており、スズキにも「フロンクス」がある。いずれも快適性や利便性に配慮されていて、日常での使い勝手がいい。市街地では小回りが利いて乗り心地がよく、燃費がよくて経済性にも優れている。高速道路を静かに巡航できるから遠出も得意だ。余裕のある最低地上高で、4WD仕様なら雪道でも安心して走行できる。岩場や林道を走るケースはほとんどなく、多くの人はキャンプ場に行ったりスキー場に行ったりするときに、ラストワンマイルの砂利道や雪道を通るだけ。ならば、FFベースのコンパクトSUVで何の問題もない。
ノマドは軽ジムニーやシエラよりも日常に寄せたクルマだが、出自を隠すことはできない。ラダーフレームにリジッドサスペンションという古典的な構成で、モノコック構造とは基本が異なるのだ。普通の乗用車にしか乗ったことがなければ、その独特なハンドリングテイストに違和感を覚えるかもしれない。悪路を走ることを想定して低速域を重視した結果、爽快な加速感を楽しむことは難しくなった。
MTなら運転を楽しめるかというとそうでもなく、スポーツカー的なシフトフィールとは大違いだ。エンジンの回転数を高めると、騒音はそれなりのレベルで車内に入ってくる。後席はスペースが確保されてはいるものの、座面が短いから長時間座っているのは遠慮したい。
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安直に選んではいけない
ならば、ノマドは本格オフローダーでも乗用車的SUVでもない中途半端なクルマなのか。そうではないと思う。確かに、主流となっているコンパクトSUVの完成度を基準にすると、見劣りする部分があることは否定できない。でも、そこに文句をつけるのはお門違いである。ノマドはあくまでジムニーなのだ。実用性だけを求めてどうする。圧倒的な悪路走破性を得るためには、犠牲にする要素もあるだろう。スポーツカーだって、アウトバーンで300km/h出せる性能を確保するために乗り心地や居住性を最優先事項とはしていない。同じことではないか。
それは、パタゴニアが単に丈夫なアウトドアウエアを販売するのではなく、「消費社会に距離を置き自然の中で生きる人」という人物像をイメージさせる姿勢とも似ている。ノマドを「よくできた万能SUV」だととらえると、評価を誤ることになるだろう。「ジムニーというブランドを本来の顧客層よりはるかに広いところまで拡張したマーケティングの成功作」だと考えれば、ノマドの魅力が鮮明に浮き上がってくるはずだ。人気があるみたいだから乗ってみよう、などと安直な理由で選ぶべきクルマではない。
1980年代に、ドゥルーズ/ガタリが提唱した「ノマドロジー」という言葉が流行した。ノマド(遊牧民)のように定住性を拒んで境界線を越えながら変化し続ける思考のスタイルを意味する。ジムニー ノマドは、舗装路によって規定された自動車の領域を越境するための機械なのではないか。「なぜ現代のSUVは、これほどまでに快適性と効率を要求されるのか」「クルマは移動手段として合理的であるべきなのか」という問いを投げかけてくる。
SUV人気に流されるのではなく、覚悟を持ってジムニー ノマドを選びたい。めったに使わない性能を所有する意味を理解するものだけにその資格がある。ただ、今も解消していないのが待機期間だ。注文してから1年は待たないと手に入らないらしい。太陽の位置で時を測っていた遊牧民のように、ゆったりとした気持ちで待つのがいいだろう。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=スズキ)
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テスト車のデータ
スズキ・ジムニー ノマドFC
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3890×1645×1725mm
ホイールベース:2590mm
車重:1200kg
駆動方式:4WD
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:101PS(74kW)/6000rpm
最大トルク:130N・m(13.3kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)195/80R15 96S/(後)195/80R15 96S(ブリヂストン・デューラーH/L 852)
燃費:14.9km/リッター(WLTCモード)
価格:292万6000円/テスト車=313万3240円
オプション装備:ボディーカラー<セレスティアルブルーパールメタリック>(0円)/バックアイカメラ付きディスプレイオーディオ・スズキコネクト対応通信機装着車(12万8700円) ※以下、販売店オプション フロアマット<ジュータン>(2万4200円)/ドライブレコーダー(3万8940円)/ETC車載器(1万5400円)
テスト車の年式:2026年型
テスト開始時の走行距離:1115km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:365.6km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:13.3km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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